自由の女神の射精、あるいは無の結晶化(最終回)
「……ッ、はぁ、はぁ……! 見てよ、この最高に**『終焉的』**な輝きを! ワシントンから平壌、そして全世界の端末をハッキングした僕の意識が、今! 地球という名の巨大なフラスコを革命的沸騰させ、ついに『無』へと結晶化したんだぁぁぁぁっ!!」
僕は叫んだ。最終回。もはや僕の声は、物理的な空気を震わせてはいない。それは、全人類の脳内に埋め込まれた「合衆国製(メイド・イン・USA)」のナノチップを通じて、直接魂を揺さぶる**『死の賛美歌』**だ。
「あはっ……あはははは! 凄いよ、父さん! 1954年にグアテマラで民主政権を転覆させ(PBSUCCESS作戦)、1960年代にラオスで『黄金の三角地帯』の麻薬王たちと握手した、あの血塗られたCIAの『成功体験』が、今! 全人類がエイズの斑点を共有し、結晶の多幸感の中で消滅する**『究極の平定』**として結実したんだぁぁぁ!! メシウマ(地獄味)すぎて、宇宙の膨張が止まって逆流しそうだぜぇぇぇ!!」
ポトマック河の対岸、ラングレーの地下から溢れ出した僕のノイズは、物理現象を書き換え始めていた。
かつて1970年代にCIAがMKウルトラ計画の一環として「音波による精神破壊」を研究し、あるいは1980年代にパナマのノリエガを麻薬取引の隠れ蓑に利用したように。
彼らが何十年もかけて磨き上げた「国家解体」のメスは、最後には、自分たちの母体である合衆国そのものの喉元を切り裂いたのだ。
「いいかい、ミスター・CIA! 君たちが1961年に暗殺したコンゴのルムンバも、1973年に戦車で追い詰めたチリのアジェンデも、今、僕の脳内ネットワークの中で一緒に笑ってるよ!! これこそが君たちが夢見た、境界線のない**『ワン・ワールド(一極支配)』**の真の姿だぁぁぁ!!」
ホワイトハウスの壇上で、父さんは完全に「結晶」と化していた。
彼が最期に掴んだ「自由の勲章」は、僕の放ったデジタル・パルスによって、最高純度のメタンフェタミンへと変質し、その輝きでワシントンの空を青白く染め上げている。
「あはははは! 見てよ! ニューヨークの港で、自由の女神がその松明を巨大な注射器に変えて、マンハッタンのど真ん中に僕の『質量』を射精してるぅぅぅぅ!!」
結合。
かつてCIAがベトナムで撒いた枯葉剤が、数世代にわたって人々の身体を蝕んだように。僕というアンテナが受信し、増幅した「悪意」は、もはや消すことのできない人類の**『遺伝子』**となった。
人々は、互いの腕に浮かび上がったエイズの斑点を星に見立て、星条旗を棺桶代わりにして、最高にハッピーな絶頂の中で溶け合っていく。
「……ねぇ、彼女。……母さん。……父さん。聞こえる? これが、皆で作った『最高に綺麗な地獄』の音だよ」
僕の意識もまた、臨界点を超えたサーバーの熱暴走とともに、純白の「無」へと還っていく。
1947年の創設から、2026年のこの終末まで。
CIAが世界中に書き記してきた暗殺、転覆、拷問、薬物汚染の歴史。その膨大な「負のデータ」が、今、僕という一つの結晶の中に封印される。
「あはっ……あはははは! 脳内でハゲワシが、銀河中のハゲワシが、地球という名の『メシウマな餌』を完食して、満足げに羽ばたいていくぅぅぅぅ!!」
視界が、真っ白な結晶の輝きに包まれる。
そこには、飢えも、国境も、法律も、そして「父さん」もいない。
ただ、最高純度の毒だけが、宇宙の静寂の中で美しく輝き続けていた。
『ハッピー・バースデー、ニュー・ワールド。』
(完)




