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幼馴染との初恋を、昔の私が邪魔をする ~VTuberになった元国民的子役は、今の自分を見てほしい~  作者: 竜山三郎丸


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28話 元国民的子役、怪談をします。

 お祭りに行って、公園で花火をした昨日が土曜日。つまり、今日は日曜日。


 毎週日曜日の夜九時三分は柊ワコ・『トワコンチャンネル』の生配信の時間だ。


 場所はもちろん十和子のマンション。十和子は鼻歌交じりに配信の準備を進めている。浴衣で。

「なんで部屋で浴衣着てんの?」


「ん?好きだから。なんか文句ある?」

 ジト目を俺に向けて威圧してくる十和子さん。

「いや、別に」


「これ、ワコの服を浴衣に変えるのは難しい?時間かかる?」

 パソコンの前で十和子がユラユラと身体を左右に動かすと、画面の中のワコも左右に揺れる。

「かかるなぁ……。浴衣の絵一枚渡して終わり、じゃなくて動くパーツごとに分けたりしなきゃいけないし、普通の服と違って動く場所が多いから難しいみたいなんだよ。ひと月、ふた月は余裕でかかるらしい」


「そっか、残念」


 それは俺も昨日調べ済み。画面の中のワコの眉が寄るのがわかる。

「だから来年。来年用に早めに新衣装としてお願いしとこうぜ」


 俺の言葉に一瞬間を置いて十和子は振り返る。まるで予想していなかったとばかりに目を丸くして首を傾げる。

「来年もやってくれるの?」

 何を今さら。俺はわざとらしく諦めたようなため息で首を横に振る。

「……差分永久保証とかつけたのどこの誰だよ」

 それを聞いて十和子はニッコリと笑う。まるで、その浴衣に咲く向日葵のように笑い、その後ろの画面ではワコがほほ笑んでいる。

「っふふ、ここの私でした」


 音量を落として流しているテレビには夏の終わりの風物詩らしい29時間テレビが映っている。今年のメインMCは十和子の友達らしい時鳥(ときとり)梓さん。15歳でのメインMCは最年少タイだと十和子が自分のことのように誇らしげに教えてくれたのが印象的だった。


 「今日はちょっかい掛けて来れないよね~?仕事中だもんね~?」

 画面の時鳥さんを見ながら十和子は意地悪くクスクスと笑う。忙しいだろうに時鳥さんは毎回律儀に配信にリアルタイムでコメントをくれる。


「それ完全にフラグだなぁ」


 

 テレビで笑う時鳥さんを見てそんなことを思った。売れっ子タレントの時鳥さん、6月に配信を開始してからの今までだって、毎週日曜日の9時過ぎがたまたま偶然空いていたなんてことはないだろう。


 そんなことを考えていると、インターフォンの音が鳴り、浴衣姿の十和子がパタパタと玄関へと向かう。

「じゃーますーんで~。うわっ、浴衣っ。かわよ~」

「いらっしゃい。今日はありがとね」


 買い物袋をぶら下げてやってきたのは浦原。今日の配信は、一つ新しい試みを考えているのだ。

「イツキもちゃんと褒めたか~?とわこの浴衣」

「そりゃもちろん」


 当然、即答である。

「へぇ、なんて?」

「いいんじゃね?って」

「うっわ」


 浦原は苦々し気な顔で俺にジト目を向けつつ、買い物袋をテーブルに置く。

「あ、これ差し入れね。適当に飲み食いしちゃって」

「あざーっす」


 自分で買い物袋を探ってコーラを取り出して、浦原はそのまま床にあぐらで座り、十和子が遅れてクッションを渡す。

「今日はゲーム配信じゃないんだ?」


「うん。もう夏休みも終わっちゃうじゃん?ゲーム配信は秋でも良いけど――」

 十和子はリモコンで部屋の照明を落とすと、スマホのバックライトで下から顔を照らし、抑揚のない声で冷たく笑う。

「怪談は夏しかできないもんね」


 声だけで思わず鳥肌が立ってしまう。

「え、こわっ。てことは怪談配信?あはは、おもろそっ」

 両手で腕をさすりながらも浦原はケラケラと笑う。


「一応いくつか確認と注意事項、浦原の姿は当然映さないけど声が入るのは問題なし?」

「もんだいなーっし。バズっちゃったらどうしよっかな~。ワンチャン芸能スカウト来ちゃったり?」


 十和子の事情を知らない浦原はいつも通りの軽い感じで答えただけなのだが、心の狭い俺はその言葉だけで心が無駄にざらついてしまう。きっとそれは眉間に出てしまっていたかもしれないが、十和子はまるで気にしていない素振りで浦原の言葉に同意する。

「じゃあ今のうちにサイン貰っちゃおっかな~。ダメ?」

「いいけど転売禁止な~?」


 気づかれないように一度深呼吸。ゴホンと咳払いをしてから注意点を伝える。

「そして次。当然ながら本名は禁止。『柊ワコ』これ徹底。喋ったりとかリアクションはある程度自由にやっちゃってくれ。目の前で反応があった方が怪談する側としても興が乗るだろうし、身内のワチャワチャ感ってのもVTuber見る層は割と好きみたいだから」

 

「おっけー。でも、これうちだけでよかったん?ハム公ハブってあいつ泣かない?」

「あ、そこは俺から説明してある。ワコの配信に急に男出てきたら炎上するだろ。逆に羽村泣いちゃうぞ」

「わはは、確かに。納得ちゃん。台本とかってある感じ?」


「ん?ないよ」

 部屋の各所にろうそく替わりのアロマキャンドルを設置しながら十和子はサラッと答える。当たり前のように答えるが、それがどれだけ異常なことなのか。今テレビに映る生放送だって、当然ながらある程度の進行や台本があるのだ。


 怪談配信をして、一曲歌う。あとは流れで一時間。進行表とも言えないそれが、トワコンチャンネルの今日の予定だ。


 時刻は午後八時五十分。毎週のことながら、毎週、前の週よりもワクワクしている自分がいる。


 十和子はパソコンの前に座り、俺はいつも通り後方でノートパソコンに向かう。


 浦原は十和子の隣、少し後ろにクッションを置いて座る。


 ふーっと一度息を吐いてから、十和子はクルリと椅子を回転させて俺と浦原に微笑む。

「イツキ、今日も楽しもっ。めぐるちゃんも、楽しんで」

「了解~」

「おっけ~」



 デジタル時計の数字は進み、時刻は午後九時。一分、二分、三分――。


 チャンネル登録者数105399人、同時接続者数8821人が画面の前でその時を待つ。

 

 


 

 


 

 

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