第92話「蘇る歌声、阻む海の魔獣」
ーーケアン基地・ブリーフィングルーム。
オセリスから報告があると、ホワイトファングメンバーが集まっている。
モニターにオセリスが映る。
『全員元気そうだな。』
ボンドがへつらう。
「はいはい。そりゃもう。
前回の防衛戦では大活躍でした。」
『キースの作戦でな。』
ボンドが自分の手柄と言う前に、オセリスが釘を刺す。
口ごもってしまうボンドに皆が笑う。
『しかし、本当によくやったな。』
オセリスがキースを労う。
「大佐の二番煎じですよ。」
キースは頭をかきながら謙遜する。
オセリスは首を振る。
『先人の知恵を借りる事に、引け目を感じることは無い。
それにお前の作戦は、俺のモノより更に磨きがかかっていた。
もう、一人前の指揮官だな。』
レイも後押しする。
「モリス将軍も認めてるんだ。自信持てよ。」
レイを見てミリィが言う。
「それを言うならレイもだよ。
第二大隊をしっかり統制したんだから。」
レイは照れながら、あさっての方向を見る。
「まぁ、あれはゾーイに乗っかっただけだぜ。」
ゾーイは首を振る。
「ううん、きっかけは私でも皆はレイに付いてきたんだと思うよ。
自信持って!」
ゾーイは自分の両腕をぎゅっと力を込める。
それを見てミリィは少しムッとした。
話にゾーイが出てきたので、オセリスが切り出す。
『そう言えばCoAなんだがな。
ーー解体される事になった。』
一同は困惑する。
『メンバーはアウグスト研究所所属になる。
ゾーイ、お前も戻って来たらテストパイロットだ。』
オセリスはいつも通り動揺も無くサラリと言う。
「了解しました。」
ゾーイも慣れたように敬礼のみする。
「でだ。悪い話は先にしておいてな。」
そう言って、手をやり人を呼ぶ。
モニターに新たに映った姿を見て、みんなが歓喜する。
「「ヘレン!」」
モニターに映る彼女は、すっかり眠る前と変わらない様子だった。
『へへ、みんな心配かけちゃったね。』
照れるヘレン。
「おう、元気そうだな。」
「少しだけ心配してました。」
「二週間だもんなー。待ちくたびれたぜー。」
「また一緒に戦えるんですね!」
「良かったぁ。寂しかったんだから。」
「また歌って下さいよ。癒しが欲しいっス。」
口々に再会の喜びを語らうメンバー。
しかし、キースだけは口ごもっている。
「ヘレン……博士と大佐から聞いたよ。
君の覚悟を俺は全然知らなくて……その……」
ヘレンは柔らかな表情で言う。
『キース……
謝らないで。
私の想いは、キースの傍にいたいってこと。ずっと変わらないよ。』
だんだん頬が赤くなる。
『はいはーい。そこまでー。』
強制終了させる、聞き覚えがあり癖のある声。
モニターに、フォスター博士が割り込んできた。
「そういう話は二人きりの時にしなさい。」
ふんすっと息巻くフォスター博士を見て、オセリスがフォローする。
『まぁ、吉報は後からの方が後味も良いだろ。
その為に博士も同席してもらってるんだ。』
レイが興味本位に聞く。
「ヘレン復活より吉報って?なんですか?」
フォスター博士が自慢げにヘッドギアを見せる。
『これよ、これ。』
マリアがよくよく観察する。
「んー。一見すると普通のヘッドギアですが……」
"No, no, no."と博士が気分よく指を振る。
「そうじゃないんだなー。
これは眠れるヘレンを研究して開発した限界突破対策ーー
『その名も”ニューロ・スタビライザー”!!』
フォスター博士のテンションがさらに上がる。
『脳神経負荷を分散して、
限界突破してもパイロットがぶっ壊れないのよ!』
いつもの勢いとワードセンスにレイがたじろぐ。
「ぶっ壊れないって……物騒だな。」
フォスター博士も少し言い過ぎたかと、言葉を変える。
『そーねー。ヘレンみたいに二週間も寝なくて済むって事よ。
まぁ、一日くらいぐっすり寝れば元通りってね。』
オセリスは博士に苦笑しながら言う。
『ともかく、限界突破のリスクは無くなったと言う事だ。
明日お前たちに支給される予定だ。』
レイは軽口で皮肉る。
「でも、キースとヘレン以外にそんなスゲーの要るんですかね。」
オセリスはニヤリとする。
『っふ。自覚していない者ほど突破できるかも知れんぞ。』
レイはキョトンとする。
傍らでミリィが赤くなり俯く。
ひと呼吸の後、オセリスが締める。
『上がCoAを解体した意図は分からん。
だがそれ故に、さらにお前たちの力は求められるだろう。
お前たちの更なる成長に期待する。』
「「はい!」」
オセリスの言葉に皆が強く敬礼する。
通信が切れて、話題はヘレンに戻る。
「良かったな、キース。」
レイがキースの肩に腕を組んで言う。
「あぁ。信じたけど実感して……ごめん、涙が……」
キースは二週間ずっと貯めていた涙を溢れ出す。
その時だった。
一人の伝令兵が駆け込んでくる。
「伝令です!
