3
「私だったら、迷わず欲しいものをねだっちゃうのに」
「俺だってその方が良いんだ。似合うものを考えるのは、ハードルが高いんだよ」
「でも社長なら、深雪ちゃんの好みはよくわかってるんじゃないですか?それに寄せて、持っていないものをプレゼントすれば──」
「好みはわかってるけど、選ぶとなると別だ。 しかも、びっくりする程良い物をなんて言ったし 」
「確かに、自分でハードル上げてましたもんねぇ。じゃあ、服とかはどうです?」
「お前は、彼氏から服もらって嬉しいか?」
「正直あまり。自分の着る服は自分で買いたいですね」
「だろ。だとすれば、アクセサリーくらいしか思い浮かばないんだよ。店に見に行くのは苦手だし、そもそも時間もないからなぁ」
溜め息を吐き、モニターを見る。
本当なら、こうやってサイトを見ている時間もあまりない。
それくらい、今の時期は多忙なのだ。
幸い時間は取れたが、あと1時間もしないうちに会議があり、20時頃まで予定はびっしりだ。
しかも猶予はギリギリまで使っても6日程しかない。物によっては早くに予約したりオーダーしなければならないのだ。
「やっぱり男の人は、プレゼントを考えるのは大変なんですねぇ。社長はマメだから、得意そうだと思ってましたけど」
「マメではあるが、得意ではない。あぁ……本当に困った」
呟き、無意味にマウスをスクロールさせる。
その時、ふと気づいた。
瑞穂ならば、同じ女だし、深雪と趣味も似ている。
彼女ならば、深雪が好きなもの──は未だしも、深雪に似合うものは選べるのではないかと。
「あのさ」
「はい?」
「明日にでも一緒にデパートに行って、選んでくれないか」
「え!?」
叫ぶと、瑞穂は目を丸くする。
「一緒にって、社長と一緒にデパートに行けって事ですか?」
「あぁ。秘書が社長のお供をするのはおかしくないだろ?」
「それはそうですが……。お断りします」
妙にきっぱりと断られてしまった。
てっきり、嫌々でも付き合ってくれると思っていた為、その答えは意外だった。
「自分の誕生日プレゼントを、他の女が選んだなんて知れたら大変ですよ」
「他の女って……。何も、浮気相手に頼んでるとかじゃないんだぞ」
それに瑞穂は深雪の友人だ。仮にバレたとしても、怒ることはないのではないか。
「男の人は鈍いですね。じゃあ逆に考えて下さい。深雪ちゃんが社長のプレゼントを、例えば新道君と一緒に選びに行って、実は新道君が決めたものだったって知ったらどう思いますか」
「……」
言われた通り、考えてみる。
昔ならば何とも思わないかもしれないが、今はあまり気分が良いものではない。──いや、悪いかもしれない。
「それは、あまり良くはないかもしれないな」
「つまり、そういう事です。アドバイスくらいはできますが、ご一緒する事はできません。──そんなに悩まれるなら、もう一度深雪ちゃんに聞いてみたらどうですか?」
「あぁ……。そうだな。そうしてみるよ。ありがとう」
苦笑いしながら呟くと、瑞穂はまた驚愕の表情を浮かべた。が、すぐに笑みを浮かべ、一礼して去っていった。
「陽子!大丈夫だったか!?」
秘書室に戻ると同時に、優とさゆりが駆け寄ってきた。
「随分長かったわね。怒鳴り声はしなかったけれど……。何をしちゃったの?」
どうやら彼女達は、瑞穂が社長に叱責を受けていたと勘違いしているらしい。
確かに瑞穂も呼び止められた時は、それを覚悟した。
社長が社員を呼び止めるのは、ほぼほぼ叱責の場合だからだ。
「大丈夫です。まぁ、ちょっと怒られたけど、全然平気ですから」
深雪の事を知っているとはいえ、今の話題をバラすわけにはいかないだろう。
社長はあくまでも、瑞穂を深雪の友人として──公一として相談してくれたのだから。
加えて、その事で少なからずとも自分が社長から特別扱いされているという自覚もある。
家に遊びに行った事もあるし、仕事でも無闇に怒鳴られる事はなくなった。
恐らく深雪の友人だからと、大目に見られている所もあるのだろう。
「それなら良いけど。そうだ、今日の夜飲みに行こうか」
「それは良いわね。今日なら私も付き合うわ」
社長の説教は女男構わず怖い。きっと慰めてくれようとしているのだろう。
「ありがとうございます。じゃあ、久々に行きましょうか」
「無駄口を叩いている暇があるのか?」
いつの間にか後ろには社長が立っており、厳しい目でこちらを睨んだ。
2人は慌ててデスクに戻ると、仕事を始める。
瑞穂と目が合うと、少しだけ気まずそうな表情を浮かべて目を反らした。
「打ち合わせをしてそのまま直帰する。──無駄な残業はしないようにしろ」
それはつまり遠回しに、定時で帰って良いと言っているのだろう。
「はい。かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
瑞穂は2人に見えないように笑みを浮かべ、深々と頭を下げた。




