39話 元国民的子役、諦めない。
月・金は文化祭実行委員、水曜日は園芸委員、火・木・土は十和子のマンションで配信準備作業など。そして、日曜日はトワコンチャンネルの配信。それが俺の新しい一週間の予定。
文化祭までは一か月強、春から動いている実行委員に無理を言って途中から参加したのだ。中途半端な仕事はできない。
複数の実務を効率的にこなしたからといって、あの炎上騒ぎを即座に鎮火できるようになるわけじゃないのはわかっている。
だけど、俺は炎上だけを鎮めたいわけじゃない。
意味があるかどうかはわからない。けど、そんなことは今関係ない。それはやってから考えることだ――。
今日は金曜日。文化祭実行委員の定例会。各クラスの模擬店決め
文化祭の模擬店はどのクラスも希望通りに行えるわけじゃない。全部が飲食店でも困るわけだし、全部が演劇でも当然困る。各クラスいくつか希望を出し合って、それを文化祭実行委員同士ですり合わせを行うのだ。
基本的に飲食店は人気の模擬店で、すり合わせとは言いながらやっぱり三年生の方が発言権は強い。例年飲食店は三年生を優先に埋まっていく傾向にある。今までは各クラスが第三希望まで決めて、それを話し合いで決めていくスタイルだった。で、前回定例で俺が提案したのは『呼び名の変更』。
各クラス第三希望まで挙げるのでは無く、『各クラスやりたい模擬店を三つ挙げる』に変えてもらった。挙げた三つに序列はつけさせない。細かい違いかもしれないけれど、順位がついているとやっぱり第三希望って外れ扱いになってしまうと思ったので、まずそこを変えません?って提案をした。
春から動いている文実に急に入った新参者が行えるギリギリの提案だ。あれも、これもと提案していくと鼻に付くし角が立つ。
「あ。じゃあ僕からも一つ提案。毎年話し合いで決めてるけど、長いし面白くないし、だいたい揉めるのはみんな飲食やりたいからだよね?」
三年生の実行委員氏が挙手発言。当然、模擬店の決定は話し合いという名の年功序列式と思っていた全員は驚き彼を見る。
「そこで飲食に関しては『ジャンケン型カードバトル方式』での模擬店決めを提案したいと思います」
聞きなれない単語に俺以外の全員がざわめき、同じクラスの文実である佐藤さんも俺を見る。そんなざわめきをよそに三年生は説明を続ける。
「飲食以外の模擬店に関しては、例年そこまで数が多くないから企画が丸被りしない限りはそのまま希望通していいと思うんだ。で、ここからが本番なんだけど――」
三年生氏は指を三本立てる。
「飲食の枠は六。だから例えば、一番人気の焼きそばとかの加熱系を『グー』、飲み物だけと調理なしの喫茶を『パー』、デザート系を『チョキ』にして、勝った六人――」
細かいルールとレギュレーションは割愛。要するに、年功序列でも運ゲーでもなく、駆け引きとゲーム性を入れた決定を三年生氏は提案した。
「はーい、頭のいいひとが有利になるのは不公平だと思いまーす」
他の三年が手を挙げて抗議する。彼らからすれば今年は自分たちの番と思っていただろうから、わからないでもない。だが、彼の抗議はみんなに白い目で迎えられる。
「頭のいい人が有利になるのは世の中当然だろ?」
そして、結果から言うとうちのクラスは希望通り加熱系の飲食店を勝ち取ることができた。これは一年のクラスとしては結構な快挙である。
「……藍沢、すっご。本当に飲食取っちゃったよ」
会合を終えて教室に戻りしな、佐藤さんは感心したように俺を見上げてそう呟いた。
個人的には模擬店なんてなんだっていいと思ったんだけど、決まってはいないけど、仮に十和子が来ると仮定するのなら、飲食の方が話のタネになるかな?って若干ほんの少しだけ思ったり思わなかったり。
「いやいや、それほどでも。一応これに先駆けて予習しましたんでね、お仕事系のドラマとかドキュメンタリー見まくったりさ。『会議ってのは、議題を決める場所じゃない。議題は会議の前にもう決まってるんだ』ってこと」
夜を徹して全話見たビジネス系ドキュメンタリーのセリフである。
つまり、俺は事前に飲食系を選んでいない三年生のクラスに目をつけて接触、世間話のついでに彼が提案したような内容を話しておいたのだ。そして、それを先輩から提案してくれないか?と頼んでおいた。新参者の俺が提案して通るような内容ではないから。
「一人でやるの憂鬱だな~って思ってたけど、ようやく文化祭っぽくなってきた。ありがとね、藍沢」
そんな風にまっすぐお礼を言われると少し照れくさい。
――放課後、思ったより早く終わったので十和子のマンションに向かう。
「ん?眠いの?コーヒーとか飲む?」
作業中のあくびを目ざとく見られ、俺の返事を待たずに十和子は立ち上がりキッチンへと向かう。
「あ、じゃあせっかくだからいただきましょうかね。昨日おとといと夜ドラマとか見ててさ」
それを聞いた十和子はこれ見よがしに大きなため息をつく。
「はいはい、ワコワコ。心配して損した」
「いや、ワコ出てないやつだよ」
「うそっ!?どうしちゃったの!?」
「どうもしてないが?実行委員で使えるかなって思って、本だけじゃなくて色々見て勉強してたんよ。おかげでうちのクラス飲食店できるようになってさ。早速役に立ったよ」
「へぇ~。飲食店やるんだ?なにやるの?食べに行ってもいい?チケットくれるよね?」
淹れてくれたコーヒーをコトリと置いて、無数の質問を投げかけてくる十和子。
「うちの高校は招待制とかじゃないから、チケットとかは要らないよ」
「焼きそば作る?イツキも作る?」
質問は止まらない。
「俺は多分裏方かな。仕入れとかそっち側やる感じ」
「ふーん。じゃあ、私行ったら呼ぶから出てきてね。あ、マヨネーズでハートマークお願いしよっと」
無邪気に笑う十和子に向けて、神妙な顔で首を横に振る。
「あのですね、十和子さん。それは食品何とか法とかで、二次調理に当たるようでして、教室でマヨネーズはかけられないんですよ」
「うそっ!?厳しくない!?」
だよな、俺もそう思った。調べてみてビックリだよ。
「そうやって食の安全は守られてるんすよ。あ~、残念だなぁ。法が許せばハートマークの一つや二つ描いてやったのに」
「ん?言ったね?」
俺の失言を聞き逃さずに、十和子はカフェオレのグラスをテーブルに置いて冷蔵庫に向かう。
そこから取り出したのは三パック入りの焼きそば麺。
「これから、焼きそばを作ります」
得意げに、挑戦的に十和子はそう宣言した。
「私が自分の家で作った焼きそばにイツキがマヨネーズでハートマークを描く。何か法的に問題が?」
制服姿にエプロンをつけて、手を洗いながら十和子は横目に俺を見る。
「……あるといいんですがねぇ」




