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百合の滴る万華鏡(百合短編集)  作者:


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7/8

7鏡 私はきっとこの瞳で嘘をつく

 彼女の肩に腕を回し、そっと引き寄せた。薫の身体は驚くほど軽く、まるで壊れやすい硝子細工のようだった。肌はほのかに冷たく、私の掌の熱を吸い取るように震えた。


 胸に抱き寄せながら、私はもう一度、彼女の瞳を覗き込む。唇の端に優しげな微笑みを貼りつけ、慈しむような眼差しを注ぐ。けれどその奥では、分厚い鉄のシャッターを音もなく下ろしていた。昨夜、別の女の汗まみれの太ももに指を埋めた感触も、甘く淫らに喘がれた声も、決して薫には見せない。見せてはいけない。


「ねえ、綾……」

 薫が私の胸に顔を埋めたまま、震える吐息とともに囁いた。熱い息がブラウス越しに肌をくすぐる。

「私を騙し通して。もし嘘をつくなら、死ぬまで、完璧に騙して」

 その言葉が、胸の奥に鋭い棘のように突き刺さった。

 薫は気づいている。私の首筋に残る、他人の口紅の残り香に。

 太ももの内側に薄く残る、爪痕のような愛撫の痕に。

 それでも彼女は私を突き放さない。

 突き放して、私を失うことのほうが、彼女にとって死よりも恐ろしいから。


「……嘘なんて、ついていないよ」


 私は彼女の尖った顎を指先で優しく持ち上げ、唇を重ねた。

 最初は優しく、羽のように軽く。けれどすぐに、貪るような深さへ変わる。

 舌を絡め、薫の甘い唾液を味わいながら、彼女の息を奪う。

 愛情の証明であると同時に、これ以上追究されるのを防ぐための、卑劣な口封じだった。


 薫の細い指が私の背中に回り、爪が衣服越しに食い込む。

 痛いほどに、必死に、私を掴もうとする。

 その震える力強さが、たまらなく愛おしくて、歪んだ悦びが私の胸の奥で熱く渦を巻いた。

 私は薫を愛している。本当に、愛している。


 けれどその愛は、決して純粋なんかじゃない。

 明日もきっと、私は別の誰かの唇を求め、別の誰かの熱に溶けていく。

 薫の知らない場所で、薫の知らない淫らさで。


 それでも今、この瞬間だけは——

 私は彼女を、壊れるほど強く抱きしめていた。


 そして、私の帰る場所は、いつでもこの部屋だ。


 傷つくことを知りながら、それでも私を待ち続ける薫。


 傷つけていると理解しながら、優しい眼差しで嘘を塗り重ね続ける私。


 この歪んだ均衡の上に、私たちは今もこうして、肌を重ねて立っている。


「愛してるよ、薫」


 私は彼女の耳元に唇を寄せ、熱い吐息とともに囁いた。


 この言葉だけは、紛れもない本物だった。胸の奥底から溢れ出す、ねじくれた愛情そのもの。けれど、それを伝える私の瞳は、すでに冷たい嘘の色彩を帯びていた。昨夜の別の女の体温をまだ覚えている瞳。明日もまた誰かの甘い吐息を求めに行くであろう、乾いた瞳。


 薫は悲しげに、けれど穏やかに微笑んだ。


 その微笑みは、痛みを知り尽くした者の、それでもなお信じようとする者の微笑みだった。

 彼女はゆっくりと瞬きをし、私の嘘だらけの瞳を、じっと見つめ返した。

 まるでその奥に隠された真実の欠片を探すように。

 あるいは、欠片など最初からなかったことを、改めて受け入れるように。


 私は何も言わなかった。

 ただ、彼女の細い背中に腕を回し、もう一度、強く抱き寄せた。

 この部屋の仄かな灯りの下で、私たちの影は一つに溶け合い、歪んだ愛の形を静かに刻んでいた。


 これで、いい。

 このままで、いい。

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