↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境の元英雄と光の癒し手 -共鳴の絆-  作者: もちすけ34


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/88

【第五十一話】 再始動

ミレイユが手を止めていた机の端に、主のいない湯呑みだけがぽつんと残っていた。

その静寂を破ったのは、執務室の扉を叩く音だった。

王都からの連絡便が届けていった一通の書状。表に記された文字を一目見たミレイユは、息を呑み、震える指先で封を切った。

「……た、隊長からです……! 王都から、手紙が……!」

声が裏返っていた。

その一言で、部屋にいた全員の身体が硬直する。ガレンが駆け寄り、ユアンは握っていた手拭いを潰し、リアナは胸の前で手を組む。壁に寄りかかっていたドレイクも静かに視線を向けた。

ミレイユは小さく息を呑み、震える指先で紙を支えながら読み上げ始めた。

『第九隊のみんなへ。

無事に王都に着いた。心配をかけたが、俺は生きている。

ガレンへ。迷うな、前に進め。

リアナへ。お前自身の風を信じろ。

ユアンへ。自分の歩幅を焦るな。

ドレイクへ。背中は頼んだ。

ミレイユへ。みんなを頼む。

……無事でいてくれ。俺も、ここで足掻いている。

ウエス』

読み終えた部屋に、再び静寂が訪れた。だが、それはもう重苦しいものではなかった。

ガレンは激しく拳を握りしめた。噛みしめた唇からかすかな血の味が広がり、足を静かに踏みしめる。

「……隊長、無事なんだな。生き、てるんだな……!」

ユアンは目頭を真っ赤に染め、溢れそうになる涙を堪えながら、静かに何度も頷いた。

リアナは目元を緩め、静かに温かい笑みを浮かべている。

部屋の隅でじっと聞いていたドレイクは、静かに視線を落とし、低い声をぽつりと漏らした。

「……よかった」

たった一言。だがその言葉が落ちた瞬間、凍り付いていた第九隊の空気が一気に解け、確かな熱となって部屋を満たした。

訓練場の土は、雨と足跡でドロドロにぬかるんでいた。

その中央で、ユアンはただひたすらに槍を突き出していた。

胸のポケットには、固く折りたたまれた手紙の写しがある。

「……強くなる。絶対に」

潰れた掌から滲む血が、泥と混ざって柄を赤く染めた。

その時、ふっと柔らかい風が吹き抜けた。

ユアンが繰り出した槍の柄を風が微かに押し、軌道がほんのわずかに修正される。突き出された槍先は、これまでにない速度で目標を捉えた。

ユアンの槍が木偶を深く穿つ音が、訓練場に響いた。

その余韻の中で——リアナの風がざわついた。

風の衣を引っ込めたリアナの指気に、湿った冷たさを含んで揺れる微風が巻きつく。

リアナは胸元の服を小さく握りしめた。胸騒ぎが、確実に強まっていた。

「おい、第九隊! 補給班だ!」

補給班の兵士たちが四人がかりで巨大な木箱を運び込んできた。

「ドレイク。お前宛ての新型大楯だ。最優先支給になった」

ドレイクは黙って歩み寄ると、蓋を持ち上げた。

そこに収められていたのは、漆黒の金属で造られた大楯だった。表面に刻まれた複雑な魔導刻印が、蒼い光を宿した瞬間、周囲の空気がわずかに沈んだ。

「……守る」

低い声。それだけで十分だった。

その背に、ガレンが歩み寄る。

「頼りにしてるぞ」

「……ああ」

ガレンは懐から手紙を取り出し、じっと見つめた。深く息を吸い、溜め込んでいた不安を吐き出す。

「……守る。隊長が戻るまで、俺たちが」

声は低く、しかし揺るぎなかった。

ガレンは手紙を折り、静かに腰の剣に手を置いた。

リアナが隣に立ち、静かに頷く。

「第九隊、動くぞ」

ガレンの静かな言葉に、全員の視線が定まった。

 ユアンが槍を構え直し、ミレイユが資料を抱え直し、リアナが風を周囲に広げる。

そしてドレイクは背の大楯を外し、泥深き地面へと重く突き立てた。

ズン、と重低音が響く。

声なき一歩が、第九隊の背骨を強く打ち直す。

ガレンが空を見上げる。雲の切れ間から、青い光が差し込んでいた。

ドレイクが、地面に刺した大楯の柄を力強く握り直した。

「……行く」

それだけで十分だった。

寡黙な一言が、静寂を切り裂く。

第九隊の新たな一歩が、いま、確かに刻まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。