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百合の滴る万華鏡(百合短編集)  作者:


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5/7

5鏡 夜桜の下で永遠に (メリバ)

 警告

 殺人・死体愛撫・強い狂気描写を含みます。

 R15/ダーク百合/メリーバッドエンド

 苦手な方はご遠慮ください。

 夜桜の散る音が、まるで遠い波のように聞こえていた。


 私は彼女の体を、桜の古木の下に横たえていた。

 冷たい地面に背中を預け、彼女の頭を私の胸に抱き寄せる。

 彼女の長い黒髪が、私の指の間に絡まり、風に揺れるたび、淡い桜の花びらがその髪に降り積もっていく。

 彼女の目は、もう閉じられている。

 長いまつ毛が、月明かりを柔らかく受け止めて、静かな影を落としていた。


 息が、感じられない。

 それでも、私は彼女を抱きしめ続けていた。

 腕に力を込めれば込めるほど、彼女の体温が少しずつ私の皮膚に染み込んでくる気がした。

 この温もりは、もう永遠に私のものだ。

 きっと……愛しすぎたから。


 初めて彼女に出会ったのは、去年の秋だった。

 大学近くの小さな古書店。埃っぽい棚の間で、彼女は一冊の詩集を手に、静かにページをめくっていた。

 背筋が伸び、表情は凛としていて、まるで誰も近づけない結界を張っているように見えた。

 私はその場で足を止め、息を飲んでしまった。

 彼女の横顔が、あまりにも美しかったから。


 それから、何度も店に通った。

 わざと彼女の近くの本棚を選び、時折目を合わせたりもした。

 最初はただの視線だった。

 それが、微笑みになり、短い会話になり、名前を呼び合う関係になった。


 彼女の名前は、静。

 本当に、皮肉な名前だった。

 静はいつも強かった。

 誰に対しても動じず、言葉を選び、背を曲げない。

 部活でも、勉強でも、彼女は一番で、でもそれを誇るようなことは決してしなかった。

 ただ、静かにそこに在る。それが、彼女の美しさだった。


 私は、そんな彼女に焦がれた。

 夜、ベッドに横たわると、瞼の裏に彼女の横顔が浮かび上がる。

 他の誰かと微笑み合う姿を想像しただけで、胸の奥がねじれるように痛んだ。

 この命を、彼女の前でかげろうのように短く激しく燃やし尽くしたい。

 彼女のすべてを、私の色に染め上げて、私だけのものにしたい。

 あの誰にも屈しない強さを、私の腕の中だけで溶かして、彼女が誰にも見せたことのない柔らかな部分を、私の指と唇だけで知る秘密にしたかった。


 冬が過ぎ、春が来た。

 桜の季節になると、私たちは夜の公園をよく歩いた。

 薄桃色の花びらが風に乱れ舞う中、手を繋ぎ、肩を寄せ合う。

 静は時折、私の耳元で名前を甘く溶かすように呼んだ。


「綾……」


 その響きが、私の心を溶かす。

 甘くて、哀しくて、たまらなかった。

 

