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百合の滴る万華鏡(百合短編集)  作者:


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6/7

6鏡 桜舞う校庭で私は彼女と再会する

 大学卒業式が終わった午後、私は白いブラウスと紺のスカートに着替えて、新幹線に乗った。

 心臓がうるさい。

 22歳の今でも、小学校の時の鼓動を思い出してしまう。


 佐倉美咲先生。

 私が小学校を卒業したその日、先生も学校を離れた。


「遠くに転勤が決まって……」とだけ言われて、それ以来、12年間一度も会っていない。


 手紙も、メールも、SNSも全部途切れた。

 私は先生を探し続けた。

 大学に入ってからも、いろいろ探し当てた。

 そして名古屋にいることが分かった。

 名古屋中の小学校の名簿を調べ、知り合いの先生に聞き回り、ようやく見つけた。


 今日。

 先生が今、教諭をしているという小学校に、私は直接向かっていた。

 校門の前で深呼吸をする。

 卒業式の後の学校は静かで、桜の葉が風に揺れている。


 

 職員室に「水無月 綾です、佐倉先生に会いに来ました」と伝えると、若い先生が少し驚いた顔で奥へ行った。


 そして、廊下の向こうから、先生が出てきた。

 何も……変わってない。

 

 34歳になった先生は、淡いベージュのワンピースにカーディガンを羽織って、相変わらず優しい目元をしていた。

 ただ、少しだけ髪が、長くなった気がする。

 忘れられてたらどうしようと思った矢先だった。

 先生の足も止まったいた。

 目が合った瞬間、先生の表情が凍りついて、すぐに柔らかく崩れた。


「もしかして……綾……ちゃん?」


 声が震えていた。

 私は駆け寄るのを我慢して、ゆっくり歩み寄った。


「先生……見つけました。小学校卒業以来、ずっと探してたんです」


 先生は口を押さえて、目を潤ませながら近づいてくる。

 職員室の前では人目があるので、校庭のベンチまで連れて行ってくれた。

 並んで座ると、先生がまず口を開いた。


「ごめんね……突然転勤になって、ちゃんと挨拶もできなくて。結局連絡先も渡せなかったよね。本当にごめんなさい」


 私は首を振った。

 もう、昔の話はいい。


「先生。私、大学卒業しました。22歳になりましたよ。もう大人になりました」


 息を吸って、あの時のようにもう一度告白をしてみた。


「先生の事が、今でも好きです。告白した時に先生言ってましたよ。私が大人になって気持ちが変わってないのならって」


 私は小学生の時に告白して玉砕した。

 今思っても無茶苦茶だよなぁとは思う。

 小学生が先生に告白して了承してもらえるはずがない。

 そんな事をしたら社会的に抹消されてしまう。


 「ずっと先生の事を思ってました。日本に居るのなら、絶対に探せると思ってずっと探して見つけました。仕事場もこちらに決めたんですよ」

 

 今思うとこれストーカーじゃないと思ったけど、先生の瞳が大きく揺れていた。

 長い沈黙のあと、先生はそっと私の手を握ってきた。

 その手は、少し冷たくて、でも確かだった。


「……私も、ふと気づくと綾ちゃんの事を考えてたかもしれない。綾ちゃんがどうしているか、ちゃんと大人になったかなって。素敵な人と一緒になって幸せにしてるかなって。そう思ったらなんだか連絡が出来なかったの」


 先生の声が掠れる。


「でも、今日こうして会えて……嬉しい。 綾ちゃんが、私をまだ私の事を好きでいてくれて、探してくれてうれしい」


 私は勇気を出して、先生の頰に手を伸ばした。

 先生が目を閉じた瞬間、私は唇を重ねた。

 柔らかかった。


 16年間の想いが詰まった、初めてのキス。

 先生の唇は温かくて、少し震えていて、でもすぐに私を受け入れてくれた。

 優しく角度を変え、ゆっくりと深くなる。

 先生の指が私の髪に絡まり、背中に回る。


「ん……っ」


 小さく漏れた私の声を、先生が甘く飲み込んだ。

 息が混ざり、涙の味がした。

 どちらの涙かわからない。

 唇が離れたとき、先生の額が私の額にぴたりとくっついた。


「綾……好き。これからは、先生じゃなくて、恋人としてそばにいるね」


 私はもう一度、先生にキスをした。


 今度は自分から、少し強引に。

 先生も私を抱きしめ返してくれた。

 名古屋の小学校の校庭で、夕陽が私たちを優しく照らしていた。


 桜の葉が舞う中、22歳の私は、ようやく14年分の想いを届けた。

 先生の手を握って校門を出るとき、私は小さく呟いた。


「これから、ずっと……一緒にいていいですか?」


 先生は照れたように笑って、私の小指に自分の小指を絡めた。


「もちろんよ。先ほども言ったでしょ。これからは恋人として一緒にいるって」

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