46話 元国民的子役は全部見たい。
夜十時、ここ最近はこの時間から俺と十和子はビデオ通話をしながらゲームを始める。ソフトは当然BauKraft。リスナーのみんなに開放していない時間を使って、俺と十和子はインフラ作成を進める。
とはいえ、毎日本当にいろんな人たちがワールドを訪れてくれて、様々なものを作ってくれているので、俺と十和子のやることもだんだんとなくなってきた。
「イツキ、見てこれ。本当に夜店みたい」
ワコストリートの左右に軒を連ねる模擬店を眺めて、画面でワコが右往左往して、両手を上げる。
PCのキーボードを併用している様子で、操作をしながら器用にジェスチャーを交えてくる。今までゲームなんてあまりやったこともないだろうに、さすがの呑み込みの早さ。
会場を見下ろす高台には、誰が作ったのか巨大なワコ像。近づいて看板を見てみると、作者はazusaurusさんではなかった。
「時鳥さんじゃなかったか」
俺が残念そうに呟くと、十和子は我が事のように得意げなドヤ顔を見せる。
「梓がそんなわかりやすいことするわけないじゃん」
その表情からは全幅の信頼が見て取れて、ほんの少しだけうらやましくも感じる。
「すげぇ信頼感」
「そういうんじゃないよ。子役時代からずっと知ってるだけ」
初共演は小二の頃の情報番組・『朝ハロ』。だけど、それ以前からオーディション会場で何度も会っていたらしい。裏表のない性格の時鳥さんは、ほとんどテレビに映るまんまの性格で、初対面の時からずっと十和子に懐いているそうだ。
それを懐かしそうに思い出して、十和子は微笑む。
「他にも子役はいっぱいいたし、席が近かった訳でもないのに、なんだろうね、本当」
「俺はわかるけどな。そんなの理由とか理屈じゃないだろ。ワコなんだから」
俺の言葉を聞いた十和子は呆れた様子でコントローラを置いて伸びをする。
「あー、そっか。じゃあ意外とウマが合うかもね、イツキと梓」
「時鳥さんは俺の存在知ってる感じ?チャンネル運営のお手伝いしてる丁稚くんの存在」
「丁稚って。一応伝えてあるよ」
ワコストリートにはたくさんの提灯の明かりも並び、本物のお祭りのような雰囲気を出している。幸いなことに、今のところみんな本当に行儀よく遊んでくれていて、小さいものは少しあるくらいで、重大な違反や荒らし行為はなく、毎日みんな楽しそうに祭りの準備をしてくれている。
「イツキ、見て。ここ。綿あめストリートだって。面白っ」
「おぉ、マジだ。店ごとに色が違います、だって」
「ここは来たいリスト入りだね。一時間じゃ回れないなぁ」
困り顔で十和子は会場を回る。やれやれ全く、いったい何を言っているんだって話だ。
「あのな、十和子。お前が言ったんだぞ?『テレビと違って後番組があるわけじゃない』って」
あきれ顔で放つその言葉だけで、十和子は意味を察する。
「あ、そっか。一時間て決めたのは私か」
そう言うと、ワクワクした表情で、悪戯そうな表情で、十和子の顔はスマホ画面に少し近づく。
「じゃあ、拡大配信にしよっ。せっかくみんなが作ってくれたんだもん。ぜんっぶ……見たい!」
相変わらずの強欲ぶりについ嬉しくなってしまう。
「さすがの全部盛りっすねぇ」
そうと決まれば即行動の十和子。早速SNSで開催告知を行う。
『みんなで作る、トワコン文化祭!再来週の日曜日に開催しまっす。当日の配信はお昼の二時からの超拡大版でやっちゃうよ。できるだけいっぱいの人と遊びたいから、当日は一時間交代でお願いね。大丈夫、わたしはずっといるからね!』
最大150人が8時間で1200人。配信見てくれている人が全員参加するわけじゃないんだろうし、……それで十分な数字なんだろうけど。
来週はうちの文化祭。その次の週がトワコン文化祭。あと二週間しかない。
いや、違うだろ。あと、二週間あるんだ。
「なぁ、十和子」
画面越しに呼びかけると、十和子は俺の表情を見て嬉しそうに口を弛める。
「ふふ、なにその顔は」
言われて自分の顔を手で触れながら、言葉を続ける。
「最大150人を一時間交代?あのな、そんなの全部盛りとは言わないんだよ」
十和子は今にも笑いだしそうな顔を必死に留めながら、俺に問い返す。
「へぇ、じゃあどうするの?」
「まだ決まってない。だけど、今日中に考える。お金、掛かってもいいか?」
平静を装っていた十和子の表情が解けて、ワクワクを抑えきれない子供のような顔に変わる。
「もちろん。チャンネルの利益はみんなに還元しなきゃ。その代わり、ちゃんと夜は寝ること」
当然。俺はコクリとうなずくとスマホを手に取る。
「おう。悪い、通話切るぞ」
「うん、頑張って」
十和子は画面の向こうでひらひらと手を振る。十和子から通話を切ることはあまりないので、切るのは大体いつも俺の方だ。
パンパン、と頬を叩いて机に向かう。全部見たい、全員会いたい。それを叶える方法を探す。あんな啖呵を切ったんだ、『出来ませんでした』なんて十和子が許しても俺が許せない。
机に向かい、パソコンを開き、ノートを開く。トワコンチャンネルの現在のチャンネル登録者は15万6553人。そして月額160円のメンバーシップ登録者数は5029人。通常チャンネル登録者数の0.1~0.3%とからしいので、これはかなり異様な数値だ。ジュース一本分の価格なことも影響しているのかもしれない。
と、なると求められるのは最大値。この5029人が同時にログインできる環境だ。
一度に多くの人数がログインするとサーバーに負荷が掛かって処理が重くなり、ワールドが固まる。かなり高性能なレンタルサーバーを使用しているのだが、それでも150人が限界らしかった。
これを現実で考えると――、と考えた瞬間に取っ掛かりを得た。
学校には多くの生徒がいる。当然、それらは一人の先生では対処出来ない。だから、クラスってあるんじゃないか?
「あれ?これいけるんじゃないか……?」
独り言を呟きつつ、検索を掛ける。
トワコン文化祭におけるワコの目的は、みんなの作った模擬店を全部楽しんで、訪れた全員と出会うこと。じゃあ参加者の目的は?
この文化祭をワコと共有することだろう。
ユーザー間での楽しみもあるかもしれないけど、それは必須ではない。
お金はきっとたくさんかかるだろう。けど、そんなもの関係ない。俺のお金じゃないから、じゃない。
十和子がそう望んでいるからだ。
調べ物をして、十和子に説明をするデータをまとめているとミュートにしていたスマホの画面が灯る。
『おやすみ』
時刻は深夜の一時。俺がこの時間には寝ると決めている時間。
『おやすみー』
いつものようにそう返信して、パソコンを閉じ、ベッドに潜った。




