67話 元国民的子役、宣言をする。
「ねぇねぇ、みんな知ってる!?今ね、日曜の九時がアツいんだよ!」
毎週お決まりの日曜午後九時三分、トワコンチャンネルの配信でワコは興奮を隠さずにそう言った。
「本当いろんな芸能人の人が日曜九時から配信始めてるんだよ。テレビとかだと昔は金・土の夜がゴールデンタイムって言ってたんだけど、時代は変わったねぇ。そういう意味ではわたしは先見の明があったのかな?すごくない?」
誇らしげに、憎たらしいくらいのドヤ顔でワコは笑う。コメント欄は困惑に包まれる。
『それって、もしかして……』
『お化けの時と同じかよwww』
『あの芸人好きだったのに、そういうことする人だったのか』
そのコメントを見てワコはムッとして頬を膨らませる。
「あ。そういうの禁止。憶測。誹謗中傷。ダメ、絶対。ごめんなさいして」
『……ごめんなさい』
リスナーが素直に謝ると、ワコは当然満面の笑顔に変わり、うんうんと頷く。
「ちゃんと謝れて偉いねぇ。よしよししとくか。せっかく日曜九時が盛り上がってきたんだから、楽しく行こう!」
早速『#日曜9時』がトレンド入りする。色々な芸能人がチャンネルを始めたこと自体はみんな知っていたが、時間が被っていることは意外に話題になっていなかった様子。
人気アイドルグループも、ダンスユニットも、芸人さんも、様々な芸能人が日曜九時に動画を投稿したり、生配信を行う。
あたりまえだけど、視聴者も、時間も有限だ。ワコの配信の同時接続は減った。
元々がチャンネル登録者に対して同時接続数が多すぎたのもあるけれど、ほかの配信者に取られるように、同時接続は減って、なぜかそれ以上にアーカイブ再生が増えた。
一応なにかの参考になるかと思って、日曜九時に配信された他の芸能人の動画を見てみる。綺麗に編集されて、しっかりと構成された、完成度の高い動画。まるでテレビ番組のワンコーナーのような。
もちろんそれが悪いとは全然思わない。テレビよりも少しリラックスした様子で、裏方さんとの距離も近く、普段見られない一面も見えるのだろう。ファンからしたらそれは絶対に嬉しいことだろう。
それでも、トワコンチャンネルの登録者数は伸び続け、再生数も増え続け、同時接続者数も、以前と変わらぬ水準まで戻った。
理由なんてわからないし、分析する気も必要もない。だって、俺たちは何も変えていないし、結果から何かを変えるつもりもない。ただ、ワコが感じる楽しいとか嬉しいを電波に乗せてみんなに送るだけなんだから。しいて理由をあげるとするなら——、ワコだから。それで十分だろ。
「トワコンチャンネル!登録者数50万人突破っ、みんなありがとう〜!」
十和子の拍手が部屋に響き、画面ではワコが嬉しそうに笑う。
——ユーザー名・azusaurus『おめ』500円。
『でw』
『まじでいつもいますね』
『皆勤賞では?』
毎度お馴染みazusaurusさんのスパチャにコメント欄も反応する。チャンネルを開設してから約半年。事実、皆勤賞だ。
コメント欄を見て微笑みながら頷くワコ。
「わたしもうあんまり数字は気にしないんだけどさぁ、こんなに多くの人が見てくれるってのは単純に嬉しいよね」
『50万人突破記念コラボとかやらないの?』
コメント欄にそんな言葉をワコは見つける。
「記念コラボかぁ……、えーっとね、これ言っていいのかな?」
眉を寄せて十和子が俺を振り返る。俺の答えは決まっている。当然◯である。含みのあるワコの言葉にコメント達もざわつく。
『まさか』
『おお、ありそう』
『進行中か!?』
言えばもう後戻りはできない。もとよりするつもりもない。ワコはワクワクを隠せない顔で、力強く宣言する。
「言っちゃお。100万人。わたしを見てくれる人が100万人になったら、一緒にやろって約束してるんだ。わたしの友達の中で、一番わがままで、一番目立ちたがりで、……一番子供みたいで世話の焼ける人と!」
——ユーザー名・azusaurus『誰かなぁ?』8989円。
『うおおおおおお』
『キタぁぁぁぁぁぁあ!』
『みんな!100万人まで連れてくぞぉぉぉぉ!』
『泣いた』
怒涛のように盛り上がるコメント欄。ワコは照れくさそうにはにかみながら身体を揺らす。
「まぁ、でも?別に数字の為に配信やってるわけじゃないから?いかなかったらいかなかったで、その子にはごめんだけどねぇ。あははっ」
——ユーザー名・azusaurus『そんな未来ないからー』9999円。
『絶対見たい』
『100万はきついだろ……』
『うるせェ!!!いこう!!!!』
ワコは本当に嬉しそうに笑う。うーろんさん製作の柊ワコver2.0は、そんな表情も余すことなく画面に表してくれる。
「あのね、言っとくけど一番楽しみにしてるのわたしだから」
そう言って笑ってワコはコントローラーを持つ。
「はいはい、雑談終わりっ。ゲームやろ。レースゲーム。11人。早い者勝ちね。それじゃID貼りま~す。3、2、1……はいっ!」
画面にIDを貼ると、瞬く間に画面にはワコを含めて12人の参加者が集まる。
時鳥さんはこういう時絶対に出しゃばらない。その気遣いに俺もつい嬉しくなってしまう。
ワコの言葉は一つだけ間違っている。二人のコラボを世界で一番楽しみにしているのは、きっと二人だ——。
配信を終えると、十和子はヘッドフォンを外してふぅと小さく息を吐き、水を一口喉を潤す。
「悔しいぃ」
椅子を回して俺の方を向くと、十和子は苦々しげな顔でそう告げた。レースゲームは全部で5レース行った。ワコを含めて12人の対戦で、ワコは最高6位だった。
「だからイツキに勝って気持ちよく終わろっかな」
十和子は笑顔で俺にコントローラを渡してゲームを点ける。
「大丈夫か?悔しくて眠れなくなるんじゃねぇ?」
コントローラーを受け取り、テレビの前に座る。
「ふふ、そしたら朝までお話ししてよっか」
不敵な笑みで十和子はそう言った。
——結局、俺は悔しさを紛らわすように、十和子と電話をしながら歩いて帰った。




