第95話「海の悪魔対閃光の一撃」
ーーヨルムンガンド・艦橋。
クラーケンからホワイトファングとの戦闘状況が報告される。
「敵機は通常のトライデントの1.5倍の性能と推測されます。」
レドが応じる。
「エースか……やはりホワイトファングか?」
クラーケン指揮官は素直に答える。
「対象との戦闘経験はありませんが、おそらくは……」
そこへルニエが割って入る。
「だからどうだと言うのだ。」
クラーケン指揮官が思わず漏らす。
「クラーケンのみでは対応が難しいかと……」
ルニエのパイプがガタガタ揺れる。
「栄えあるクラーケンパイロットが何を弱気な!」
しかし、通信中にクラーケン内で混乱が走る。
「テンタクルズ04損傷!」
「あそこはスリ―マンセルで仕掛けているんだぞ!」
「テンタクルズ03より報告。」
「て、敵の攻撃が見えません!
微かに光ったと気付いた時には、既に04の両腕が消えていて……」
レドがクラーケンの混乱を見て進言する。
「ここは一旦退きましょう。
どうも敵が新兵器を使っていると思われます。」
ルニエがレドの襟首をつかむ。
「退くだと?!
ヨルムンガンドはエウロパ海軍のフラッグシップだ!
退くなどと言いう選択肢はない!」
クラーケンにも八つ当たりする。
「クラーケン!何をやっている!
たかがACE八機、サッサと落とさんか!」
襟を正してレドが諭す。
「では、先ず敵の正体を探りましょう。
ライプニッツ、チューリングに伝令。
周辺海域を探れ。
サハギン隊も全機射出せよ。」
ーーヨルムンガンドより四十キロほど。
レイは一人、大掛かりな狙撃銃を手にして呟く。
「これで一機かな?
当たってるだろうが、実感がねぇんだよな……」
一人愚痴る最中でもピンソナーの反応が増える。
「おーおー。もう次の注文か。
あの二人やっぱ相性良いんじゃねーか?
……よし一分経った。チャージ完了。」
レイはピンソナーを頼りに照準を合わせる。
「ロック…………シュート!」
レイの狙撃銃から超高収束された光の線が放たれる。
水を裂くように、細い光が一閃した。
——だがそれは一瞬で消える。
ーークラーケン戦闘海域。
敵機の頭部が弾け飛んだ。
「被弾!被弾!
こっちは頭部を落とされた!
戦闘不能!」
テンタクルズ05が叫んだ。
「どうなってる……?」
彼らが混乱するのも無理もない。
レイが装備しているモノは”超高収束レーザーライフル”。
ーーつまり、極限まで収束されたレーザー砲である。
水中減衰を限りなく抑えた事により、水中で狙撃を可能した。
その攻撃は、海中では瞬間僅かな光を観測できる程度。
敵には何が起こっているか、分かるはずもなかった。
そんなレーザーライフルの照準は、ミリィとゾーイが敵にピンソナーを打ち込み伝える。
彼女たちの的確なソナー設置があって、初めてその攻撃を可能としているのだ。
見えない攻撃にテンタクルズたちは混乱を極める。
「次は?次はいつ来る?」
「どんな仕掛けなんだ?!さっぱり分からん!!」
戸惑うテンタクルズを見て、ゾーイとミリィが笑みをこぼす。
「やった!」
「YES!!さすがね。」
ゾーイはミリィに言う。
「レイばかりに頼りっぱなしは癪でしょ。
次の一撃から、私たちも攻めよーよ。」
ミリィもテンションが上がって、素直に応じる。
「えぇ!ゾーイが牽制、私がダガーで切り裂くでOK?」
ゾーイも笑顔で返す。
「オッケー。レイに良いトコ見せてやりましょ!」
混乱するテンタクルズに、今度はミリィとゾーイがツ―マンセルで迫る。
ーーヨルムンガンド・艦橋。
クラーケン指揮官の情けない報告が続く。
「テンタクルズ05も落ちました…」
ルニエは、ひじ掛けにパイプをガンガン叩きつける。
「何をやっとるのか!」
言っている傍から、クラーケン内では叫び声は上がる。
「敵機接近!
テンタクルズで抑えきれません!」
クラーケン指揮官は怒鳴る。
「機雷をありったけ散布しろ!
