表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼の友人は彼女の敵  作者: 石月 ひさか
ライバル
28/90

8

覚束ない足取りでなんとか店を出ると、掴まれている腕を引き返す。


「ねぇ、待ってってば。何もそんなに急がなくてもいいじゃない」


酔っている状態なのに、そんなに早く歩けるわけがない。


高いヒールを履いてきた為、途中で何度か転びかけてしまった。


公一は振り向くと、店の入り口を一睨みし、深い溜め息を吐いた。


「あぁ、さすがに追っては来てないみたいだな」


「なに?どうかしたの?」


どうやら切り上げた理由は他にありそうだ。


車を停めたという駐車場へ向かう。


「さっきのあれ、どうしたの?まるで逃げるみたいじゃない」


公一は奴の二面性には気付いていないはずだ。


もしかしたら、自分が寝ている僅かな時間に、なにかあったのだろうか。


しかし公一は、相変わらず渋顔のまま、口を開こうとしない。


「ねぇ、ちょっと」


「やっぱり、駄目なんだよ」


駐車場の看板が見えた所で、やっと公一は口を開いた。


「駄目って、何が?」


「アイツ。香ヶ崎だよ」


「香ヶ崎の事、嫌だったの?」


意外な言葉に目を丸くする。


深雪の記憶が正しければ、2人はそれなりに仲が良かったはずだ。


公一は目を伏せ、また、溜め息を吐いた。


「深雪は、知らないかもしれないんだけどさ。──いや、知らないであって欲しいよ」


「何が?気になるじゃない」


意味深な物言いに、眉を寄せる。


自分の知らない所で、一体何があったのだろうか。


公一は隠しきれないと観念したのか、何度目かの溜め息混じりに呟いた。


「昔──って言ってもまぁ、10年も前の話なんだけど」


話を切り出したものの、なかなか先に進まない。


黙って先を待ったが、数分後、我慢できずに口を開いた。


「ちょっと、途中でやめないでよ。10年前がどうかしたの?気になるわ」


10年前と言えば、ちょうど深雪と公一が出会った頃だ。


時期が外れていれば、きっと知らない出来事だろう。


「絶対に引かないって約束できる?」


「できるわよ。だから、何か教えて頂戴」


どんな出来事でも、不完全燃焼よりはマシだ。


じっと公一を見つめる。


そして遂に観念したらしく、やっと口を開いた。


「一度だけ、アイツに……なんだろ。告白っていう感じの事をされたんだよ。それ、思い出したからさ」


「嘘でしょう?」


香ヶ崎が公一に好意を抱いているのは知っている。


彼がトイレに立った時、嫌という程痛感させられた。


だが公一に想いを告げていたのは予想外だ。


「ずっと前に、ちょっとした内輪モメがあったんだ。まぁ、大した事じゃないんだけどさ……。それは俺が理由らしくて。追及したら、マジで告白してきたんだよ」


言葉を失った。


失望や呆れではない。


ただ単純に、どうリアクションすればいいのかわからなかった。


旦那に突然、その経験があると語られたのだ。


上手い返しができないのも無理はない。



「それで、あなたはどうしたの?」


なんとか言葉をひねり出す。


問わずとも、現状を見る限り明らかなのだが、とりあえずそれが無難な言葉だと思った。


「どうもするわけないだろう?断ったよ」


当たり前の事を聞くな、と言わんばかりに、吐き捨てる様に呟いた。


「それは、そうだけれど。なんていうか……」


予想外過ぎるため、どうしても言葉が浮かばない。


公一はロックを開け、運転席に乗り込む。


深雪も黙って助手席のドアを開けた。


「今日、深雪に来てもらって助かったよ」


エンジンをかけ、アクセルを踏みながらぼやく。


その横顔は、酷く疲れている様に見えた。


「お役にたてたのなら良かったわ」


とは言ったものの、本当はむしろ逆効果だったのだが。


今回の事で、香ヶ崎に再び火がついたのだ。


一度は諦めて鎮火したものが、再発火したように思えてならない。


「俺も結婚してるし、まぁ……あれは結構昔の話だからさ。このまま、ただの友達っていうか、昔馴染みの仲間に戻るよな」


「そう、ね」


考え直したらしく、穏やかな笑みを浮かべる横顔を見ると、言い出せなかった。


香ヶ崎はまだ諦めていない。


そして奴は、そこいらの女より執着質で、諦めを知らない。


しかしそれを伝えてしまうと、公一は酷くショックを受けてしまうだろう。


取り敢えずは、あれが誰の仕業かわかっただけ良かった。


しかも相手はあの香ヶ崎だ。


今の深雪でも、あの男の撃退は朝飯前だ。


ウィンドウを開け、風を浴びながら明るい街並みを見つめる。


久しぶりにスリルのある生活が訪れるかもしれない。


そう思うと、無意識に笑みがこぼれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