【第十七話】 身のほど知らずの咆哮と、奇跡のソヨ風
「ひっ……で、出たぞ! 野盗だ!!」
街道の曲がり角。
草むらから、大斧を持った男と長槍を持った男の2人組の野盗が飛び出してきた。
「ヒャッハー! 荷物を置いていきな──」
「しゃあぁぁっ! ぶっ殺してやるぜぇぇっ!」
野盗の決め台詞が終わるより早く、ガレンが「待ってました」とばかりに大剣を抜いて突進した。
「あっ! ガレンさん待ってください! 護衛対象から離れたら──!」
リアナが止める間もない。
「ハハッ、雑魚が二人だけなら一瞬で……うおっ!?」
勢いよく飛び出したガレンだったが、昨日の雨で泥濘んでいた足元に足をすくわれ、前のめりに派手に体勢を崩してしまった。
「なっ、バカが勝手に転びやがったぞ! ぶっ刺せ!」
槍持ちの野盗が、無防備になったガレンの背中を目がけて槍を繰り出す。
「ガレンさんっ!! 止まって言ったのにぃぃぃっ!!」
半泣きになったリアナは、半ばパニック状態で手を突き出した。
(どうしよう、届かない! でも、助けなきゃ!!)
リアナは無意識に、ガレンの体へ風を叩きつけた。
教わった攻撃魔法ではない。「そっちに行かないで!」と背中を横から突っぱねるような、半ば投げやりな強風だ。
ドガッ!!
「ぶふぇっ!?」
ガレンの巨体が、まるで見えない巨大な手に横から殴られたように、不自然な角度で地面を横滑りした。
直後、ガレンがいた空間を野盗の槍がむなしく空切る。
「な、なんだぁ!?」
「ぶはっ! な、何すんだリア! 酔うだろ!!」
泥だらけになりながら立ち上がるガレンに、リアナが叫び返す。
「文句言わないでください! ガレンさんが勝手に転ぶから助けたんじゃないですか!!」
「威力が強すぎるんだよ! ……って、後ろからもう一人が来てるぞ!」
大斧を持ったもう一人の野盗が、横転したガレンへ上段から斧を振り下ろす。
「危ないっ!!」
リアナが再び「向こういって!」と夢中で風を放つ。
今度はガレンの手元に風が直撃し、勢い余ってガレンの大剣が跳ね上がった。
ギィィンッ!!
「うおっ!? 剣が勝手に……!?」
リアナの風で押し上げられたガレンの大剣が、偶然にも野盗の大斧を根元から弾き飛ばし、そのままの勢いで野盗の胸元へ強烈な柄打ち(ツカうち)となって叩きつけられた。
「ごふっ……!?」
大斧の野盗が白目を剥いて倒れ込む。
「え、えええ……!? たまたま当たった!?」
目を丸くするリアナ。
残された槍持ちの野盗は、泥だらけで大剣を構えるガレンと、必死な顔で手をかざすリアナの「意味の分からない動き」に恐怖を感じ、逃げ出した。
「ひ、ひぃぃぃっ! 化け物どもめーっ!」
「あ、待てコラぁ! 逃げるなっ……って、逃げられたか……」
戦闘が終わると、街道には倒れた野盗一人と、泥だらけのガレン、そして膝から崩れ落ちるリアナが残された。
「はぁ……はぁ……つ、疲れたぁぁぁ……」
緊張の糸が切れたリアナは、その場でへたり込んでしまった。
ガレンは大剣を背中に背負い直し、泥を拭いながらズカズカとリアナへ歩み寄ってくる。
(う、うう……やっぱり『変な風ぶつけるな』って怒られる……!)
ぎゅっと目を瞑るリアナ。
だが、頭上に降ってきたのは、雑で豪快な頭ワシワシだった。
「ひゃうっ!? 髪がぐしゃぐしゃになりますガレンさんっ!」
「へっ……おい、落ちこぼれ」
「落ちこぼれって言わないでくださいって……」
「……悪くなかったぜ、お前のあのソヨ風。おかげで死なずに済んだ」
「え……?」
ガレンは気まずそうに横を向きながら、ニッと八重歯を見せて笑った。
「これからは俺が突っ込む時は、ちゃんと後ろから風で合わせろよな。一回でもタイミングズレたらぶっ殺すぞ」
「そんな無茶苦茶な言い方ありますか!?」
抗議しながらも、リアナは胸の奥が少し温かくなるのを感じていた。
自分の「地味で弱い風」が、破天荒な先輩の命を救ったのだ。
……その傍らで、捕らえた野盗の懐を調べていたウエスが、硬い表情で何かを拾い上げた。
「隊長、何かありましたか?」
ドレイクが歩み寄る。
「……ただの野盗にしちゃ、えらく上質な『官品の硬貨』を持っている。それに、この手慣れていない刃の研ぎ方……」
ウエスは遠くの山並みを見つめ、静かに呟いた。
「最近増えている野盗……どうやら、ただの食い詰め者の集まりじゃなさそうだぞ」
「……裏に、何か大きな動きがある、と?」
「ああ。……だが、今は目の前の任務だ」
ウエスは表情を和らげ、泥だらけで口喧嘩をしているガレンとリアナへ視線を戻した。
「おい、お二人さん! 泥を落としたら出発だ! まだ護衛の途中だぞ!」
「はーい! ほらガレンさん、泥落としてください!」
「へっ、これくらい男の勲章だっつーの!」
たまたま噛み合った(?)奇跡の凸凹コンビ。
二人の賑やかな声が響く中、一行は不穏な影が差し込みつつある街道を、再び進み始めるのだった。




