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幼馴染との初恋を、昔の私が邪魔をする ~VTuberになった元国民的子役は、今の自分を見てほしい~  作者: 竜山三郎丸


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42/65

42話 【みんなで作る!トワコン文化祭】

 ――日曜日、午後九時。


『来るぞ』

『来るぞ』

『来るぞ』

『welcome to toWako'n!』

 


 開始三分前、コメント欄はいつものように流れ出し、全国の画面の前には8000を超える人たちが待っているのがわかる。


 そして定刻、九時三分。


 いつもの牧歌的な導入画面の最後にロゴが映る。


 『WAKO HIIRAGI version1.0』


 ジジッと画面にノイズが入り、version表記がモザイク処理される。

『お?』

『まさか』

『神アプデ確定!』

『来た』


 そのまま画面が切り替わり、満面の笑顔のワコが映る。

「こんとわこ~ん。どうもどうも、今日もたくさん見てもらって嬉しいなぁ。さてさて、秋も深まり世は大文化祭時代ということで~」


 身体が揺れると髪の先まで揺れる高精細さ。笑うときのまぶたの動きひとつで違いが判る。活動を始めた時に発注したワコの2Dアバターのひとまずの完成形・『柊ワコver2.0』。今日が実装お披露目日だ。


『ぬるっと始まったw』

『触れないんかい』

『version2.0クッソいいな』


 一目でわかるクオリティの違い。当然コメント欄もそこに触れる。それを見てワコは得意げに口元を上げ、身体を左右に揺らす。

「あら。気づいた?気づいちゃった?気づいちゃったならしょうがないかぁ。そう、今日はわたしの2Dアバター……柊ワコver2.0が完成したのです!モデリングbyうーろんさん。最高のアバター、ありがとうございました!」


 ――ユーザー名・00oolong『こちらこそ!』3900円。


「わ、ご本人登場とか。ふふふ、いつも見てくれてありがとうございまーっす」


 ――ユーザー名・azusaurus『完成おめ』8888円。

『でたw』

『対抗心バリバリだwwwww』

『ワコはどう出る?』


 ワコはぽかんと口を開けてコメント欄を眺め、うんうんと何度か頷いてからニッコリと笑う。

「さて!」


 いつも通り時鳥さんのスパチャに塩対応を行ってから、ワコは今日の配信の本題に入る。

「文化祭、やろう!」

 あまりに唐突な語りだしにコメント欄は困惑……。

『やる!』

『やろう!』

『野郎!』

『俺が……、俺たちが……文化祭だ!』


 いや、してないな。困惑。むしろ前のめりに受け入れているまである。


「わたし浴衣もお祭りも大好きでさぁ、当然文化祭も大好きなんだけど、……最近なんか作る方もすっごい楽しそうでずるいじゃんって思ってさ。ずるいよね?絶対。だから、わたしも一緒に作ろうと思って、この企画を考えました。フリップドン!」


 ワコの掛け声とともに画面に映るのは売上世界一とも言われているクラフト系ゲーム『BauKraft(バウクラフト)』。通称・バウクラ。


「現実だと一緒に作れないじゃん?だからゲームの世界で作ろうよ。みんなも、一緒に!文化祭!」


 輝く瞳で、力強くワコがみんなに呼びかける。

『やる!』

『やるぅ!』

『みんな一緒にって?』

『つまり……』

『どういうことだってばよ?』


「あはは、ね。わたしもそう思った。なんか色々なんでも作れるゲームみたいだけど、みんなでやるにはどうすればいいんだろ~って。で、はい。こんな感じです」


 画面のワコが手で促す。これはモーション検知でなく、ボタン操作だ。


「参加資格はわたしのメンバーシップ限定。専用サーバー作って、そこでお店とか作ったりして、みんなで文化祭をやろうって算段です。具体的なこと言うね?メモの準備よろしいかぁ」


 フリップが切り替わる。十和子の手書き文字で書かれた『みんなで作る!トワコン文化祭!』のロゴ。それに続いて数字等の条件が続く。


「ziscordってアプリ知ってる?それ使うと割と楽にできるみたいなんだよね」


 詳しい説明は画面のフリップ参照になるが、ziscordには便利な機能があって、アカウントを紐付けするとメンバーシップ加入の有無を自動判定してくれるのだ。そして、#トワコン文化祭会場のチャンネルに移動してそこにバウクラのIDを入力すると、自動的に許可リストに登録されるらしい。そのあとリスナーは普通にゲームにログインして、文化祭会場に入るだけ。俺も、ワコも、ユーザーも、全方位に優しい仕組みである。


