35話 見つめる者達
整った顔、青い瞳、色素の薄い白い肌、肩まで伸びた銀色の髪。
村で評判の"女神様の生まれ変わり"と称される少女は5歳になっていた。
旅立つ少年たちを見つめる少女の目に、彼らはどう映っていたのだろうか――。
「リシア、どうしたの?」
少女は馬車に乗ろうとする2人を指差して「あのお兄ちゃんたちはどこに行くの?」と、手を繋ぐ母に尋ねる。
「あぁ、あの2人は魔術学院を目指してるんだって。受かると良いわね」
日常では珍しくもない旅立ちの光景。
いつもどこかで、誰かが新たな旅に出る。
そして今日、新たな旅を始める2人は馬車に乗った――。
僕たちが馬車の硬い椅子に腰掛けると、御者のおじさんが「2人に差し入れがある」と、剣を1本ずつと1枚の手紙を手渡してきた。
その手紙には、
"卒業祝いにこの剣を贈ろう。帰ってきた時には顔を見せなさい"
と、一言だけ。
「師範からだね……」
「だな。これくらい直接言えばいいのにな?」
「あの人、こういうところ不器用だから」
「ははっ! 確かに」
僕たち2人は、剣を握りしめる。
久しぶりに握ったそれは、今まで身に刻んできた覚悟が宿っているかのようにズシリと重たかった。
そして、
僕たちを乗せた馬車は走り出す――。
まだ雪の残る村の屋根と、見送る両親の姿が少しずつ小さくなっていくのを見届けると、これから進む道の先へと視線を向けた。
どこまでも続く青い空。
轍だけが果てしなく続くみちなき道。
これから一体どんな人生が待っているのだろうか。
「……やっと、この日が来たな」
麻袋を大切に握る親友が決意を改めるように呟く。
そうだ、あの日からずっと、ずっと待っていたこの日がようやく来た。
オルスタッドでの悲劇、"大災厄の夜"から6年が経った。
僕はもう、何もできない子供じゃない。
魔獣の首飾りを握りしめ心に誓う。
「待ってろアリス。約束の16歳だ」
雪が残る16歳の冬。
僕たち2人は、村を旅立った――。
麻袋を開けると、父が大切にしていた紫色の魔鉱石が埋め込まれた短剣が入っていた。
「"お守り"ね――」
僕はその短剣を大事に腰のベルトに差し込んだ。
他にも少しのお金と数日分の食料、それから手紙が1枚入っていた。
"あなたがどこに行っても、私たちはあなたの帰りを待っています。
どんなに遠くても、あなたが誰かを護るなら、それは私たちの誇りです。
――母より"
………………
中央圏にある魔術学院、学生寮の一室。
壁掛けのカレンダー。卒業式の日に赤いペンで何かを書き終えた少女は、満足したように頷いていた。
「おーい。アリス」
ルームメイトの呼びかけに、少女は振り向く前にため息をつく。
「その名前で呼ばないでって、何度も言ってるでしょ」
ルームメイトはそのやり取りすら楽しんでいるかのように笑っている。
「カレンダーにハートマークなんて書き込んじゃって、デートでも行くの?」
「違うよ」
少女は笑いながら返すと、卓上にある射影機を鞄に詰め込む。
そして、何かを心待ちにする表情で再びカレンダーを見つめていた――。
――第一部 雪の降る日(前編) END
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