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左手も送還されました

セオ王子に血を吸われた翌日、送還魔法で手紙とその他諸々を送り届けてもらえる日にちを教えられた。


何でも来週の新月の日だと言う。


あまりの展開の早さに驚いていると、「物自体は小さいからね。新月の日は星々の力で満たされているから送還するのに丁度良い日なんだよ」とセオ王子に教えられた。


ちなみに、この世界の太陽も月も星も地球の物と同じようだ。ただ、唯一違うとすれば月が2個夜空を照らしている――といった具合だろうか。


その為、月の魔力の力が素晴らしいらしく、満月が二つ重なる時がもっとも召喚魔法を行うのに最適な条件らしく、私を召喚した日も丁度満月が二つ重なる日だったと更に教えられた。


その分、新月の日は星の魔力が素晴らしいので送還魔法を使うのに最適な条件である…と。


魔法の世界ならではの感覚である。


手紙を送る日が決まったので、来週の送還の日までに私が異世界に居るのを証明させる証拠物件集めをすることにした。


こちらの世界に来てから大切にしまっておいた鞄を、クローゼットの奥から引っ張り出す。


チャックを開けて電源を落としておいたスマートフォンを取り出した。


万が一の時の為に電源を落としておいたが、正解だったようだ。立ち上げて動作確認をしたが問題は無さそうだった。


案の定、圏外になっていますがね。


スマートフォンのカメラ機能を確認して、室内にピントを合わせてシャッターを押すと綺麗に撮れた。


マイクロSDに大量のデータを残して一緒に送れば、流石の家族も私が異世界に居る事を信じてくれるだろう。


いざ行かん!!王宮内探検隊!!


先ず最初に向かったのはアルバート王子の執務室だった。

アポ無しで行ったにも関わらず、迎え入れてくれる器量の大きさに、流石は王子様だと感心する。


まぁ私、勇者だしね。


「成る程…俺でよければ幾らでも力になるよ」


事情を説明すると、快く快諾してくれた。イケメンで懐も深いとか、乙女ゲームなら絶対に正統派王子様ポジションである。


「これがケイタイと言う物か…」


しげしげと見てくるが、決して触れさせたりはしない。


よくあるWeb小説だと、異世界文明に興味津々で色々と聞いてきたり、持ち込んだ物を触ったりとかあるからね。

別に内政に関わりたいとも、日本の文明を伝えたいとも思わないし。


水洗トイレがあるからいいじゃない。


適当に何枚かアルバート王子を撮らせてもらった。デジカメで見ると、いい年した王子が、コスプレした青年にしか見えなかった。


青髪だしね。


仕方がない。次へ行くとしよう。


王子に礼を言ってから、次はウラディミールさんの居る神殿に向かう事にした。






◇◇






「私で宜しければ喜んで」


馬車で神殿まで送り届けてもらった私は、ウラディミールさんに会うと王子にしたのと同じ説明をした。

すると、ウラディミールさんも快諾してくれた。まだ同情心が働いているのだろうか?少し切な気に微笑まれたのが気になるが。


気を取り直して、ウラディミールさんには魔法を行使している所をムービーで撮らせてもらった。

王子の時とは違い、こちらはなかなかに信憑性のある映像が撮れたと思う。


特に魔法発動時のエフェクトが秀逸である。




この調子でかなりの枚数を収める事が出来たので、最後に恥ずかしいが自分撮りで締める。


「お父さんお母さん睦月お元気ですか?私はガイアスロイという異世界に召喚されてしまいました。色々あって今すぐには戻れそうにないのですが、戻ったらこの事を小説にして新人賞に応募してみようと思います」


我ながら意味不明な内容ではあったが、詳しくは手紙に記してあるし問題はないだろう。


全てのデータをマイクロSDに移すと、スマートフォンの電源を落としておく。簡易充電器があって本当に良かった。これで、また何かあればスマホに納めておける。


これらを送還してもらったら、私は本当に勇者にならなければいけない。

全ての準備を整えた私は、新月の日までを勇者となる決意を固める為に過ごしていった。






◇◇






「じゃあ始めるよ?」

「お願いします」


セオ王子の言葉に了承を示すと、彼が何か呪文のような言葉を呟く。すると、魔法陣が青白く光り輝いていった。


不思議な圧迫感、肌を刺すような空気の震動と共に魔法陣の中央に置かれた箱がカタカタと揺れる。あの箱の中には家族に宛てた手紙と金貨や宝石、そしてマイクロSDが入っている。