敵を近づけるな!」
そう、もうユアン達第三小隊がクラーケン本体を捉えていた。
「ハープーン射程まであと千五百。」
サイラスが目を鋭くしてクラーケンを睨む。
「機雷除去は任せろ!」
ビルはショットナックルで機雷を吹き飛ばす。
「もうすぐだ!」
ユアンは迫る魚雷に対応し、サイラスを援護する。
「来た!
ジャマーハープーン射出!」
サイラスが次々と…計四発のハープーンを撃った。
ハープーンは全弾クラーケン本体に刺さった。
「ジャマー発動します!」
ハープーンからNuGearを対象にした、特殊なジャミングパルスが放たれる。
「なんだ?!このノイズは?!」
クラーケン本体のテンタクルズ管制士の脳にノイズが走る。
「くそ!これではテンタクルズ管制不可能です!」
管制士の悲鳴に、指揮官は即断する。
「やむを得ん。
テンタクルズをパージ!」
テンタクルズはクラーケン本体から放たれた。
しかし、それはテンタクルズの特性を殺す行為だ。
彼らは本体よりNuGearを介してに統制・援護を受けて、初めてその性能を発揮する。
離れてしまえば、もはや高スペックのサハギンに成り下がる。
「くそ!
だがツ―マンセルは崩すな!
確実にやるんだ!」
テンタクルズ01のパイロットが指示を出す。
キースは号令をかける。
「よし!ユアン達がやってくれた!
ケビン、マリア組とミリィ、ゾーイ組は敵機を無力化するんだ!」
ミリィとゾーイは笑って答える。
「クスクス…もう終わってるよ。」
「私たちにかかれば……こんなもんよ。」
二人に脇には既に戦闘不能になったテンタクルズ二機が無残に浮いていた。
ケビンとマリアは負けじと息巻く。
「マリア、俺達も負けてられないぞ!」
「えぇ。シミュレーションの成果見せてやりましょう!」
二人は特段喧嘩も無く、息を合わせてテンタクルズに向かった。
ーーヨルムンガンド・艦橋。
「現存のテンタクルズは?」
ルニエが焦りの表情で確認する。
「残り五機。しかし最早時間の問題かと……」
クラーケン指揮官の弱々しい声に、ルニエも肩を落とす。
「……クラーケンがやられると言うのか……」
レドが諭す。
「ですから、シュヴァルツアドラーの協力を仰ぐべきとーー」
「やかましい!
お前は新兵器の対処を急げ!」
ルニエは再びレドの襟首をつかみ、今度は投げ飛ばした。
そこへ通信が入る。
「チューリング、ACE一機を補足。」
レドは立ち上がり、服装を正しながら言う。
「よし、魚雷発射。
全サハギンは撃墜に迎え。
私の推察が正しければ敵はレーザー兵器を使っている。
連射は不可能だ。その隙を突け!」
ーー当然レイも認識している。
「くそ!バレたか。」
レイが呟く。
「この距離だと助けも厳しいな。」
俯き、死を覚悟する。
「これで……終わりか。
ごめんな、ミリィ……」
ーーその声は遥か遠くのミリィに届く。
『ごめんな、ミリィ……』
ミリィの頭にレイの姿と言葉が映る。
「レイ!!!」
言葉を発するより先に、ミリィはレイに向かって急発進していた。
「ちょっ!ミリィ!?」
ゾーイがミリィの突然の行動に驚く。
しかし、ミリィは構っていられない。
「レイは……レイはやらせない!!」
ミリィの必死な声と、その驚異的な加速度。
ゾーイは感じ取ってニヤリとする。
「キース、レイが敵に探知さたみたい。」
キースは焦る。
『くそ!レイ!!』
しかし、ゾーイは余裕で答える。
「大丈夫よ。覚醒したミリィがもう向かったから。」
「覚醒?限界突破か?」
「えぇ、間違いない。」
ゾーイの答えに、キースは安堵する。
「よし、なら俺たちは仕上げだ。ダイオウイカを叩くぞ!」
「了解。」
(ふぅ、やっとミッション完了か。)
ゾーイは一息つき、キース達合流する。
レイに迫るは十八機のサハギンの群れ。
ミリィは、トライデントEXのスペックを越えた速度でレイの元へ向かう。
ヨルムンガンド討伐作戦は佳境に入ろうとしていた。