 私は次第に、彼女を独占したくなった。

 友達と出かける彼女を、些細な理由をでっち上げて引き止めた。

 他の誰かに向ける微笑みを見るだけで、夜中に布団を噛んで泣いた。


 愛しているのに、苦しい。

 愛しているのに、壊したくなる。

 彼女は気づいていたと思う。最後の頃、彼女は私を見て、静かに言った。

「綾、私のこと、好きすぎて怖いんでしょ?」


 私は答えなかった。

 ただ、彼女を抱きしめて、唇を重ねた。

 彼女の体が、私の中で震えるのを感じながら。


 そして、今夜。


 私たちはこの桜の木の下に、薄い布を敷いて寝転がった。

 酒を少しだけ飲み、星を見上げた。

 静は私の胸に頭を預け、穏やかな声で自分の夢や将来、そして「私と一緒にいたい」と囁いた。

 その瞬間、私は決めた。

 彼女を、永遠に私のものにする。


 静は私の胸に頭を預けたまま、静かに息を吐いた。

 月明かりの下で、彼女の横顔がとても綺麗だった。

「……綾。私、こうなるって、薄々わかってたよ」


 小さな、でもはっきりとした声。

 私は何も答えられなかった。

 ただ、彼女の細い首に両手を回した。

 私は彼女の首筋に顔を埋めた。

 柔らかい皮膚の匂い、脈打つ鼓動。

 指で髪を梳き、耳元で何度も「愛してる」と繰り返した。

 静が小さく微笑んだのを感じた瞬間、私は両手に力を込めた。

 ゆっくりと、優しく、でも確実に。

 彼女の体が、一瞬だけ強く跳ねた。


 「綾……」

 かすれた私の名前が、彼女の唇から零れた。

 細い指が私の背中に必死に食い込み、爪がシャツ越しに皮膚を引っ掻いていた。

 その痛みが、たまらなく愛おしかった。

 彼女の体が一瞬、大きく弓なりに反って震えた。

 喉が私の掌の中で小さく痙攣し、温かい最後の吐息が指の間をすり抜ける。

 そして、ゆっくりとすべての力が抜けていった。

 その瞬間、彼女の内側で何かが溶けるように、私の中に流れ込んでくる気がした。


 ……もう、離れない。

 私は彼女の亡骸を、なおも強く抱きしめた。

 まだほのかに残る体温が、私の胸に、腹に、太ももに、じんわりと染み込んでくる。


 この温もりは、もう二度と逃げない。永遠に私のものだ。

 震える指で彼女の頬を撫で、唇を重ねた。

 冷たくなり始めたその唇は、驚くほど柔らかく、甘かった。


 もっと、知りたかった。

 私は彼女の首筋に唇を這わせ、ゆっくりと吸う。

 脈が止まった場所を、歯を立てて優しく噛んだ。


 手は自然と彼女の胸元へ滑り落ち、白いブラウスのボタンを一つずつ外していく。

 月明かりに浮かび上がる滑らかな肌に、桜の花びらが静かに舞い落ちる。

 

 掌でその柔らかく膨らんだ双丘を包み込むように掴んだ。

 まだほんの少しだけ残っている弾力が、指の間にむにゅっと沈み込む。

 親指で硬くなった乳首を、ゆっくりと円を描くように擦ると……冷たくなりつつあるのに、なんだか私の熱を吸い取ろうとするみたいにピクッと反応した気がした。


 冷たくなりつつあるのに、触れている部分だけが、なんだか私の熱を欲しがってるみたいに感じられた。


「静……」


 私は彼女の耳たぶを甘く噛みながら、囁いた。

 片手で細い腰を引き寄せて、自分の体をぎゅっと密着させる。

 太ももを彼女の脚の間に滑り込ませ、ゆっくりと擦りつけた。

 冷たい肌なのに、すべすべした感触が気持ちよくて、背徳的な悦びが胸の奥からどんどん溢れてくる。


 私は彼女の体を、まるでまだ生きてるみたいに夢中で愛撫し続けた。

 柔らかい胸を両手で包み込むように揉み、首筋をねっとりと舐め上げ、腹を優しく何度も撫で回し、脚の付け根に指を滑り込ませて、一番柔らかい部分を優しく執拗に触れ続けた。

 もう抵抗も、拒絶も、何もない。

 ただ、私の好きにできる。

 彼女のすべてが、私だけのものだ。


 熱い涙が止まらなかった。

 それでも私は、彼女の冷たくなっていく唇に何度もキスをしながら、体を重ね続けた。


 夜桜が、私たちの体を薄く優しく覆っていく。

 花びらは、まるで二人のことを祝福するように、静かに騒いでいた。

 彼女の魂は、もう私の中にいる。

 血に混ざり、骨に染み、魂に根を張る。

 うたかたの夢のように儚かったのに、これからは永遠に、私のもの。


 ……静。

 静……?

 もう大丈夫だよ。

 これからは、ずっと一緒にいられるから。

 ねえ、静。

 待っていて……すぐ行くから。

 絶対に、絶対に離さないからね。

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