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辺境の元英雄と光の癒し手 -共鳴の絆-  作者: もちすけ34


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【第七十七話】 地下湖へ

 土煙がゆっくりと晴れていく。

 崩落した瓦礫の山を挟み、ガレンは必死に声を張り上げた。

「隊長っ! ユアンっ!」

「おい、返事をしてくれ!」

 ドレイクが大剣で岩壁を叩き、リアナが風を送って向こう側の気配を探る。だが、返ってくるのは冷たい反響音と、空間の裂け目が軋む嫌な音だけだった。

 完全に道は閉ざされていた。いくら力任せに抉じ開けようとしても、地脈がねじれ切ったこの場所では、迂闊に動けばさらなる崩落を招くだけだ。

 一方のウエスも、耳を澄ませていたが、仲間の気配はもう微塵も感じられなかった。

(完全に、分断されたか……)

 魔力を失った身体で、迷宮の奥に取り残される。本来なら絶望してもおかしくない状況だったが、ウエスの表情に焦りはなかった。

 ふと、隣を見る。ユアンが顔を青ざめさせ、小刻みに震える拳を握り締めていた。

「本当に……大丈夫なのか……?」

 絞り出すようなユアンの問いに、ウエスはしっかりと頷いてみせた。

「ああ。あいつらは強い。それに……俺たちを信じて進むしかない」

 ウエスは前を向いた。

 進むべき道は一つしかない。二人はそのまま、迷宮のさらなる深部へと歩みを進めた。

* * *

 ウエスとユアンが足を踏み入れた通路は、進めば進むほど奇妙な変化を見せ始めていた。

 ドクン。

 ドクン。

 懐にしまった共鳴石の鼓動に似た脈動が、足元の地面や壁からダイレクトに伝わってきていた。壁面に刻まれた古代文字の摩耗した溝に、淡い、青みがかった光が脈打つように走り始める。

「この迷宮……生きているみたいだ」

 ユアンが息を呑み、壁に触れていた手を引っ込めた。

 壁がまるで呼吸するように膨らみ、縮んでいる。それは冷たい石壁ではなく、巨大な何かの体内を歩いているかのような、底知れぬ気味悪さだった。

(……この鼓動、共鳴石の反応とも違う。だが、奥に何かがある)

 ウエスは胸の奥で高鳴る鼓動の正体を確かめるため、さらに足を速めた。

* * *

 一方、ガレンたちのいる区画では――。

 激しい空間変動が収まり、暗い岩陰に静けさが戻った時、ガレンの呼びかけに答えるように足音が響いた。

「――ガレンさん!」

「ミレイユ、リアナか!」

 一度は別の横道へ呑み込まれていたミレイユとリアナが、壁伝いに這うようにして合流を果たす。ドレイクを含めた四人が揃い、まずは最悪の事態を免れたことに全員が息を吐き出した。

 だが、すぐに険しい表情に戻る。

「隊長とユアンの姿が見えない……!」

 ガレンが崩れた通路の瓦礫へ駆け寄り、必死に声を張り上げるが、返ってくるのは冷たい反響だけだった。

「戻るぞ。あの人たちだけで深部に行かせるわけにはいかない」

 大剣を構え直して道を引き返そうとしたガレンを、ミレイユが青ざめた顔で押し止めた。

「待ってください、ガレンさん! 空間の裂け目の向こうは強力な魔力回路が乱れすぎています。無理に戻ろうとすれば、私たちごと空間の歪みに押し潰されます」

 ミレイユが突き出した小型計器は、限界を超えた警告音を鳴らし続けていた。

 ガレンは歯噛みし、握りしめた拳を震わせた。ここで感情のままに突撃すれば、全員が共倒れになる。

 ふと、ガレンは頭を振って、迷いの色を消し去った。

「……いや、隊長なら――あの人なら、俺たちがここで足踏みすることを望まないはずだ」

 信頼の重みが、ガレンの声音に確かな芯を与えていた。

「隊長を信じよう。俺たちは、俺たちにできることをやる。別のルートで必ず合流するぞ」

 ドレイクがフッと不敵に笑い、大盾を叩いた。

「いい判断だ、代理隊長。ヒナ鳥のままでいるわけにはいかないからな」

 リアナもミレイユも力強く頷き、四人は隊列を組み直して別ルートの探索へと踏み出した。

* * *

 複雑な縦穴や崩落跡を抜けた先、ガレンたちの視界が突突如として開けた。

「……なんだこれ」

 思わずドレイクが呟く。

 そこにあったのは、迷宮の底に広がる果てしない地下空間だった。

 天井にびっしりと張り付いた発光結晶が青白く冷たい光を放ち、足元を洗うのはただの水たまりではない。湖面全体から濃密な魔力が揺らめき立つ、巨大な地下湖だった。

「水じゃない……湖の底から、底知れない魔力が流れ込んでいるわ」

 ミレイユが測定器を覗き込むが、画面の数値は振り切れ、けたたましいエラー音を奏でてブラックアウトした。

 湖底の深淵を凝視すれば、崩れ落ちた古代遺跡らしき巨大な建造物の影が沈んでいる。

「……! 奥を見てください」

 リアナが細い指先で湖の対岸を指し示す。

 波立つ湖面の向こう、遺跡の隙間を抜けた先に、さらなる深部へと続く確かな「道」の影が見えていた。あそこへ行かなければ、先の目的地へは進めない。

 しかし、道に至るにはこの底知れぬ地下湖を越えなければならない。

 水面から伝わる殺気と圧倒的な魔力のうねりに、四人は身構えた。

 静まり返っていた湖面が、ぐにゃりと歪む。

 小さな波紋が広がり、次の瞬間、水面が盛り上がりを見せた。

 湖底の暗闇から、ゆっくりと――しかし圧倒的な質量を持った巨大な影が、水面へと浮上を開始する。

 逃げ場のない地下湖の空間に、肌を刺すような殺気が満ちる。

 四人は反射的に武器を構えた。

 水柱が爆発するように激しく立ち上がる。

 姿を現した異形の魔物を前に、ガレンは冷や汗を拭い、叫んだ。

「来るぞ!」

 巨大な咆哮が地下湖を揺るがし、水飛沫が四人の視界を白く染め上げた

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