第94話「大蛇討伐作戦再び」
ーーピースブリタニカ島・北海深海。
ヨルムンガンドよりおよそ七十キロ。
コロンゴ軍第七艦隊の潜水艦コーディ、エイムズ、ヴェイルが静かに潜行していた。
各艦にはホワイトファングが小隊単位で搭乗している。
ジャスティン・ネルソン中将が告げる。
「時間だ。これより第二次大蛇討伐作戦を開始する。」
三艦より、ホワイトファングが射出される。
「最初は慣性潜行だ。
敵はピケット艦を配置しているはずだ。
そこまでは、低速スクリューで極力音を殺せ」
キースが静かに通信する。
レイが軽口を叩く。
「その点、俺はソナーに引っかからないからな。
喋ってても問題ないよなー?」
「でも独り言だけどね。」
ミリィが即座に冷ややかに返す。
「……うっせーな。
いいさいいさ、ハレン様をノリノリで流すからー。」
レイは少しイジけるが、ミリィは許さない。
「ちょっと、作戦中なんだから集中してよ!」
レイはまたも軽口で返す。
「はいはい。分かった分かった。大人しくしとくって。」
「んもぅ……」
呆れるミリィをゾーイは笑う。
「あはは。やっぱり二人仲良いよねー。」
ゾーイの言葉に二人が詰まる。
「あら、固まっちゃった……」
「お三人作戦中ですよ。」
ユアンが小声で締める。
ーーー
ヨルムンガンドまで残り五十キロ。
ホワイトファングは慣性潜行から低速スクリューへ移行する。
前方には、ピケット潜水艦ライプニッツとチューリング。
静かに警戒網を張っていた。
ファビアン・レド大佐から指示が下る。
「ソナー、僅かな反応も逃すな。
私はファフナー中佐を信じる。
敵は必ず来る。」
ルニエはパイプを咥えたまま、興味なさげに呟く。
「ふんっ……用心深いことだ。」
ーーー
ヨルムンガンドまで残り三十キロ。
キースが最後の一言を言う。
「まもなく敵ソナー圏内だ。
捕捉されたら最大出力。一気に突っ込むぞ。」
「了解。」
緊張が張り詰める。
ーーそして作戦が本格的に始動する。
「ACE級反応、三!」
チューリングが第三小隊を補足した。
続いてライプニッツでも報が走る。
「ACE級、五機!」
レドが即応する。
「チューリング、ライプニッツに伝令。
距離信管魚雷を発射。敵の進路を封じろ。
サハギン隊も出せ——」
「待て!」
ルニエが遮る。
「また勝手に指示を出すな。
たかがACE八機だろ。
何をするのか知らんが……迎えてやれ。」
一息煙を吐く。
「大体だ。ホワイトファングは九機の中隊だろ?
一機足りん。捨て石かもしれんぞ。」
ルニエの考えも、あるにはある。
その上、司令官はルニエであるので、レドはそれ以上は言わなかった。
結果、両艦は何もせず敵を通した。
ユアンが訝しむ。
「……敵潜水艦、動かない?」
キースは迷わない。
「好都合だ。このまま最大戦速。」
沈黙が耐えられなかったゾーイが、大声を出す。
「よーし!こっからはどんなに声出してもいいよね!
あーやっと解放されたぁ!!」
各機にゾーイの声が響く。
「だからって、大声だすなよ。」
「耳が痛い。」
ビルとミリィが同時に抗議する。
「あら、ごめんごめん。」
ゾーイは笑って返す。
和んだ空気を裂くように、サイラスが叫ぶ。
「ミドガルズオルム級――距離二十キロ!」
マリアは不気味さを感じる。
「ここまで来て機雷の一つも無いなんて……」
キースも違和感を感じながら進む。
「迷っていても仕方ない。
周囲に警戒しつつ、速度は落とすな。」
もはや、ヨルムンガンドでも分かる距離までキース達は迫っていた。
「敵ACE、接近。距離二千五百」
ルニエが不敵に笑う。
「敵もそろそろ本艦を確認できるだろう……
では、絶望させてやるか。」
おもむろに立ち上がり、右手を前に掲げる。
「クラーケン発進!
連中を海の藻屑に変えてやれぃ!」
いよいよ、サイラスがヨルムンガンドの影を捉えた。
「ミドガルズオルム級確認!……やはりデカい……」
息を飲むサイラス。
そして暗黒の海から、巨大な影が剥がれ落ちる。
「!!ーーミドガルズオルム級艦艇より大型機離脱!
