4話 守り抜いたもの
中央圏の街、ヴェルディアス。
僕たちを乗せた馬車はようやく目的の街に辿り着いた。
この大陸で最も大きな都市であるこの街には、名のある魔術師を数多く輩出した魔術学院がある。
アリスが通っているはずの魔術学院もそこだ。
街を覆う外壁が目の前に近づいてくる。
高さ三十メートルはありそうなその外壁は、近くで見上げると首が後ろに落ちてしまいそうだった。
この壁が街全部を覆っているらしい。
西辺圏に住んでいた頃のオルスタッドも大きな街だったが、外壁はなかった。
でも、この街も女神様の結界で守られていて魔獣は近づけないはず。
いったい何から街を守っているのだろうか――。
七血柱の攻撃でも結界は破られてしまうみたいだから、物理的な壁はあった方が良いのかもしれない。
壁を見上げていると不意に視界が薄暗くなった。
同時に身震いするほどの冷気に、思わず薄い毛布を握る手に力が入る。
どうやら街に通じるトンネルの中に入ったらしい。
門を抜けるとすぐに耳を塞ぎたくなるほどの喧騒が飛び込んできた。
通路両脇に並ぶ行商人たちの荷馬車には、木箱や樽もあれば、魔術道具や色鮮やかな果物など、様々なものが積まれている。
その中には黄色く熟したメルンの実もあった。
その周りには多くの商人が集まり、他の人に負けないよう大声で値引き交渉や情報交換に勤しんでいるようだ。
ローゼンが嬉しそうに何かを喋っているが、喧騒にかき消されてよく聞こえなかった。
そんな通りを抜け、少し開けた場所に僕たちの乗る荷馬車は停まった。
「ふう……。やっとついたな」
ローゼンはひょいと跳ねるように荷馬車を降りると背伸びを始める。
僕は荷台の中から、御者のおじさんを見る。
「おじさん、運んでくれてありがとう」
「礼を言うのは俺の方だ。おかげで胸を張って家族に会える」
魔獣から助けた件だろうか?
おじさんは歯を見せながら笑うと、スッと、紙切れを渡してくる。
開いてみると地図のようだった。
「泊まる場所とか決めてないんだろ? そこに行ってみな。ボロいが安く泊まれる宿だ。街の情報もそこで聞くといい」
「おじさん、ありがとう!」
おじさんは背中越しに手を振る。
僕も大通りへ歩いていくローゼンの後を追い、おじさんと別れた。
その時、五歳くらいの女の子が僕たちの横を駆け抜けていった。
「パパおかえり!」
振り向くと御者のおじさんが胸に飛び込んできた少女を抱きしめていた。
先ほど僕に向けたのとは違う、無防備な笑顔で娘と話を交わす姿を見て、僕は胸の奥が少し熱くなった。
「……よかったな」
ローゼンはそんな僕を見て、微かに笑っている。
「行くぞ、カイン」
「うん」
僕はもう一度だけ親子の姿を振り返ってから、ローゼンの後を追った。
毎週日曜の20時に更新しています。




