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辺境の元英雄と光の癒し手 -共鳴の絆-  作者: もちすけ34


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【第八十七話】 猛攻

「一人ずつじゃダメだ……! 繋げろ、合わせるぞ!!」


ガレンの咆哮が、地下神殿の天井を揺らした。


『個』の全力をそれぞれぶつけるだけでは、カイルという圧倒的な絶望の壁は崩せない。

第九隊の全員が、その牙城を崩す唯一の術を理解していた。黒霧狼戦で掴んだ“六人で一つの生命体になる戦い方”。それだけが、今のカイルに届く唯一の術だった。


今度は、魔力も解禁されている。

風も、土も、肉体も、持てるすべての力を一本の糸のように繋ぎ合わせる。


「リアナ!」

「任せて……ッ!」


リアナが杖を大きく振るった。

魔力を削ぐのではない。限界まで練り上げた風をカイルの頭上と足元へ同時に送り込み、密度の異なる不規則な気流の渦を作り出す。猛烈な乱気流が、カイルの視界と身体の軸を激しく揺さぶる。


カイルの踏み込みが、一瞬だけわずかに揺らいだ。


「右軸脚、沈みます!」


すかさずミレイユが叫び、石畳に両手を突いた。

地脈を通じた魔力が足元へ走り、崩れた石畳がカイルの右足首を包み込むように爆ぜる。隆起した岩がその足首を噛み、沈み込みを強制的に固定した。


「そこだぁッ!」


ドレイクが巨大な大盾を前面に押し出し、地を蹴る。

カイルの正面から巨体ごと体当たりをぶちかまし、その太刀筋の始動を物理的に押し潰した。


ドガァァンッ!!


盾と剣が激突する強烈な衝撃。ドレイクの足元から石畳が破砕するが、その背中をガレンが力任せに支えて強引に踏みとどまる。


「滑り込め、ユアン!」

「はぁぁぁッ!!」


ドレイクの盾の陰から、ユアンが影のように滑り出した。

間髪入れずに放たれた長槍の突きが、隙の生まれたカイルの脇腹を深々と穿つ。手応え。肉を切り裂き、肋骨を砕いて奥へ届く確かな感覚。


「まだ引くなっ!」


即座に引かれた槍の軌道と交差するように、上空からガレンの大剣が振り下ろされた。


ガギィィィンッッ!!!


ユアンが穿った全く同じ傷口へ、ガレンの渾身の一撃が寸分違わず叩き込まれる。

激しい火花と血沫が飛び散り、カイルの巨体が初めて大きく揺らいで、膝が石畳に叩きつけられた。


「……やった!?」


リアナが息を呑む。


息つく暇もない連撃。リアナが視界と軸を奪い、ミレイユが足首を縛り、ドレイクが殺し、ユアンが隙を穿ち、ガレンが重撃を叩き込む。

黒霧狼を打ち破ったあの完璧な噛み合いが、魔力を得ることでさらに鋭く、殺傷力を増した連続攻撃となって結実していた。


連携すれば、届く。カイルの圧倒的な動きを、確実に制限できている。


だが――。


シュゥゥゥ……ッ。


カイルの傷口から、泥のように重い黒霧が爆ぜるように噴き出した。

切り裂かれた肉の隙間へ黒霧が蠢きながら潜り込み、黒い血管のように禍々しく脈打ちながら、裂けた皮膚と砕けた骨を強引に縫い合わせていく。


「……なっ……!?」


ガレンの目が、驚愕と不快感に大きく見開かれた。

肉体が自然治癒しているのではない。不気味な黒霧が傷口を汚染し、強制的に肉体を固定して『修復』しているのだ。


「ウエス……ウエス殺す……!」


痛覚すら覚えていないかのように、カイルは濁った瞳のまま大剣を横一閃に振るった。

その無機質で圧倒的な一撃が、間近にいたガレンの胸甲を粉砕し、鮮血とともに吹き飛ばす。


「ガハッ……!?」

「ガレン!」


間一髪でドレイクが割り込み、追撃の刃を大盾で受け止めたが、ドレイクの腕の骨が悲鳴を上げるような重圧が襲う。


「傷が……即座に塞がってるわ……!? 黒霧を取り込んで、体を強制的に補修してるんだ……!」


ミレイユの声に、悲痛な色が混じる。


切っても、穿っても、黒霧が脈打ちながら傷を埋めて立ち上がってくる。

カイルの圧倒的な攻撃力と耐久力は、何一つ削れていなかった。


「くそっ……もう一度だ! 手を緩めるな!」


ユアンが叫び、再び槍を構え直す。

だが、その視線がふと後方へと向いた瞬間、ユアンの表情が凍りついた。


崩落した石柱の影に倒れるウエス。

その体を覆う黒紫色の脈動は、まるで心臓へ向かう道筋を辿るように、首筋から胸元へと刻一刻と広がり続けていた。

ウエスの呼吸は浅く荒い。胸が上下するたびに不気味な黒霧が脈打つ。その悲惨な光景が、ユアンの心を一瞬だけ奪った。


(ウエス隊長……あの侵食が、心臓に届いたら――!)


「しまっ――」


揺らぐ視線。戦闘におけるそのわずかな隙を、カイルが見逃すはずもなかった。


ドッ!


凄まじい踏み込み一発で間合いを詰めたカイルの刃が、ユアンの肩口を浅く切り裂く。


「くあぁッ!?」

「前に集中しろ!」


ドレイクが怒号を上げ、間一髪でカイルの追撃を盾で遮り、押し返す。


ウエスを気に病むあまり、第九隊の完璧だった連動に、目に見える揺らぎと焦りが生じ始めていた。


「落ち着いて! 私たちが乱れたら、隊長を守れない……!」


リアナが必死に声を張り上げ、再び凄まじい風を巻き起こしてカイルの視界と間合いを塞ぐ。


第九隊がこれまで培ってきた連携は、確実にカイルの動きを制限し、互角に近い肉弾戦へ持ち込むだけの力を発揮していた。

連携すれば、戦える。決して自分たちの成長は偽りではない。


しかし――目の前の異様な再生力を前に、決定打を与えることができない。

連携すれば戦える。だが、勝利の形がどこにも見えない。


迫り来る焦燥と絶望の中で、第九隊の泥臭い死闘は続いていた。

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