最後の戦い
流血描写があります。後半は視点切り替えもあります。ご注意下さい、
「メリ子さん!!」
私は目の前の金髪美人の名前を呼ぶ。
「勇者様しっかりして下さい!貴女が呆けていては誰一人として守る事など出来ないのですよ」
メリ子さんは光の盾のような物を展開しながら、こちらに視線だけを寄越し叫ぶ。
「貴方達も何をしているのですか!?今すぐ安全な場所へと待避なさい」
メリ子さんの言葉に私同様に呆けてこちらを見つめていたウラディミールさんとセオ王子は、慌ててアルを担いでいく。
それを確認するとメリ子さんは展開していた盾のような物を解除する。
「先程の攻撃を防いだ事で暗黒竜は私達に的を絞った筈です。さぁ参りましょう」
メリ子さんに差し出された手を握り返す。すると光が私達を包み、メリ子さんはメリケンサックとして私の手に収まっていた。
それを確認すると、上空に向き直る。
上空には怒りの表情で私を見つめる暗黒竜の姿があった。暗黒竜は大きく羽を羽ばたかせると、私から距離をとる。
『参りましょう』
メリ子さんの言葉に頷いて、地面を大きく蹴ると、一瞬にして上へと飛び上がる。
そのままメリケンサックを嵌めた拳を暗黒竜に向かって繰り出す。
暗黒竜は大きく羽ばたいて拳を避けると、今度はこちらに向かって鋭い牙をもつ口を開いた。
メリ子さんから発せられる光の紐が暗黒竜の口に巻き付く。それを頼りにロープの要領で反動をつけると、一気に暗黒竜の背中に飛び乗った。
そのまま光の紐を力任せに引っ張る。暗黒竜の口が思いきり閉まり、グルルルと意味を成さない言葉が漏れる。
私は右手を力一杯に降り下ろすと、その背中部分に拳を叩き付けた。
塞がれた口から黒と紫を合わせたような色の液体が吹き出る。血だろうそれはゆっくりと暗黒竜の顎(あるのかは知らないが)を伝って流れ落ちていく。
バランスを崩した竜は上手く飛べないのか、徐々に高度を下げていく。更にもう一度拳を叩き付けると、大量の血を吹き出し、地面に落下していく。
凄まじいスピードで落ちていく為、私は必死で暗黒竜にしがみついていた。
『勇者様このままでは衝撃で体をやられてしまいます手を広げて!!』
目を瞑りながら、何とか片手を広げると次の瞬間には体が暗黒竜から離れていた。
地響きが辺り一面に木霊す中、私も勢いよく何処かに体を叩き付けられていた。痛みと土の味に咳き込みながらゆっくりと目を開くと、そこは崖の上だった。
『さぁ!!ここで口上を!!』
メリ子さんの言葉に私痛む体をゆっくりと起こすと、眼下に見える暗黒竜を見つめた。
「俺の拳が光って唸る!!悪を倒せと轟き叫ぶ(以下自主規制)!!」
そのまま崖から飛び降りると、血を吐きゆっくりと起き上がろうとする暗黒竜に向かって蹴りを見舞う。
あれ?
さっきから何かがおかしい。
体が勝手に動く。
恐怖に身をすくませていた私が、あれほど凶悪な暗黒竜を相手に堂々と挑んでいるのだ。
何よりも、先程の口上。あれって思いっきり某アニメの迷言だよね。
私じゃない何かが乗り移っているような――
そんな事を考えながら暗黒竜に蹴りを見舞った後、腹部に拳を叩き付けていく。
すると唐突に、脳裏に様々な光景が浮かんできた。
体中に大きな傷をつけ大量の血を流しながら暗黒竜に剣を突き刺す男の姿――
片目を潰されながらも、暗黒竜の隙を突いて一気に槍を喉元目掛けて放つ男の姿――
大砲並に大きな銃を暗黒竜に放ち、絶命させるメガネ…じゃない男の姿――
様々な光景がまるで、自分が経験したかのように浮かんでは消えていく。
『勇者様!!あの腹部に渾身の力を叩き付けて下さい!!あれを貫けば心臓が見える筈です!!』
メリ子さんの言葉に一気に現在の状況を思い出す。
「我が身に宿りし英雄の魂よ!!我に力を――」
口から勝手に厨二全開な言葉が出てくるとメリ子さんが光り、体をジタバタとさせて逃げようとする暗黒竜目掛けて神の鉄槌(厨二名称)が下った。
激しい音を響かせて腹部が貫通される。暗黒竜から噴き出る血を体に浴びると、じゅうじゅうと皮膚が焼ける音が聞こえた。
痛みに苦悶の表情で何とかその場に佇むと、脈打つそれを見つける。
スプラッタなそれを見ても恐怖もなければ吐き気もなかった。
私はただ体の動くままに、心臓目掛けて最後の力を振り絞っていた――。
◇◇
視界に入る辺り一面は、正に地獄絵図と化していた。
木々は凪ぎ払われ、幾つものクレーターがそこかしこに出来ている。
一部の地面には黒い液体が流れ、その一帯の草花は焼けていた。
父が騎士に連れられて帰って来たのを思い出す。あの時の父も酷い火傷と傷を負っていた。
それを思い出し、この光景が夢ではない事を理解する。そして、全身を覆う痛みに顔をしかめる。
「ミナ…」
何とかそれだけを呟くと、彼女の姿を探した。あの時、俺はミナの言葉を無視して、近くの岩場に隠れて辺りを窺っていた。
嫌な予感がしたからだ。
無事に洞穴から出て来た彼女を確認して安堵した。予感は予感でしかなかったのだ――と。
だが違った。
暗黒竜は知らない内に、ミナを殺そうと気配を消してその瞬間を待っていたのだ。
一瞬の出来事だった。暗黒竜の存在に気がついた俺は彼女が殺されると理解した。そう確信した時には体が動いていた。
ミナを庇った俺は、そのまま意識を手放していた。だから俺は、彼女が無事だったのか知らない。
「ミナ」
もう一度呟いて辺りを見渡していると、何か陽炎が揺れてこちらに向かって来る。
じっとそちらを見つめていると、だんだんと輪郭がはっきりしてきた。あれは――!!
「ミナ様!!」
「ミナ!!」
ウラディミールとセオドアが同時に叫ぶ。
彼らは俺を守るように傍に居てくれたのだろう。ウラディミールに至っては俺に魔法を掛ながらミナを見つめていた。
近付いてくるミナは酷い姿だった。
服はボロボロで、体の至る箇所からは血を流していた。
引きずるように俺達の所まで来ると、俺の前に膝をたて「終わりました」と言葉を発した。
その瞬間、どこに居たのか騎士達の歓声が聞こえた。
「ミナ…ありがとう」
俺は痛む体にムチ打って何とかミナの手を握る。
「ミナ…愛している」
「私もです」
俺の言葉に優しい笑顔で返してくる。
「傍に居てほしい」
「私も貴方の傍に居たいです」
その言葉に涙で視界がぼやけてくる。
「愛してる。お前を抱きたい。抱いて口づけて――俺の妻に…」
「私も貴方に触れたい…」
そう言うと俺の手の甲に唇を寄せる。それが騎士の儀式に思えて、顔が赤くなる。
「愛していますア…」
そのまま彼女は気を失った。彼女を支えながら抱きしめると、騎士達の歓声が更に辺り一面に響いた。
気を失ったミナを運びながらセオドアは「俺の拳が光って~とか言ってたけど、直後に繰り出したのは蹴りだったよね」と言っていたが、俺は気を失っていたから知らないんだが…。