………これがクラーケンか?!」
クラーケンはヨルムンガンドより剥がれると、すぐに第三小隊へ突進してきた。
「は、速い!」
「うぉぉぉぉ!でけぇぇ!」
ユアンとビルが、その速度と巨体におののく。
知ってはいるが、直に見るとソレは間違いなく巨大な高速物体だった。
クラーケンは去り際に多数魚雷を射出する。
しかし、ユアン達にその程度の攻撃は通用しない。
三機は容易く回避した。
クラーケンの指揮官が呟く。
「やはり魚雷程度では落とせんか。」
口角を上げ号令する。
「テンタクルズ展開!
03から08、ツ―マンセルで各個撃破せよ。」
テンタクルズーーすなわち触手たちが静かに答える。
「了解。これより迎撃行動に移る。」
クラーケンは再びユアン達の第三小隊に近づく。
そして、テンタクルズを六本展開させる。
「触手が出てきた。」
「こりゃ、確かにダイオウイカだな。」
サイラスとビルが目の前の光景に、息を飲む。
しかし、その光景は直ぐに変貌する。
展開したテンタクルズが高速で襲い掛かって来たのだ。
テンタクルズは先端より白濁奔流を走らせながら迫る。
ビルはテンタクルズの先端を見て、目を疑う。
「こいつら……顔と腕があるぞ!?」
ーー奇妙な機体である。
テンタクルズ全てに頭と腕ーー
頭は敵機を補足。
腕には中距離戦用小型魚雷ランチャーと格闘専用ダガーを装備。
それが、二本で一対を組んでいるのだ。
先端部は自由に動きながら、触手の”腕部”はそれを補助する様に敵機を絡める。
一機の標的に対して、二本がその様な行動で捕食するのだ。
並のパイロットでは対応は不可能だろう。
ユアンは敵の攻撃を掻い潜りながら、その複雑な構造を分析する。
「これだけの巨体に触手群は縦横無尽ながら整然としてる……
サイラス、敵機の生体スキャンを!」
サイラスが生体スキャンで、熱源から人間の位置を探る。
「各触手先端に一名、本体に三名を確認。」
ユアンが言う。
「つまり、触手先端は独立して動いている。
しかし、本体がそれらを統括しているんだ。」
ビルがショットナックルで敵を牽制しながら言う。
「で、どうするんだ?」
ユアンはクラーケン本体を指す。
「本体と触手を切り離す。」
サイラスは察知する。
「なるほど!神経を、ですね!」
ビルは首を傾げるが、ユアンは躊躇わず小隊に号令をかける。
「第三小隊は敵機本体にジャミングをかける。
突撃!」
テンタクルズに目もくれず、本体に向かってくるユアン達を見てクラーケンが対応する。
「こいつら……本体狙いか!
テンタクルズ01、02、09、10展開。
本体への接近を阻止せよ。」
このクラーケンと言う機体は、”本体と触手”が”母艦と攻撃機”と言う関係の構造だ。
テンタクルズの四本は、ユアン達の行く手を阻む様に展開する。
ーーユアン達が交戦して数分。
キース達もクラーケンに合流する。
「ユアンたちが本隊にジャミングを仕掛ける。
全機予定通りのチームで援護するんだ。」
「「了解!」」
ホワイトファングは予定行動に入る。
キースは単機、ケビン&マリア、ゾーイ&ミリィでペアを組む。
キースとケビン、マリア組でテンタクルズ07から10をの相手をする。
「ここは任せろ。行け!」
「隊長!助かります。」
キース達の援護で、ユアン達は迷いなく本体へ向かう。
ゾーイ、ミリィは組は第三小隊を追ってくるテンタクルズの相手をする。
「さーて、例の作戦上手く行くかしら。」
「やるの!」
「あはは。もーミリィはいっつも怒ってばっかりー。」
「貴方がそう仕向けてるんでしょ!」
「そっかそっか。ごめんね。
んじゃ、喧嘩しない様に分かれてやろうか!」
「えぇ、そうしましょ。」
ゾーイとミリィは六本の触手に対して分散して対応する。
二人の仲はぎこちない様に見えるが、機体の動きは完璧に噛み合っていた。
分散する二機を見て、クラーケン指揮官は冷静に指示する。
「テンタクルズ03から05、06から08の三機で挑め。
敵は手練れだ。スリ―マンセルでやれ。」
「了解。」
クラーケンは統率された行動でホワイトファングを苦しめる。
しかし、ホワイトファングも固い絆で助け合う。
そして、この場にいない男によって戦況は一変する。




