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灰と灯火のグリモワール  作者: みむらす
1章 雪の降る日 前編【結】
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33話 メルンパン

 昨晩、ついに僕は両親に旅に出ることを打ち明けた。

 父は何も言わず、母は「絶対にダメだ」と反対する。その母の目には涙が浮かんでいた。


 以来、一言も口を聞かずに朝を迎えた。

 やっぱり、いきなりすぎたよなぁ……、もう少し早く言っておけば良かったな。

 僕の中で後悔が残る。そのせいで目が覚めても布団から出られずモヤモヤした時間を過ごしていた。


 もう1回、ちゃんと母さんに話そう。

 そう決意して僕は布団を抜け出した。


 リビングに着くと、いつも通り母が朝食の準備を終えたところだった。

 ただ、いつもと違うことが3つあった。


 それは、いつも最後に来る父がすでに朝食の席についていたことと、母が目を赤く腫らしていたこと。


 それから――、


 母が作った焼きたての"メルンパン"が食卓に並んでいたこと――。

 グラティアに移住して以来、一度も作ってくれなかったそのパン。


 母はオルスタッドでの記憶を思い出したくなくて作らなくなったのだろうと、僕から触れることはなくなったそのパン――。


「これ……」


 母は今にも泣き出しそうな声を抑え、明るく努めて言う。

「カインはこのパンが好きだったでしょ?今日くらいは作るわよ」


 父と目が合うと、何も言わずに頷かれた。

「母さんは許してくれた」と、無言で伝えてくれているようだった。


 僕はそのパンをゆっくりと噛み締めた。

 この日の事は決して忘れてはいけないと、僕は心に刻む――。

 

 朝食を終え、荷物をまとめると玄関に立った。

「本当に行くのよね……?」

 母の声は、いつもの調子よりも震えていた。

「……うん。友達との約束があるんだ」

「そう……」


 母の隣で父は何も言わずにいたが、その指先は何度も握っては開いてを繰り返している。

「そろそろ行こう」

 父のその呼びかけに、3人は村の門へ向かうため家を後にした。

毎週日曜の20時に更新しています。

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