54話 【一夜限りのトワコン文化祭!②】謎の建造物
配信開始から三時間が経過。夕方五時にもなるとチャンネルの同時視聴者数も、ゲームのログイン人数もだいぶ増えてきた。
サーバーログイン人数は現時点で1755人。
――ユーザー名・00oolong『ワコさぁん!小生の作った作品、是非是非ご拝謁ください!座標――』10000円。
「え。うーろんさんじゃん。こんにちは~。座標……、え、これ結構遠いなぁ。あとでいいです?お仕事しながら気長に待っててくださ~い」
――ユーザー名・00oolong『ハイ……、小生待てます』
『塩w』
『有名モデラー・うーろん氏、散る』
つい笑ってしまう。うーろんさんはビジネスメールだと礼儀正しいのではなく、親しくなると素を出してくれるタイプなのかもしれない。十和子とは写真のやり取りとかでだいぶ仲良くなったことが窺えるやり取りだ。
ワコはみんなと話しながら、模擬店を巡る。残り五時間で全部見られるのか?ちょうど俺がそう思った時に、ワコも呟いた。
「あはは、みんな本当……いっぱい作ってくれたなぁ。これじゃ、時間内に全部見終われないかも」
『次回もやろう』
『一夜限りの文化祭、二日目――』
『子供は夜は眠る時間だよ』
コメント欄を眺めて、ワコは申し訳なさそうに眉を寄せる。version2.0では、その繊細な感情まで伝わってくるようだ。
「本当は私もそれ考えたんだよね」
『やろう!』
『やっちゃおう!』
『俺たちの文化祭は終わらない!』
ワコの背中を後押しするように、リスナーも声を上げる。そのコメントを見て嬉しそうに微笑むワコは言葉を続ける。
「でもごめんね。これ、完全にわたしのわがままなんだけどさ。わたしね、見てくれるのがゼロ人だっていいの。それでも『やってやるぞ!』って始められる。……でも、まだやっぱり――」
少し考えて、ワコは呟く。本来なら配信中のエンターテイナーとしては失格なのかもしれない。寂しげで、今にも泣きそうな声で。
「飽きられるのが怖いんだぁ」
コメント欄は止まる。かつて国民的子役と呼ばれたワコが、消費され、飽きられ、オワコンと呼ばれテレビから姿を消したことを多くのリスナーが知っているから。
止まるコメント欄と重い空気に気づいたワコは次の瞬間、にぱっと花が咲くような笑顔に変わって、ケラケラ笑う。
「あとね、この文化祭お金掛かるの。いくら掛けたか教えてあげよっか?わたしはよくわかってないんだけど、最大9000人まで参加できるようにサーバー?とか増やしまくって、最強のエンジニアさん紹介してもらって~、なんと512万!」
ワコの手のひらが『5』を示す。
『なん……だと……』
『すげぇw』
『azusaurusさん、出番です』
再び流れ出したコメント欄を満足そうに眺めて、ワコはうんうんと頷く。
「でしょ?高いでしょ~?そのくらい無茶なことをやってくれたお三方には本当感謝してます。ねぇ、名前。出して平気?」
十和子は俺を振り返って問う。常人さんに確認したところオッケーとの返答が来るので、両手で大きく〇を作る。
「スーパーつよつよエンジニア集団・『ケルベロス』の三人!常人29号さん、アーノルドさん、なめろうさんのお三方です、拍手~」
コメント欄は拍手と感謝で流れていき、ワコの話は続く。
「てなわけで、続けるとわたしが破産しちゃうんです。正直なところ。だから、今日で終わりっ!さ、どんどん回っていくよ!さぁ、次は~?」
――『だから、今日で終わり』。明るく、力強くワコはそう宣言した。
それから一時間ほど経過して、ようやくうーろんさんのスパチャは実る。メイン会場やワコストリートから遠く離れた平地。ほかに建物を作っているような人はいない。指定された座標に着くと、うーろんさんと思われるキャラクターが延々とブレイクダンスのように回り続けていた。
——ユーザー名・00oolong『お待ちしてましたぁ!小生の力作、どうですか!?』
ワコは周囲を見渡す。特に目立った建造物は見当たらない。ほかの地域より色とりどりの花が咲いているだけだ。巨大ワコ像とか、サグラダファミリアのような荘厳な建造物を想像していたが、なにもない。
「うーろんさん。なんにもないけど?座標間違ってない?」
『何を仰いますか。ちゃんと上から見てくださいよ、上から」
そう言ってうーろんさんのキャラクターは踊りながら一度ピョンとその場でジャンプする。
「上から……?どうやって」
周囲には高台もないし、アドベンチャーモードでは宙高く浮くことは出来ない。考える間もなく、サーバー管理者である常人さんから全体チャットが入る。
『管理者権限でワコさんに『飛行権限』のプラグインを入れました。ジャンプ二回で空を飛べます』
言われるままにワコがジャンプ二回押すと、ワコは宙に浮く。
「あっ、本当だ。常人29号さん、ありがと」
ジャンプを繰り返して、空高く浮かぶ。そして地面を見る。
「え、すごっ」
地上にはかなり高精細なワコの笑顔が描かれていた。色とりどりの花を使って、ドット絵のように、ワコが描かれていた。
「すご~。みんな、これ絶対見に来た方がいいよ。常人さん、飛べるやつ全員にできますか?」
『無理ですね。さすがにサーバー落ちます』
「そっかぁ。じゃあ、文化祭終わってデータダウンロードしたら、各自で見に来てね。うーろんさんの力作!……っていうか、うーろんさんは空飛べないんですよね?これどうやって描いたんだろう?」
——ユーザー名・00oolong『どうって、普通にです。小生ドット打ちも得意なんで』
なんとなく、ナスカの地上絵を思い出した。さすがうーろんさん。ただの奇人ではない。
ワコは宙を浮かびながら、様々な角度からワコの地上絵を眺める。
「皆さん、スクショ取った?座標も控えた?や~、これ本当にすごいね。とはいえ、ずっとここにいるわけにも行かないので、そろそろ会場に戻ろうと思います。文字通り、飛んで帰ろっ」
せっかくだからと、空を歩いて文化祭会場を目指すワコ。
そんな中、しばらく歩いていると一つのコメントが目に留まる。
『今、なんかなかった?』
「え?本当?どこどこ」
付近をキョロキョロしつつ、カメラを切り替えるワコ。
『下。なんか看板みたいなのが』
『あー、マジだ』
『ワコちゃん、も少し右』
ユーザーたちの指摘の通り、地面に降りたワコは一つの看板を見つける。看板には矢印だけが書かれていた。
それを見た瞬間、ワコの顔が期待と高揚の笑顔に変わる。
「あっは、面白っ。乗っていい?いいよね、みんな」
『もちろんっ』
『いい笑顔』
『それでこそワコ』
そのまましばらく歩いているとまた看板を見つける。もちろん、看板には矢印。その次、その次、会場から遠く離れた場所へと誘導され、そこには最後の看板があった。
『入口』
看板の先には、明かり一つない地下の入り口が広がっていた――。
ワコはもうワクワクが抑えきれない様子で、たいまつの明かりを灯して笑う。
「行こっ」




