【第六十九話】再会
風が止み、葉擦れの音が遠ざかる。
陽光がわずかに差し込む森の縁で、木々の合間に揺れる見覚えのある旗が視界に入った。ガレンを先頭に、第九隊はピタリと足を止める。彼らの視線は旗から、その下に立つ男の顔へ、そして互いの顔へと静かに交錯した。
圧倒的な静寂。
見つめ合うだけで、言葉は出ない。ウエスの立ち姿は以前とは違う。杖こそないが、肩はわずかに沈み、一呼吸ごとに区切るようなゆっくりとした所作が、今の彼の状態を雄弁に物語っていた。それでも、彼は自らの足でそこに立っている。
「隊長……」
ガレンの低く掠れた声が落ちる。
「戻ったぞ。みんな」
ウエスの静かな応答が響いた瞬間、張り詰めていた空気が一気に決壊した。
「よく戻ってきたな」
真っ先に動いたのはドレイクだった。巨漢を震わせ、力加減に細心の注意を払いながらも、たまらずウエスの肩を不器用に抱き寄せる。
リアナの指先からは安堵の風が零れ落ちた。それは戦闘の冷たい突風ではなく、陽だまりのように温かく、歓喜の舞のようにウエスの周囲を駆け巡る。
ユアンは胸元を強く握りしめ、必死に涙腺を堪えながら背筋を伸ばし、ミレイユは涙を浮かべた目元をレンズの奥でわずかに拭った。
「魔力は戻っていないけど……身体は、かなり回復したみたいね」
彼らの真っ直ぐな喜びに触れ、ウエスは一瞬だけ目を閉じた。
冷たい森の空気の中で、出発直前のベッドの縁での記憶が蘇る。彼の手を握る、確かな温度と包帯の感触。
『無理をしないでほしいの、ウエス』
『首を縦に振るわけにはいかないな。……でも、帰らないとな』
小さく返したウエスに、シーンは目を細めて真っ直ぐに告げた。
『帰るための身体にする。だけど、無理はしないで。あなたの歩幅に合わせるから』
その言葉と手の温もりが、今、ウエスの両足を確かに支え、彼をこの帰るべき場所へと導いたのだ。
ウエスがゆっくりと一歩を踏み出す。片足に体重をかけると、肩が微かに沈んだ。
「隊長、歩けるんですね」
ユアンが震える声で問う。
「歩ける。だが、長くは無理だ」
回復の事実と、明確な身体の制約。それを隠そうとしないウエスの前へ、ガレンが静かに進み出た。
「森内部の野盗の拠点は制圧、転送術者は討伐済みです」
簡潔な報告。そしてガレンは、ウエスの目を真っ直ぐに見据えて力強く告げた。
「剣を握れずとも構いません。俺たちが、あなたの手足となり、剣と盾になります。――もう、あなた一人に無理はさせない」
その言葉は、第九隊全員の総意だった。かつて限界を超えて一人で戦い続けた隊長を、今度は自分たちが守り抜く。その確固たる新たな決意が、隊員たちの燃えるような眼差しに宿っていた。
ウエスは小さく息を呑み、やがて深く頷いた。
「……頼む。俺ももう、無茶はしない」
ドレイクとユアンが自然に両脇へ寄り、ウエスを支えながら下山が始まる。ウエスの掌には、微かに包帯の痕が残っていた。シーンとの約束の温度を確かめるように、彼は軽く拳を握る。
「行こう。まだやることがある」
第九隊は、新たな絆と決意を胸に隊長とともに歩き出した。
だが――遥か遠く、森の深淵では濃密な黒霧がわずかに脈動し、蠢く影が依然として彼らを待ち受けている。




