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「深雪!どこだ!?返事しろっ」
現れたのは公一だった。
まさか公一がここに来るとは、さすがの深雪も予想外だ。
慌てふためき、足元に転がるタバコを急いでもみ消す。
公一はこちらに駆けて来ると、床に転がる3人の男と香ヶ崎の姿を捉え、拳を握り締めて吠えた。
「香ヶ崎!テメェ………深雪に何してやがる!?」
その目は誰が見ても、キレている。
これは、落ち着かせなければ大変な事になってしまう。
深雪は手を放し、慌てて振り返る。
「私は無事だから落ち着いて!な、なんでここにいるの?」
有り得ない。
深雪がここに連れ去られたのは、深雪本人ですら予想外の事だ。
それを、会社に行っていたはずの公一が知っているわけがない。
「おい、香ヶ崎!深雪から離れろ!!」
だが公一には問い掛けに答えている余裕はない様だ。
大股で近付くと、今にも噛み付きそうな目で睨んでいる。
これから起こりうるであろう可能性を考え、血の気が引いた。
公一は昔から、怒る事はあっても、キレる事はなかった。が、その代わり一度爆発してしまうと手がつけられないのだ。
昔はただ、警察に補導されるだけで済んでいたが、今は違う。
間違いなく傷害罪で捕まってしまう。
「ね、ねぇ………公一。お願いだから落ち着いて。私は大丈夫だから………ッ!?」
刺激しない様、優しく問いかけて歩み寄る。
しかしその瞬間、足に物凄い激痛が走り、バランスを崩して倒れてしまった。
「深雪!?」
頭上から、公一の叫び声が聞こえる。
どうやら油断した隙に、足を切りつけられてしまったらしい。
しかし、それに気づいたのは、香ヶ崎に捕らえられて喉元に鋭く光ったナイフを押し当てられた後だった。
「香ヶ崎!テメェ何してんだよ!せっかく私が止めたのに!バカじゃねぇのかっ」
思わず怒鳴る。
こっちは公一を落ち着かせようと必死に宥めているのに。
後先考えずに行動を起こす香ヶ崎に、無性に腹が立った。
なぜ完全に被害者である自分が、加害者に気を使わなければならないのだろうか。
深雪の首筋に光るナイフを見たとたん、明らかに公一の表情が変わった。
それを見た瞬間、諦めた。
もうだめだ。
自分では庇いきれない。
この状態の公一を止める事は出来ない。
深雪は思考を切り替えた。
香ヶ崎は間違いなく重傷を負う羽目になるだろう。
今一番に考えなければならないのは、事件を未然に防ぐ事ではなく、如何に証拠を残さず、公一を安全に逃がすかだ。
しばらく、またアメリカに行くしかないだろうか。
香ヶ崎はヒートアップし、公一を見つめながら声を荒立てた。
「なぁ、そろそろ目ぇ覚ましてくれよ。こんな女、お前には不釣り合いだ。似合わねぇよ!」
公一は黙って拳を握り、香ヶ崎を見つめている。
その腕が、僅かに震える。
「この女がいるから悪いんだろ?この女が死ねば、お前の目も覚めるはずだろ」
くらりと目眩がした。
このままでは、香ヶ崎は殺されてしまうかもしれない。
異常なまでに意識が研ぎ澄まされ、冷静に考えている自分に驚いた。
その瞬間、ナイフを持った香ヶ崎の手に、力がこめられた。と同時に公一は駆け出す。
しかしその腕は、無残には空を切っただけだった。




