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死亡フラグ

私とアル、セオ王子とウラディミールさんは現在神々の峰に来ている。


最北の地というだけあって、寒々しい。

枯れた木々やら絶壁やらが、いかにもラスボスの居る場所に相応しすぎてロールプレイングゲームの世界さながらである。


実際寒いので身動きの取りやすい格好で、それなりに着こんできた。鎧だの何だのは着てないけども。あれだけで数キロはあるだろうし、それを着て動ける自信はない。そんなんは、どこぞの仙人に弟子入りして背中に甲羅を背負った、有名漫画の主人公だけで十分であろう。


「あの穴の中が暗黒竜のねぐらとなっております」


そんな事を考えていたら、案内してくれた神殿の神官が指をさしていた。慌てて指先の向こうに視線を向けると、そこにはでかい穴が空いていた。


「確かにあの中から禍々しい物を感じます」


ウラディミールさんが穴の方へと視線を向けながら答える。


禍々しい物って何だろう?オーラとかそういうのだろうか。

流石は神官だ。普段の言動からは信じられないが、ちゃんと聖職者だったようだ。


「どうする?まだ暗黒竜は戻って来てはいないようだし中の様子を確認しに行くか?」


アルが私達を見回して問いかけてくる。


「ちょ…ちょっと何を言っているんですか!!アルとセオ王子は王子様なんですから駄目に決まっているじゃないですか!!」


私が慌てて止めに入るとウラディミールさんも、うんうんと頷く。


「ここは私とミナ様に任せてお二人は神殿にて待機をしていて下さい」


ウラディミールさんの言葉にセオ王子は「僕は実戦向きじゃないからそうしておくよ〜」と、あっさり頷いた。


「二人だけで行かせられるか!!俺も行くぞ」


アルはきっぱりと否定する。ですよねー。


「ぜぇったい駄目です。ちなみにウラディミールさんも駄目ですから。行くのは私とメリ子さんだけです」


私の言葉に二人は驚愕の表情で固まる。


「馬鹿!!それこそ絶対に駄目だ!!」

「ミナ様それだけはお受けできません」


アルとウラディミールさんが、ほぼ同時に声を荒げる。


「アルは死亡フラグ立ててるから駄目で、ウラディミールさんはそんな格好では身動きが取りにくいから却下です」


そう言うと、私はウラディミールさんの踝まですっぽりと覆うローブを軽く摘まんだ。


「死亡フラグ?」と呟きながらアルが困惑しているが、今は説明するのも面倒なので無視しておく。


「これは神官の証のローブですから、脱ぐ訳に参りません。ですが決して足手まといにはなりません」


拳をぎゅっと握りしめウラディミールさんは言うが、どう見ても動きずらそうな衣装だ。走るのも無理そうだし、ゴツゴツとした岩場とかなら確実に衣装が破れるであろう。


「とにかくダメです!!皆は神殿に戻って下さい。三時間しても私が戻らなければ、騎士さんを数名派遣して様子を見に来て下さい」






そう。王宮に戻ってから、アルは騎士の皆さんに私が異世界から喚ばれた人間である事を説明していた。


最初は驚き戸惑っていた騎士さん達も、魔物殲滅現場や巨大な岩を砕く姿を目の当たりにしていたせいか割と直ぐに納得してくれたのだ。


岩を砕く姿を見られていたと知った時は羞恥に穴があったら入りたい心境だった。嫁入り前の娘が岩を破壊している所を見られていたんだから仕方ないと思う。






「そういう訳で行ってきます」

「ミナ!?待て――!!」


アルの言葉を無視して私は暗黒竜がねぐらとしている穴の方へと走って行った。






◇◇






穴の中は何となく温かい。気持ちのよい温かさではないけれど。


暗くて普通なら奥へと進むにつれて、周りが見えなくなっていくのだが、流石は職業チート勇者である。クリアに回りの様子を見る事ができる。


普段もこうなら夜道に外灯がなくても歩けるのだろうが、普段はチート視力を発揮してくれなかった。


「メリ子さん普段の時もこの暗視能力がほしいです」


メリケンサックとして手に嵌めているメリ子さんにお願いをしてみる。


『あら?本当にご所望でしたら構いませんが、夜の睦時にも暗視能力が発揮されてしまいますが宜しいですか?』

「すみません…」


即答で謝った。


薄暗い中での性行為中に、相手の姿がカラーではっきり見えてしまうのは何か嫌だ。