「トワコンチャンネル、メンバーシップ!月額160円!限定スタンプとかもあるから、入ってない人も気になってた人も、興味ない人もこの機会にぜひどーぞっ」


『商魂たくましい子供w』

『入ってます!』

『安すぎんよ……』


 ワコはみんなのコメントを眺めながらケラケラと笑い、ゴホンと一度咳払いをして言葉を続ける。

 

「で、最後。まじめな話ね?みんなで楽しくゲームをするうえで、いくつか約束事があります。あんまりルールギチギチにはしたくないんだけどね。まず一番目。誰かが不快になりそうな行為はBANします。これ一番大事。ここまでいいだろう?とかないから。ギリギリを攻めるって発想がまずアウトって知って。それから、勝手に人の作ったものに手を出すのもダメ。あと当然プレイヤーキルは絶対ダメ。これは即BANでチャンネルもブロックするから」


 ・サーバーの開放時間は午後二時から夜の十時まで。土日は朝の十時から。

 ・同時接続上限は150人。

 ・参加はメンバーシップ限定。

 ・満員時は90分交代制。

 ・サーバーは毎時間バックアップ。

 ・許可なく他人の建築物の破壊・改変は禁止。

 ・誰かが不快になりそうな行為はBAN対象。

 ・プレイヤーキルは禁止。即BANに加えてチャンネルブロック。


 それが、BauKraft(バウクラ)上で行われる『トワコン文化祭』の基本ルール。そして、一番下に赤丸で何重にも囲まれた十和子の手書き文字。最後にワコはそれを読み上げる。


「個人情報の書き込み、ダメ絶対!わかった!?以上を守って、子供もおじさんもアンチくんも、わたしと一緒に最高の文化祭を作っちゃおうぜ!」


『ルールをしっかり守るならそれはアンチではないのでは……?』

『親しきアンチにも礼儀あり、か』


 画面は切り替わり、バウクラのゲーム画面。

「サーバーは明日から開放するから、みんなの参加お待ちしてまーっす。さて、それに先駆けて今日は下準備しておかないとね。これ、ドット絵。わたし。似てる?超かわいくない?」


 ワコが操作するプレイヤースキンは俺が作ったドット絵だ。慣れれば意外と簡単に作れる。


『かわわwww』

『自分で言うなw』


 ワコはキャラクターを見せびらかすようにその場で右を見て、左を見て、斧を振る。


「じゃあまず一つ、看板を……っと。ここ、わたしの家の予定地」


 ――ユーザー名・azusaurus『隣予約。予約。予約。売約済み。確定。絶対』6666円。


 スルーを決め込むワコはぷっと噴き出す。

「っあはは。ちょっと、呪いの数字みたいのやめてよ。スパチャしすぎ。会場は~どこにしようかな。歩いて10分くらいにするか。10分。どのくらい?」


 画面の中で二頭身のワコはトコトコと歩き、やがて海辺の開けた場所にたどり着く。


「ここにしよっか。海も見えるしね」


 看板を立て終わるとドットワコは両手を広げるジェスチャーをして、ワコは楽しそうに笑う。


「それでは、ここをトワコン文化祭の会場に選定します。みんな、明日からよろしくね!一緒に楽しもうっ。誰も来なくても……一人でもやっちゃうけどね!」


 ――チャンネル開設の時と同じ言葉。だけど、今は十数万人の登録者と、一万人を超える同時接続者がワコを見ている。誰もこないだなんてことはありえない。




 配信を終えると、十和子は一度水を飲んでからヘッドフォンを外してクルリと椅子を回す。


「お疲れ」

「イツキもね。諸々ありがと」

 カフェオレを差し出し、俺もアイスコーヒーを口にする。


「全然。お安い御用っすよ」


 ユーザー参加型の文化祭っていう十和子のアイディアを実現するうえで、いくつか調べものと仕組みを作った。俺がやったのはただそれだけ。


 十和子は挑発的な笑みを浮かべながら、俺を見上げる。


「この文化祭、実行委員は私とイツキだから」


 言い終えると、カフェオレのグラスに口をつけて再び椅子を回す。

「……佐藤さんだけ、ずるいからね」


 十和子はそう呟いた。こんな形でも発揮される負けず嫌いに思わず苦笑してしまう。


 実行委員は俺と十和子。ワコと、みんなの文化祭。今からもう楽しみでしょうがない。


 

 

 

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