神々の峰
「暗黒竜の隠れ家が分かったんだ」
セオ王子は真剣な顔で私の目を見つめながらそう言った。
「そうですか…」
「あぁ、今は暗黒竜はどこかの国の人里に行っているみたいで居ないんだけど、帰って来たら仕留めたいと考えてる」
私とアル、そしてウラディミールさんを見据えてセオ王子がそうきっぱりと口にした。
貧血で倒れてから3日程経ってから、セオ王子は私達を自身の部屋へと集めた。
そして、皆をソファへと座らせてからそう言った。
暗黒竜。
私がこの世界へと喚ばれた元凶である。
人や動物を食い殺し、殺戮の限りを行い、世界中の人々に恐れられる存在。
そのあまりの無差別な破壊行為から畏怖の念を込めて『魔王暗黒竜』と呼ばれ恐れられている。
その元凶の棲みかが分かったという。
暗黒竜はこれまでも何度となく人々を襲う為に世界中の様々な場所に姿を現していたのだが、誰にもどこから現れ、どこへと帰って行くのかを知られてはいなかった。
魔法技術の発達した世界で見つけられない稀有な存在。
過去にも沢山の国々が暗黒竜の棲みかを必死で探していたと言う。だが、誰にも見つける事はできなかった。
其れ故、人々に恐れられる。
そんな暗黒竜の棲みかが分かったのならば、行って叩くしかない。
そうしなければ、今後も人々は暗黒竜を恐れたまま生きていかなければならないのだから。
それが私に与えられた使命なのだから――。
格好いい事を言いましたが、対価を貰ってますしね。勇者の仕事をしないといけない訳です。
思いの外早かったけど。
「それにしてもよく暗黒竜の根城を見つける事ができましたね。今まで見つけられなかったのに」
「凄いでしょう?僕も研究所の皆も毎日必死だったからねぇ」
私の言葉にセオ王子は笑顔で答える。確かセオ王子は魔法研究機関に所属していると言っていたな。そこで探索方法を探しだしたのかもしれない。
「そんな頑張った僕にミナの血を頂戴ね」
「……」
おい!!
セオ王子の言葉にアルが私を庇うように抱きしめる。
貧血で倒れてから数日休ませてくれていたのは、私の身を案じた訳ではなく血が欲しかったからか。
流石セオ王子。変態の名は伊達じゃない。
「血云々はともかく暗黒竜の棲みかはどこなんですか?どうして分かったんですか?」
「血云々って…僕にとっては重要なのに。まぁいいか。暗黒竜は『神々の峰』を根城としている。『神々の峰』って言うのはこの世界を創りし神が眠るとされている霊峰の事だよ。北方の最北端にそびえる山々、世界の始まりの地」
神々の峰。
それはこの世界の創世記に纏わる聖なる場所だと言う。ガイアスロイを創った創世の神が眠る土地と言われており、その山々には聖なる加護が与えられており、悪しき者は入る事すら許されない土地。
その土地を管理しているのは、各国から選ばれた神官達で、不可侵の条約を結ばれている。
神官職に就く者以外は例え国王や女王であっても踏み入る事を許されない場所。
そんな神聖な場所によく暗黒竜が隠れていられたものだ。
「そこって聖なる土地なんですよね?何で暗黒竜が居られるんですか?神官さん達も何で気が付かなかったのでしょうか?」
私のもっともな質問にアルもウラディミールさんも頷く。てかウラディミールさん…貴方確か神官でしたよね。
何で知らないのと恨みがましくウラディミールさんを見つめると、顔を逸らされた。
おい。
「最初から暗黒竜がそこに居た訳じゃないよ。聖なる土地に居る神官達が暗黒竜の蹂躙に疲弊した国からの要請によって、殆ど自国へと引き上げたから手薄になっていたみたいなんだよね。自国からの命令なら仕方ないよね。人手が必要なんだし。何たって聖なる土地に居た神官達は高位の治癒魔法の使い手だから、こんな状況だ、国に帰って来いと言わざるを得ないよね」
成る程。
国が滅びて帰る場所を失った神官だけが残っていたが、毎日神殿に祈りを捧げたり、交代で様々な国に出向いたりしていて、暗黒竜の存在に気付けなかったらしい。
まさか、聖なる土地に暗黒竜が隠れているだなんて普通は考えつかないよな。
「たまたま暗黒竜が『神々の峰』から飛び立つのを見た神官が教えてくれたんだ。それで僕の所属する魔法研究機関の者が調べに行ったら暗黒竜の痕跡を発見したわけ」
魔法関係ねぇぇぇぇ!!
凄いドヤ顔で話してくれてますけど、セオ王子何もしてませんよね?
「と、いう事は他の国の方達も暗黒竜の棲みかを知っているのですね」
暗黒竜を見た神官が、この国の人にだけ伝えるとは思えない。各国に知れ渡っているのだろう。
もし、神々の峰に暗黒竜を討伐しに各国の人達が攻め行ったとしても、返り討ちにあう姿しか想像が出来ない。
てか、空に逃げられたらおしまいじゃないか。
「多分どこの国も『神々の峰』に暗黒竜を討伐しには行かないだろう」
黙って聞いていたアルが口を開く。
「皆、自国の防衛に必死だ。わざわざ戦力を割いてまで討伐に行くのは無謀にも程がある。いつ襲って来るか分からない相手に攻めに回る程の力は無いだろう」
「そう…神官もそう言ってたよ。だからこそ暗黒竜も『神々の峰』を棲みかに選んだんだろうね」
アルとセオ王子が話している間、ウラディミールさんは「神の眠る土地に魔王が居るのは皮肉なものですね…」と、誰にともなく呟いていた。
ちょっと格好良く言いましたけど、貴方知らなかったですよね。
もう一度ジト目でウラディミールさんを見ると、あからさまに顔を逸らされた。
「そんな訳でミナの出番と言うわけだけど、急すぎて気持ちが整理できていないと思うんだ。だから、ミナの気持ちが落ち着いてから決めてほしいんだ」
セオ王子が笑顔でそう言ってくる。
「でも…急いで倒さないと被害がますます酷くなるんじゃないですか?」
神妙な顔でそう言うと、アルが私の手を握ってくる。
「確かに世界は暗黒竜によって混沌としている。急がないといけないのも事実だ。だが、ミナ一人にそれを押し付ける俺達がミナの気持ちも考えないで勝手に押し進めたくはない。ミナが大丈夫だと納得してからでも遅くはないから」
アルの言葉にセオ王子もウラディミールさんも優しく頷いている。
皆の優しさに目尻が熱くなるのを感じた。私の為に時間をくれてありがとうございます。
正直、凄く怖いです。
少しだけ、ほんの少しだけ私に時間を下さい。
次回はアルが頑張ってしまうかもしれない恋愛ターン(仮)。




