17
「あー!イラつく」
ソファに横になると、恨めしそうに外を睨み付ける。
久々に公一と大喧嘩をしてしまった。
足の傷も痛むし、これも全て香ヶ崎のせいだ。
アイツとの事がなければ、仮にGPSの件が露見したとしても、ここまで公一を責め立てる事はしなかっただろう。
少なくとも昔の口調にはならなかったと思うし、口調が違えば公一もキレる事はなかったかもしれない。
「やばい、どうしよう」
こんな時に鍵って、急にトイレに行きたくなってきた。だが今は、自由に歩き回る事ができない。
公一に頼もうかと思ったが、今はきっという事は聞いてくれないだろう。
「仕方ない……。なんとか自分で」
怪我をしていない方の足を床につけ、立ち上がる。
このまま片足でケンケンをして行こうか。それとも強い力を入れなければ歩けるだろうか。
前者には自信がなかった為、恐る恐る足に力を入れた。
「ギャーっ!」
その瞬間激痛が走り、悲鳴を上げてその場に転倒してしまった。
「深雪!?」
それにはさすがの公一も寝室を飛び出し、慌てた様子で抱き起こしてくれた。
「何やってんだよ!?」
「歩こうとしたら、びっくりするほど痛かったの!」
しがみつくと、公一はため息を吐き、穏やかに問う。
「暫くは俺がやるよ。何が欲しかったんだ?」
「──レ」
「なに?」
「トイレに行きたいの」
俯きながら呟くと、小さく笑ったような声がした。
「ほら、連れていってやるから」
抱き上げられ、トイレに連れて行ってもらう。
深雪は首にしがみつくと、小さな声で「さっきはごめんなさい」と呟いた。
「いや……。もとはと言えば俺が悪かったから。ごめんな」
これからは暫く公一の手を借りなければ生活できない。
それに、香ヶ崎なんかのせいで夫婦関係が危うくなるのも許せない。
あれだけ派手にぶちのめしたのだから、さすがの香ヶ崎もこちらに手出ししないだろう。
そう思いながらふと窓を見た時、黒い袋が落ちていくのが見えた。
忘れていた。
香ヶ崎は公一の事を諦めただけで、嫌がらせの対象が逆になっただけなのだ。
「どうしたんだ?」
公一は気づいていない。
「あのね、お願いがあるの」
「なに?」
「毎朝必ず、バルコニーの掃除をして欲しいの」
「え?バルコニーを?わかった」
今度は公一が奴の嫌がらせを受ける番だ。
そして次こそは、もう二度と自分達には関わりたくないと思うほど叩きのめしてもらいたい。
自分に対しての悪意だけならば、公一もキレたりはしないだろう。
投下され続ける袋を見ながら、深雪は深い溜め息を吐いた。




