貴方を守りたい
流血描写があります。ご注意下さい。
覆い被さるように私に倒れるアルの体の下から這い出る。
アルは背中に大きな傷を負い、そこから紫色の血が流れ続けていた。衣服は紫色に染み、かなりの量の血を吸っていた。
「アル!?しっかりして!!」
急いで自分の身に付けていた白色のコートを脱ぎ、簡易的にでも止血できないかと傷口に押し当てる。
だが、コートは紫色に染まっていくばかりで血が止まる気配がない。
アルが死んじゃう!!
「王子!!ミナ様!!」
泣きながらアルの名を呼び続けていると、淡い温かな光に包まれた。
「私がアルバート王子の傷を塞ぎます」
言うが早いか、私のすぐ横にはウラディミールさんの姿があった。
両の掌から降り注ぐ温かな光が、アルの背中に走る大きな傷を癒していく。
「まだ完全とは言えませんが今は緊急自体の為、止血だけでも――」
「ミナー!!伏せろー!!」
ウラディミールさんの言葉に被さるように、別方向から叫ぶ声が聞こえてくる。咄嗟にウラディミールさんを押し倒すようにして伏せると、私達が居た場所を何かが飛んでいく。
直後、後方から激しい爆音が響き、風圧に耐えるように、飛ばされないようにときつく目を瞑り、その身をひたすら地面に押さえつける。
風圧が落ち着いたのを確認すると、ゆっくりと目を開いていく。
砂塵に咳き込みながら辺りを見回すと、眼前には大きなクレーターと薙ぎ倒された木々が広がる光景が映し出されていた。
その光景に唖然とする。
ふと、違和感を感じた。
先程まで明るかった空が暗いのだ。砂塵の影響かと思ったが、何かがおかしい。自分達の回りだけ、大きな影が差しているかのように暗いのだ。
グギャァァァァァ!!
頭上から聞いた事のない悲鳴にも似た叫びが聞こえる。
辺りを暗闇に変えた正体は、真っ黒な竜だった。竜はギロリとした瞳で私達を見ていた。
そして、威嚇するように雄叫びを上げると私達に向かって巨大な爪を降り下ろそうと飛び掛かってきた。
恐怖に身を強張らせた私は、せめてアルだけでもと、目を瞑り何とか彼の体に被さった。
アルの体にしがみつくように覆い被さっているが、一向に竜が襲い掛かってくる気配がない。
恐る恐る目を開けて見上げると、無数の光の網のような物に体の自由を奪われて、喚き暴れる竜の姿があった。
「捕縛!!」
声の聞こえる方に視線を動かすと、そこには魔法を唱えて光の網で竜を拘束する何十人もの騎士達の姿があった。
「捕縛!!」
あちらこちらの騎士さん達から魔法を発する言葉が飛び出す。すると、掌から光が竜目掛けて放たれ、網のように絡まっていく。
必死で光の網を破ろうと竜が翼を激しく羽ばたかせ、鋭いキバで食い破ろうとしている。
「ミナ!!無事か!?」
セオ王子が私達の元へと駆け寄ってくる。私は頷いて、アルに視線を向ける。傷を負ったアルの姿に、セオ王子が凍り付く。
「私を庇って…アルが」
アルの手を握りしめながら小さく呟く。ウラディミールさんのお陰で何とか止血は済んだが、アルは意識を失ったままだ。顔色も悪く、一刻を争う。
「不味いね…早く治療をしないと」
セオ王子が焦った口調でそう言い放った。
「もうもたない!!」
「網が食い破られる!!」
「セオドア様ー!!」
騎士さん達の叫び声が耳に入ってきた。
上空を仰ぎ見ると、暗黒竜が大きな口を広げてこちらを見ている。
さっき地面にクレーターを作った魔法か何かだろう。
殺される。
瞬時に脳裏に死がよぎった。
勇者と言われながら、対価まで貰っておいて何も出来ずに死ぬのか。アルが自身を投げうってまで助けてくれたのに。
何も出来ず。
誰も助ける事も出来ず。
アルを助ける事も出来ず。
暗黒竜から放たれた黒い塊が向かってくるのを見つめながら、私は死を覚悟した。
嫌だ!!死にたくない!!
死にたくない!!
死にたくない!!
目を瞑りながら、心の中で叫ぶ。
「勇者様何を呆けていらっしゃるのですか!?」
聞き覚えのある声が頭上から聞こえる。
目を開いて見ると、私達の前に大きな盾のような物を展開して、黒い塊を霧散させるメリ子さんがいた。
人間の姿で。




