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血を舐める…だと?

R15的な表現があります。

新月も近付いてきたある日。セオ王子が一人で私の部屋にやってきた。


「ミナ少し時間ある?」


私を見るなり、いきなりそう言われた。


「え?えぇ…はい。今なら時間も大丈夫です」


勇者とバレてから、元の世界に帰るまでの間、私は空いた時間に騎士さん達の訓練所に顔を出していた。

なんでも『破壊の女神様』だとかいう有り難くも何もない、黒歴史さながらの二つ名で呼ばれている私は、たまに騎士さん達に頼まれて大きな岩を粉砕していたのだ。


勿論『破壊の女神様』などと言わないでくれと懇願したのだが、奴らは受け入れてくれなかった。


恥ずかしい!穴があったら入りたい!


そういう奴らにはチョップをお見舞いするのだが、寧ろ嬉々としてチョップされにくるのが泣ける。


M体質なのだろうか…。


我先にと並んでくるから、こちらも仕方なしに『破壊の女神様』と呼ばれる度にチョップをするという悪循環。


アルに相談したら「勇者からの手刀は、彼らにとって一生の記念になるだろうから思いきりやってやれ」と言われた。


いや、手刀じゃないです。殺す気で叩きつけてませんよ。優しくしてます。


そんな彼らの訓練所に行くのには、まだ時間がある。セオ王子をソファに案内すると、にっこりと良い笑顔で「ミナが還る前に、最後にミナの血が飲みたいな」と言われてしまった。


た…対価は何なのでしょうか?


「今はまだ言えない…かなぁ」


生殺し状態でセオ王子に血を渡す事となっていました。何故だ。






◇◇






「んっ…相変わらず美味しいなぁ」


私の首筋に舌を這わせながら、合間合間にそう呟くセオ王子の吐息は熱くて、その熱にどうにかなってしまいそうだ。


柔らかい粘膜が首筋に吸い付き、意思をもったように血の溢れる箇所を舌が往復していく。


硬く目を瞑り、この時間が終わるのを耐えるが、聞こえてくる血を飲み込む音や吐息が視界が遮断された事によって、ダイレクトに伝わってきて余計に理性がおかしくなっていく。


「んっ…ミナの血が飲めなくなるのは…残念…だなぁ」


血を吸いながら話さないで下さい。ゾワゾワします。


ようやっと離された時には、羞恥で全身が真っ赤だった。


「あれ?顔が赤いよ?」


ニヤニヤしながら言うなし。王子でなければチョップしてるぞ。


「気のせいです!」


プイとそっぽを向くとクックッと笑われた…。誰のせいだと。


「そういえばミナはこっちの住人の血は飲んだ事あるの?」


笑い終えたセオ王子が不意に聞いてくる。


「飲んだ事なんてありませんよ!」


当然である。

紫色の血だ。怖い…怖すぎる。

めちゃくちゃ人体に影響ありそうではないか。


紫色の血をした牛や豚のお肉は食べましたけどね。今の所、人体に影響は全くありません。


てか、そもそも何で他人の血を飲まねばならないのかと。


「ふーん…やる事やってるのに、血は飲んでないんだねぇ。アルも相当だな」


やる事やって――って!王子!王子がそんな下世話な話をサラッと言わないで下さい。


「試しに飲んでみる?」

「ご遠慮致します」


即座に答える。考える時間すらない。


「いいから、いいから遠慮しないで」

「いえいえ、有り難いお言葉ですがご遠慮させて頂きます」

「有り難いなんて思ってないくせに」


知ってるなら何故聞く?しかも二回も。


「大丈夫だから、先っぽ…ほんの先っぽだけだから」

「先っぽって…本当に勘弁して下さい」

「本当に先っぽだけでいいから」


何この卑猥な会話。何となく既視感が。


「…わかりました」


溜め息を吐きつつ諦めて頷く。頷かない限り永遠に終わらないループとなりそうだったのだ。





「唇に傷を付けてそこから飲む?」

「ご遠慮致します」

「チェッ」


セオ王子の唇から血を飲むとかキスしてるみたいじゃないですか。


「じゃあ耳朶(みみたぶ)にして。痛くないから」

「…はい」


痛いのが嫌なら飲ませなければいいのに。口に出しては言わないけど。言ってもムダだろうし。


「じゃあ血が垂れて服に着いちゃう前に舐めてね」


言うが早いか、セオ王子はいつの間に持っていたのか、針のような物で自身の耳朶(みみたぶ)を刺していた。


「さ…早く」


うっすらと血が滲んできた耳朶に恐る恐る舌を這わせる。


何と言うか――…うっすい野菜的な味がするような…しないような。私の世界の血よりも味は薄いような淡白なような。紫色の血だから野菜ジュースのような味に思えるのだろうか。視覚的に。


「も…もういいですか?」

「だぁーめ。血が止まるまで舐めてね」


仕方なくそのまま舌を這わせる。


「しかし、こういうのも何だかいいねぇ」


私の背中に腕を回して、抱きながらセオ王子が言い出す。


私は今、セオ王子の正面から血を舐めている。その為、肩越しにセオ王子の息遣いを感じて恥ずかしい。


「恋人にでもなった気分だね」


ぶほっ。思わず体を思いきり離す。何て事を言い出すんだこの人は!


「あぁ、安心して。僕が好きなのはミナの血であって、ミナじゃないから」


目が合うとニヤリと笑って言われる。


もうやだこの変態。


「ミナ訓練所に行く時間だよね?そろそろお暇しようかな」


血が止まったのを確認すると、そう言って何事もなかったようにソファから立ち上がるセオ王子。いつものヘラっとした表情だ。


うぅ、ムカつく。セオ王子には勝てる気がしない。


「そうそう」


扉を開けて出ていこうとしたセオ王子は、その場で一旦立ち止まると私の方へと向き直る。


「還っちゃう前に小瓶にミナの血を容れてほしいな。ミナが居なくなっても口に入れられるように」


そう言って、セオ王子は笑顔で出て行った。


ポカンと立ち竦む私。


もう本当、変態としか言い様がない。





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