ジャスティン・ネルソン中将より、ホワイトファング中隊へ特別司令!」
喜びに包まれていた部屋に、再び戦場の影が落ちた。
ーーサーエヴァンス・ブリーフィングルーム。
ネルソンの表情は重い。
「諸君らを招集した理由は、薄々理解しているだろう。
……敵新造艦ミドガルズオルム級二番艦だ。」
スクリーンに映し出されるヨルムンガンド。
レイが軽口で問う。
「また、例のACEミサイル作戦ですか?」
「あれはキツかったな。」
ビルも軽口で同調する。
しかし、ネルソンはゆっくり首を振る。
「いや、敵もバカではない。
二度も同じ手は通用しないだろう。」
一同が息を飲む。
ネルソンは続ける。
「今回陽電子砲一射目でハニンガムを失った。」
ミリィが俯く。
「ミラー艦長……」
ネルソンは頷き続ける。
「そうだ。我々は彼らの犠牲を無駄にせんと対応した。」
場の空気は緊張を増す。
ネルソンはスクリーンを変える。
三艦の潜水艦からトライデントが合計二十七機射出される。
「水中型ACEの<トライデント>!」
マリアが目を輝かせる。
「そう。トライデント大隊で海中から沈める試みだった。」
そう語るネルソンは暗い表情で、スクリーンを次に変える。
映った光景は十機のトライデントの無残な姿だった。
「酷い……」
ミリィが口を塞ぐ。
「こいつは……?」
目が利くサイラスが遠くに映る大きな影を指す。
ネルソンが頷く。
「今回の敗因だ。”ダイオウイカ”と呼称している。
この巨大兵器によって、僅か三分で十機のトライデントが撃破された。」
場が凍り付く。
ネルソンはホワイトファングを見て言う。
「このダイオウイカを倒さない限り、ミドガルズオルム級を沈める事は出来ない。
逆にダイオウイカさえ討てば、ミドガルズオルム級は丸裸だ。」
キースに焦点を絞り、託す。
「君たちホワイトファングでこのダイオウイカを討伐してもらいたい。」
ユアンが言う。
「しかし、我々はトライデント…水中型ACEは未経験です。」
キースは首を振る。
「いや、ミハエル・ファフナーは空戦機のグリフォンも自在に操ってる。
俺たちだってアスカロン・フライヤーはシミュレーション無しで使った。
水中型ACEだって。」
ネルソンも頷く。
「NuGearの有効性はそこにある。
パイロットの思考を素直に機体に伝える。」
ゾーイが続ける。
「つまり、”泳ぐ”って気になれば泳げるって事よ。
あっ、誰かカナヅチいる?」
ゾーイは冗談を言って場を和ませる。
ネルソンは笑いながら話す。
「ははは。いや、実際泳ぐわけでもない。
要は気の持ちようだ。
その点は君たちが最も強い事は周知の事実。」
ネルソンの表情は一転、真剣になる。
「君たちでしか出来ない。
ーーやってくれるか?」
キースは躊躇いも無く言った。
「了解しました。
ホワイトファング中隊、ダイオウイカ及びミドガルズオルム級二番艦の撃沈の任ーー
受領しました!」
その声に、隊員たちも力強く頷いた。
ヘレンの復活に沸いたのも束の間。
ホワイトファングは、新たな任務を与えられた。
海の悪魔〈ダイオウイカ〉と大蛇〈ヨルムンガンド〉。
二匹の海の怪物が、彼らの前に立ちはだかる。




