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その日、幸いにも公一はいつもより早く帰ってきた。
夕食の下拵えも済ませ、女性は入れ代わりに帰っていく。
「今日は早かったのね」
「あぁ。出先から直帰したんだ。夕食にはまだ早いよな。先に風呂に入るか?」
「まだ良いわ。それより話があるの」
ビールを飲む公一を呼びつけると、目の前で松葉杖を使って立ち上がる。
「どうしたんだ?トイレか?それなら俺が連れていくから歩いちゃダメだ」
「違うわ。見てよこれ」
松葉杖を使い、少し離れたキッチンまで歩いて見せる。
「ちゃんと歩けるでしょ?立っているだけなら痛くないし、洗濯くらいなら私もできるわ。だからもうハウスクリーニングの人は大丈夫だと思うの」
細かな掃除はできないが、ワイパーで拭き掃除くらいならばできる。
しかし公一は眉を寄せて首を振る。
「駄目だよ。まだ痛むんだろ?松葉杖なしで歩けるなら未だしも、無理をして傷が開いたらどうするんだ」
「そんな激しい動きなんかしないわよ。ちょっと掃除や洗濯をするくらいでしょ?それなら私一人で平気だから、もう契約は──」
「あの人が気に入らないのか?それなら別の人に変えてもらうけど」
「違うわよ。そんな事言ってないじゃない」
彼女は充分過ぎるほどよくやってくれている。
誤解をされておかしなクレームを入れられたら大変だと、慌てて否定する。
「原市さんはよくやってくれているわ。彼女が嫌だって意味じゃないの」
「へぇ。あの人、原市さんっていうのか」
毎日顔を会わせているのに、名前を知らなかったらしい。
「他人が家の中にずっといると落ち着かないのよ。自分でトイレにも行けるし、一人で家でのんびりしていたいの」
「でもなぁ。うーん」
公一は小さく唸る。
「じゃあ回数を減らすのはどうだ?今は週5だから、週3にするとか。いくら歩けても本調子じゃないんだし、買い出しもできないだろ?」
「そんなの通販とかネットスーパーを使うわよ」
「最近はネットスーパーとかも混んでるからね。毎食インスタントってわけにもいかない。週3くらいならそんなに負担もないんじゃないか?」
「……」
確かに毎日でなければ、まだ我慢できるかもしれない。
暫し考えると「じゃあ週2で」と答えた。




