【第十四話】 不器用な刃と、泥の警備
【第九辺境騎士団駐屯地・朝】
「……ちっ、またオッサンの地味な講釈かよ」
朝礼前、大剣の手入れをしながらガレンは吐き捨てた。
ウエスが隊員たちを集めて行うのは、派手な剣術の稽古ではなく、風の読み方や足裏の重心移動といった「地味で地道な基礎」ばかりだ。
先日、ウエスの神業のような立ち回りを目撃し、ホブゴブリンから命を拾ったことは紛れもない事実だ。
だが、だからと言ってガレンの心が折れたわけでも、ウエスに心服したわけでもない。
むしろ逆だった。
(あのオッサンは、俺に「強さの次元の違い」を見せつけた。なのに、自分の体がガタついてるのを隠して平然としてやがる……何なんだあの余裕は。腹が立つ)
ウエスに教えられた技術を夢中で盗もうとしている自分自身にも、ウエスに対して全く手も足も出ない現状にも、ガレンは酷く苛立っていた。
「ガレン、またそんな口を……」
ミレイユが呆れたように眼鏡を直すが、ガレンはそっぽを向いて鼻を鳴らすだけだった。
そこへ、ウエスが静かな歩調で現れる。
「全員そろっているな。本日の任務を伝える」
ウエスは地図を広げた。
「東の交易路付近の境界線で、小さな魔獣の群れが暴れている。商隊の通行に支障が出ているため、排除および周囲の警戒を行う」
「……はあ? ワイルドボアぁ?」
ガレンがあからさまに嫌そうな声を上げた。
「そんな雑魚狩り、俺一人で行けば十分だろ。オッサンたちがぞろぞろ付いてくるような仕事かよ」
ウエスはガレンの反抗的な視線を正面から受け止め、表情一つ変えずに応じた。
「群れをなせば猪一頭でも侮れん。特に、狭い木々の中ではな。それに……ガレン、お前はまだ『力任せに振る』癖が抜けていない」
「――っ、何だと!?」
カッとなったガレンが思わず踏み出そうとするが、隣にいたドレイクが重々しくその肩を押さえつけた。
「静かにしろ、ガレン。隊長の指示だ」
「……チッ。どいつもこいつも……!」
ガレンは大剣を乱暴に担ぎ上げると、ウエスを鋭く睨みつけた。
「いいぜ。俺がさっさと片付けて、オッサンの出る幕なんてねえってことを証明してやるよ」
ウエスはその背中を見送りながら、静かに息を吐いた。
(……素直にはほど遠いな。だが、あれでいい)
懐かない反発心も、尖りきったプライドも、命を落とさない限りは生きる力になる。
ウエスは胸元の共鳴石にそっと触れ、わずかな痺れを残す己の右手を隠すように手袋を締め直した。




