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あれは昨夜の事だった。
パソコンのスケジュールカレンダーを見ていると、来週の日曜日にマークが入っている事に気づいた。
初めは、何か祝日が重なっていただろうか程度の軽い気持ちでアイコンにカーソルを合わせた。
そして表示されたのは【家族の誕生日】という文字だった。
一瞬、自分で入力したにも関わらず、何故名前ではなく家族と入っているのかと疑問を抱いた。
だが、万が一誰かに見られても良いように、敢えてそう入れたのだと思い出した。
誕生日の事をすっかり忘れていた。
記憶力が良い事だけが自分の取り柄なのに、大事な家族の誕生日を忘れていたなんて。
しかし、過ぎる前で良かったと思いつつ、食器洗いをしている深雪に声をかける。
「もうすぐで誕生日だね」
深雪はお湯を止めると、手を拭きながら振り向いた。
「誕生日?誰の?」
「深雪のに決まってるじゃないか」
まさか、自分の誕生日を覚えていないのだろうか。
そんな事はあり得ないと思ったが、あの表情から本当に忘れていたらしい。
「あ!そう言われればそうね。すっかり忘れていたわ」
「……」
これでも付き合いはじめてから4年間、毎年ないセンスから捻り出してプレゼントを渡しているのに、楽しみにしてくれていなかったのが少し不満だった。
だが深雪はもともとそんな女だからと思い直す。
「プレゼント、何が良い?さすがに今からじゃ、旅行とかは難しいけど」
去年は深雪のリクエストで、奈良京都へ行った。
国内で、しかもすぐ近くの所に一体何をしに行きたいんだと聞いたが、中学の時に行けなかった修学旅行のルートだったと聞いて納得した。
どうやらテレビで修学旅行の内容を放送していたらしく、今からでも気分を味わいたくなったというのだ。
修学旅行のお決まりになるだけあり、奈良も京都も立派な都市だった。
公一も小学校の時に行ったきりだが、あの時は大仏も清水寺も全く興味がなかった。しかし、大人になると違う。
一度見たはずの銅像や風景はどれも素晴らしく感じ、観光名所を回らずにゲーセンやカラオケに入り浸っていた昔の自分を後悔した。
勿論深雪は喜んでくれたが、結局の所一番楽しんでいたのは自分の方だったのだ。
「でも、国内なら多分、なんとかなるかな。北海道にでも行ってみようか」
深雪がもしも高校に行っていたら、修学旅行は北海道か沖縄辺りだっただろう。
どちらも公一は未経験だ。
今から連休を取るのは難しいが、1泊2日でも、あちこち見て回れるだろう。
「北海道は良いわね。一度行ってみたいと思っていたの。だけどせっかく行くなら、1週間くらいお休みがないと」
「1週間?北海道を1周するつもりなのか?」
思わず苦笑いを浮かべる。しかし深雪は至って真面目な顔で答える。
「北海道の広さを知らないの?1週間くらいなら、函館と小樽と札幌と──旭川くらいしか、まともに見られないらしいわよ」
「まさか」
公一の感覚では、有名都市──函館、小樽、札幌、旭川、帯広、網走、釧路、稚内辺りまでは行けるだろうと思っている。
「本当よ。親戚に北海道の人がいたの。場所にもよるらしいけど、観光に1日移動で1日くらい見ておかなきゃならないって」
確かに北海道は広い。移動に1日かかるのは予想外だったが。
だがそれなら、確かに長期で休みを取らなければ難しい。
「じゃあどこか近場にでも──。いや、旅行じゃなくても良いか。何か欲しいものとか、食べたいものは?」
「うーん」
深雪は眉を寄せると、小さく唸って考え込む。
「特にないのよね。普段の生活で充分満足できているし。欲しいものも、特にないの」
「そんな事あるか?1つくらいあるだろ?欲しいもの」
「じゃあ、ケーキはローズハウスのイチゴのデコレーションが良いかな」
「それはわかった。予約しておくよ。それよりプレゼントは」
誕生日がケーキだけなんて寂しすぎる。
自己満足かもしれないが、やはり年に一度の誕生日なのだから、喜ぶ顔を見たい。
深雪は少しだけ困ったように笑った。
「公一がくれるものなら、なんでも嬉しいわよ。あ、そうだわ。じゃあ今年は、公一が私に似合うと思うものを頂戴。アクセサリーでも服でもなんでも良いから」
「俺が選ぶのか?」
「そう。私の為に考えてくれる時間ってプライスレスよね。それが一番嬉しいから」
言わんとしていることはわかるが、それは公一にとって一番難しい事だ。
これが欲しいと数万のものをねだられるより、1万円で似合うものを選んで欲しいと言われる方が厳しいのだ。
深雪はそれをわかっているのか『公一が選んだもの』が欲しいと言う。
「わかったよ。じゃあ今年は俺が考える。びっくりする程良い物をやるからな。期待しといて」
「うん。楽しみに待ってるわね」
そうして今日に至る。




