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「ただいま」


その晩、公一が帰宅したのは23時を回ってからだった。


夕食の時間はとっくに過ぎているが、接待などではないため、ずっと飲まず食わずの状態で空腹も限界にきている。


「お帰りなさい。遅かったのね。ご飯にする?それともお風呂にする?」


深雪が笑顔で出迎え、お馴染みの台詞を言う。


この言葉を聞くだけで、本当に結婚して良かったと思う。


お約束だと「それとも私?」とつくはずだが。


「先に風呂に入ろうかな」


「わかったわ。さっき入れたばかりだから、すぐ入れるわよ。ほら、鞄とスーツ頂戴。ネクタイも」


深雪は甲斐甲斐しく世話をやき、鞄を預かってスーツもハンガーにかけてくれる。


それくらいは自分でできるが、せっかくなので甘える事にした。


「上がったら、ビール飲むでしょう?着替えは脱衣徐に置いてあるから」


「あぁ、ありがとう」


ワイシャツを脱いで洗濯機に入れると、熱い湯に体を沈める。


「はぁ……。疲れた」


思わず深い溜め息を吐く。


あの後は結局、プレゼントを考える余裕がなかった。


取引先との雑談で、軽く妻には何をプレゼントしているのかと聞いてみたが、あまり参考にもならなかった。


年配者は誕生日プレゼントなんて久しく上げていないし、貰ってもいないと言い、同世代は毎年リクエストがあると言っていた。


物は大体が家電製品やバックなどで、中には一緒に旅行に行くと言っていた人もいた。


「家電なんか、生活必需品だしな……。やっぱりリクエストが良いよなぁ」


物欲がないのも困りものだ。


もう一度だけ、何かないか聞いてみよう。


リビングから聞こえる、何かを炒めている音を聞きながら、改めてそう思った。


風呂から上がった公一は、タオルで髪の毛を拭きながらリビングに戻った。


テーブルには2人分の夕食がセッティングされており、出来立ての湯気をたてている。


「あれ?先に食べなかったのか?」


「うん。1人で食事をしても美味しくないでしょう?待ってたのよ」


今日の献立は和風らしい。


煮魚に野菜炒め、それと味噌汁と炊き込みご飯。おかずには冷奴と煮豆だ。


「美味そうだな」


「今日は魚が安かったの」


椅子に座ると、すかさず冷えたビールが差し出された。


「ありがとう。深雪もたまには飲んだら?」


「でも、もう遅いから。私はこれを飲むから大丈夫」


「なんだ?それ」


「ルイボスティー」


よくわからないが、お茶らしい。


冷たいビールを胃に流し込むと、早速プレゼントのリサーチをしようと口を開いた。


「あの」


「今日ね、優さん達から連絡があったの」


先に深雪が話を始める。


「えっ。なんだって?」


「飲み会のお誘いよ。あぁ、長女さんとキャリアさんと、陽子さんと飲んでたんですって。それで、私も来ないかって誘ってくれたの」


そう言えば出る時に、そんな話をしていたのを思い出した。


瑞穂はまだしも、未だに彼女達と交流があるのは意外だった。


「行っても良かったのに」


「うん……。でも夕飯の支度をしている最中だったから。でも、まだ私の事を覚えていてくれたのが嬉しかったわ」


そう言う深雪は、本当に嬉しそうだった。


思えばあの時も、バレたら自分に叱られるのはわかっていたはずなのに瑞穂を呼んだ。


昔みたいに、友達と食事をしたり、遊びにいきたいのだろう。


そう考えた時、はっとした。


何も、プレゼントは品物でなくても良い。


深雪が喜べば、そこに自分がいなくても良いのだ。


「俺の事は気にしなくて良いからさ。今度また誘われたら、遠慮しないで行ってくると良いよ。陽子──瑞穂さん達にも会いたいだろ?」


「良いの?嬉しい。じゃあもしまた誘ってもらえたら、行ってくるわね!」


友達との楽しい時間。


これならば深雪が今持っていないものだし、きっと満足してくれるだろう。



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