私が男性だったならば、是非にも欲しい能力だったであろうが。女である事が残念だ。


「それにしても本当に何も気配を感じないですね」

『そうですわね。仮にも神聖なる土地に悪しき存在は生きてはおれませんから』


そうなのだ。この地に降りたってからという物、魔物の気配を一切感じないのだ。


「暗黒竜はそんな地によく住み着けましたよね」

『まぁ、あの子はその辺が抜けているみたいですから』


暗黒竜をあの子呼ばわりとか、女神様パネェっす。何度となく暗黒竜と対峙しているメリ子さんにとっては暗黒竜も形なしである。






そんな会話をしながらも、奥へ奥へと進んでいく。


『勇者様…万が一このまま暗黒竜と対峙する事になっても本当に宜しいのですね?』


軽く話しながら進んでいると、不意打ちのようにメリ子さんが話しかけてきた。


「うん…昨日言った通りだよ。誰も傷ついてほしくないですから」


前日メリ子さんに伝えた内容を思い出す。






「対価を貰いました。考える時間も沢山貰いました。一人で暗黒竜と戦います――…力を貸して下さいメリ子さん」

「宜しいのですか?」


女神様姿のメリ子さんに頷く。


「一人で倒したら数十年は働かなくても生活できるだけの報酬も貰えるみたいですし」

「それでこそ勇者様ですわ」


それでこそって、どういう意味だ。


口にしそうになって慌てて両手で塞ぐ。いかん相手はメリケンサックのメリ子さんだ。到底腕力では敵わない。


くそ、褒賞の分け前は数人で分けるよりも、一人で全て貰う方が色々とおいしいじゃないか。とか、誰も思わないのだろうか…。


「暗黒竜討伐頑張りましょうね勇者様」

「は…はい」


笑顔のメリ子さんにどもりながら返事を返したのは内緒だ。






「ここが最奥みたいですね」

『そのようですね』


穴の最深部へと到着した私達は辺りの様子を隈無く確認した。


キラリと光る物(暗闇ですけどね)が視界に入ってきたので、近付いてみる。


「ふぉ!?」


思わず変な奇声が出る。

キラリと光る物の正体は、金銀財宝と呼ぶに相応しい宝石達だった。それも相当な数が山積みとなっている。


『各地で殺戮の限りを尽くし、手に入れた品々なのでしょうね。光り物を巣に隠していたのでしょう』


カラスかよ!!


思わずツッコミそうになるのを堪えつつ、手近な一つを手に取る。これだけあれば私の数十年は保障されたような物だ。多い分は各国の支援に役立ててもらえるだろう。


必ず暗黒竜を倒す。改めて気合いが入る。


決して金品を見つけたからではない。ええ…決して。


更に辺りを見渡すと、壁際に大量の残飯らしき物があった。メリ子さんに臭覚もシャットダウンしておいてもらって良かった。結構な量があるので相当臭そうだ。


『この辺りにばらまきませんか?』


メリ子さんの言葉に頷いて、背中に背負っていたカバンの中身を取り出す。


幾つかのミディアムに焼かれたお肉を地面に置いておく。そして、無味無臭の強力な(セオ王子談)眠り薬を混ぜて完成。


これを食べた暗黒竜が眠りこけている間に倒す作戦だ。この為に、理由も分からずにお肉を提供してくれた王宮の調理場の皆さんや魔法研究機関の皆さんには、暗黒竜を倒した暁には改めてお礼を言っておこう。


こうして準備を整えた私達は、地上に戻るのであった。






◇◇






「明るいー」


外の新鮮な空気を吸いながら、穴から出てきた私は大きく伸びをする。暗いじめじめした空間にいたせいで、外の明るさが心地良い。


この時の私は、一仕事終えた満足感で完全に気を抜いていた。


だから気が付けなかった。その圧倒的な存在感に。





「ミナ――!!」


ドスンと大きな衝撃を全身に食らい、私は前のめりに地面に倒れ込んだ。

傷む体を起こそうとするが、背後に重みを感じて上手く体が動かない。


ポタリと頬に何か生温かい液体が触れる。どうにかして腕を動かして、それに触れると紫色をした液体だった。


さぁっと血の気が引くのを感じた。


グラグラする頭を何とか動かして見ると、そこには私を庇うようにアルが背中に覆い被さっていた。


紫色の血を流しながら――…。





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