それらを容れた箱がゆっくりと浮上したかと思うと、少しずつ光の粒子に飲まれていく。

あぁ…何て美しく、幻想的な光景だろう。


そこで、ハタと気が付く。


あの魔法陣に入れば私も還る事が出来るかもしれない。


そう考えた時には駆け出していた。セオ王子が止めるのも構わず、箱が消えかかっている魔法陣の中へと私は手を伸ばしていた。


その瞬間、激しい光の渦に飲み込まれるのを感じた。(まばゆ)い光の中で私はひたすらに目を瞑って耐える。






目を開けると、左手が無くなっていた。






◇◇






その後の事は思い出すだけでも恐ろしい。


送還魔法が終わった直後に駆け寄ってきたセオ王子が、今まで聞いた事もない大きな声で私を怒ったかと思えば、私の左手が無くなっているのに気が付いた途端、青ざめてウラディミールさんを呼んでいるわ。


ウラディミールさんは必死で私に治癒魔法を掛けるわ。


別に痛みはないんですけどね。消えた部分を見ると手首は黒くなっていて血も出ていないし。

それに、左手の感覚自体はあったので決して消えた訳ではないと理解していたから。


そんな思ったよりも冷静な私そっちのけで、セオ王子とウラディミールさんは私の左手を回収する為に必死になってくれた。


二人共、幾ら私が「大丈夫です」と伝えても聞く耳を持たず、召喚魔法の行使に必要な物を取り揃えてくれた。


そのかいあってか、満月でもないのに私の左手を召喚する為だけに、またしても召喚魔法を行使してくれたのだった。


召喚魔法が発動されるのをぼんやりと眺めながら、私は醤油のかかった焼き魚やお味噌汁、マヨネーズのかかった野菜スティックが食べたいなぁ…などと暢気に考えていた。


必死な二人には申し訳ないが、そろそろ本格的に日本食が恋しくなってきた。


「梅干し食べたい…」


召喚魔法が発動されるのを横目にそんな事を考えていた私は、魔法が発動され眩い光りに包まれた直後に、失った左手と共に何か違和感を感じていた。


光が収まると、無くした左手が手首に着いており、何故かずっしりとした買い物袋を持っている。


何だろうと袋を覗いていると、まさかの醤油、味噌、マヨネーズ、梅干しが入っていた。


呆気に取られている私を他所に、セオ王子とウラディミールさんは召喚が成功しただけではなく、左手が手首にくっついている事に大層驚いていた。


そして袋に気が付くと、中身について問われたがそんなのは私が聞きたい。何で醤油や味噌、マヨネーズの入った袋を左手が持っているのか…。


他にも何か入っていないか確認すると、1枚のレシートが入っていた。


良かった!!窃盗じゃない!!


日本に還った左手が私の思いに答えて買ってきてくれたのだろうか?左手だけで。


それなんてホラーですか?


あまり深く考えると疲れてくるので、この件に関してはあえて蓋をしておこう。


とりあえずお味噌汁と焼き魚が食べたいです。






その後、左手喪失騒動の対価と引き換えに、二人から血を吸われたのが何よりも恐ろしい話なのである。





今晩は左手です。

何故だか箱と一緒に元の世界に還ってきちゃいました。とりあえず本体と感覚が繋がっているから、問題はないでしょう。


しかし左手だけが蠢いていたら軽くホラーなので、家族が箱を受け取ったのを確認したら家から出ていきましょう。


ふむ…どうやら居間に置かれた箱に気が付いたようですね。ではこれで心置きなく去る事にしましょう。


本体の居る異世界に戻れるまでは、人間の体を維持してごまかして過ごしますかね。


おや!?本体は醤油と味噌とマヨネーズと梅干しが食べたいようですね。ならば買っていきますか…。こっそり自室のへそくりを持ってきておいて正解でした。


全部購入しましたし、これでいつでも召喚して下さって大丈夫ですよ~。




ある左手の回想より

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