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ある日、公一は社長室に閉じ籠り、パソコンの画面をじっと見つめていた。
今までどんなプレゼンでも、取引先に提示する条件でも、こんなに悩んだ事はない。
パソコンのモニターには資料やグラフではなく、きらびやかなアクセサリーがずらりと並んでいる。
マウスでスクロールをしながら、永遠に続くのではないだろうかと思うほどの画像を睨み続ける。
画像の下には0の数が異常に多い数字が記載されているが、この際値段はどうでも良い。
この無限に続く画像の中から、適切だと思うものを選び抜かなければならない。
これはある意味勝負なのだ。自分と、妻との。
「くそっ……。一体何が良いんだ?全くわからない」
無意識に独り言を呟いていると、隣の部屋に続く側のドアがノックされた。
「失礼致します。よろしいでしょうか」
「あぁ」
生返事をすると、ドアが開き、トレイにコーヒーを乗せた陽子が一礼して入ってきた。
「コーヒーをお持ち致しました。それと、専務が確認頂きたい資料があると」
「あぁ、そこに置いてくれ」
マウスのカーソルを回しながら答えると、陽子は「かしこまりました」と近くに寄り、いつもの場所にコーヒーと資料を置く。
その時ふと、陽子がつけているアクセサリーに目がいった。
耳にはイヤリングだろうか。控えめな一粒ダイヤがあしらわれており、首には同じくシンプルなネックレスを下げている。
女のことは女が一番詳しい。
それに陽子ならば、この相談相手に適切だと思った。
「では、失礼致します」
「待て」
ドアを開けて立ち去ろうとする所に声をかける。
公一が社員を呼び止めるのは、基本的に叱責の時だけだ。
長年働いてきた瑞穂もそれをわかっている為か、体が強張っている。
「──何か」
「話がある。ドアを閉めてこちらへ来い」
「は、はい」
ゆっくりドアを閉めると、ぎこちない動きでこちらへやって来た。
「何故そんなに離れている?もっと近くに来い」
「はい……」
僅かに、手が震えている様に見える。
公一は軽く眉を寄せると「これを見ろ」と、パソコンのモニターを向けた。
「社長……こちらは?」
「見てわからないのか?ハリーなんとかの公式サイトだ。お前ならばどれを選ぶ?」
瑞穂は目を丸くしたまま固まっている。
「それはあの、何か意図があるのでしょうか?」
「勿論だ。もうすぐ妻の誕生日なんだが、何をプレゼントすれば良いのかが全くわからない。お前ならばどれを選ぶのか」
「奥様の、プレゼントですか」
呟くと、恐る恐るモニターを覗きこんだ。
「ハリー・ウィンストンですか。申し訳ありませんが、私はこんなハイジュエリを買う事なんてありませんので」
「持っているかどうかを聞いているんじゃない。好みを聞いているだけだ」
「はぁ……。好みは人それぞれなので──。奥様はどんな方なのですか?好きな色や、普段のアクセサリーは」
そう問われ、公一は眉を寄せる。
「どんな方?お前、何を言っているんだ?」
深雪と瑞穂は、仕事を辞めた今もプライベートで交流を持っている程仲が良い。
しかも以前はうちに遊びに来たこともあり、2人が夫婦だという事を誰よりも認識しているはずだ。
公一が睨むと、瑞穂は暫し何故怒られたのかわからないといった顔をしていたのか、不意に「あっ」と声を上げた。
「深雪ちゃんの誕生日プレゼントですか!」
「お前は──。もう良い。聞き方を変える」
深雪の友人としてアドバイスを求めるのだから、こちらも切り替えなければならない。
軽く咳払いをすると、改めて「これを見て欲しいんだ」と頼んだ。
「もうすぐ、深雪の誕生日なんだよ。何かプレゼントしたいんだけど、何を買えば良いのか全然わからないんだ。深雪の好みは知ってるだろ?どれなら喜ぶと思う?」
通常モードで問うと、瑞穂も緊張が解れたのだろう。
まじまじと画面を見つめ、苦笑いを浮かべる。
「多分、ハリー・ウィンストンには深雪ちゃんが好きそうなデザインはないと思います。深雪ちゃんは、どちらかといえばシンプルなデザインが好きですよね?このブランドはちょっとデザインが独特というか」
「シンプルなデザインってなんだ?まさかティファニーだなんて言うんじゃないだろうな」
ティファニーが有名ブランドなのは知っているが、金に余裕がある立場では少し安すぎる気がした。
「まぁ、大事なのは金額より気持ちですよ。本当は一緒にお店に行って、好きなデザインのものを買うのが一番だと思いますけど」
言いながら、ちらりと公一を見る。
「そんなのは、俺もよくわかってるよ。だけどいらないって言われたんだ」
「え?何をですか?」
「何をって言うか……プレゼントそのものだよ」




