表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
既視感あるくない?  作者: むぅむぅ星人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/114

第90話「変わり始めた戦場」

ーーピースブリタニカ島・コロンゴ領北海沿岸。


ヴァレン峠で奇妙な共闘が行われていた頃。

ここ北海沿岸でも戦闘は続いていた。


揚陸部隊はチャーリー・トンプソン大佐の砲撃と、ジャスティン・ネルソン中将の爆撃を受けた。

それでもなお、一個大隊規模の兵力が残っている。


残存部隊は再編しながら、なおも歩を進めていた。

それを迎え撃つのは――

レイ率いるホワイトファング第二大隊である。


「ひゃー。まだあんなに残ってやがる。」

レイが敵のしぶとさに感心したように言う。

「感心してる場合じゃないわ!

 私たちがここで食い止めないと!」

ミリィは思わず力む。

「あー、だからダメダメ。もっとリラックスリラックス。」

ゾーイはいつもの笑顔でミリィをたしなめた。

「だから、なんで上から目線なのよ!」

ミリィが突っかかるが、ゾーイは笑顔を崩さない。

「ごーめん、ごめん。そんなつもりじゃないのよ。

 ただミリィ、ちょっと力入りすぎかなって。ね、レイ?」

突然振られて、レイは慌てる。

「あ?……あぁ、そうだな。

 確かにミリィは、ゾーイみたいにもう少し楽にした方がいいかもな。」


するとゾーイは突然ローラーダッシュで走り出した。

「ってことで、私はちょっと引っ掻き回してくるから。

 仲良くお話しててー!」

ゾーイの唐突な行動にレイが慌てる。

「お、おい! 一人で突っ込むのかよ!?」

ゾーイは笑う。

「キースも言ってたじゃん。

 私一人で十分な戦力になるって。

 それに敵さんもローラーダッシュなんて初見でしょ?

 鈍足で必死に上陸した所に、待ち受けてる相手が高速機だったら…ムフフフ。」

笑みを浮かべながら、ゾーイは速度を上げた。


「……んもう。勝手なんだから!」

ミリィが頬を膨らませる。

しかし、レイは冷静にゾーイを見送る。

「いんや、あいつの言う通りかもな。

 敵は海水をかぶって鈍足だろ。

 そこに高速機が陽動をかければ――

 注目でさらに動きが鈍るって訳だ。」


そして、レイは部隊に号令をかけた。

「よーし、ホワイトファング第二大隊。

 ゾーイが敵を引っ掻き回す。

 敵は足が止まる。

 それを落ち着いて確実にやるんだ。」

隊員達が”ゾーイ”の名前を聞いて、息巻く。

「おぉ!あのゾーイが単身特攻か!」

「さすがだな!」

「そりゃ敵も目が離せないな!」


ウンウンと頷き、レイが付け加える。

「動けない敵だ。撃破より行動不能を狙え。

 そしたらパイロット救助で、敵はさらに混乱するからな。」

『『了解!』』

(これで良いんだな、キース。)


ミリィがぽつりと漏らす。

「凄いね、レイ。私は全然だ……」

レイは優しく言った。

「さっきはああ言ったが、俺はミリィの方を信じてるからな。」

「え?」

ミリィは一瞬固まる。

「この前のシミュレーション、勝ち越してただろ。

 自信持てよ。背中はいつも見てる。」

「レイ……」

ミリィの頬が赤くなる。


空気が妙に甘くなりかけたので、レイは慌てて戦場を指す。

「ほら!

 ゾーイが引っ掻き回してくれてる。敵はカカシ状態だ。

 行って来い!俺が援護する。」

「うん。行って来る!」

迷いの消えたミリィが敵陣へ飛び込む。

レイはスコープ越しにそれを見守った。

(そうだ。迷うなミリィ。

 俺はいつもそばにいるからな。)



海岸線では、ゾーイが宣言通り敵の注目を集めていた。

コンバットホイールの高速移動は砂浜でも速度が落ちない。

更に得意のダッシュジャンプも加わるのだから、敵はまったく捕捉できない。

「な、なんだアイツは?」

「ホワイトファングだ!」

「速い!速すぎる!」

「どこだ?上!?……ぐぁ!!」

翻弄された揚陸部隊は次々ゾーイに狩られる。

狩られた機体からは無傷のパイロットが出てくる。

それがさらに混乱を広げた。

「ふふふ。あとはみんなの取り分も残してあげるか。」


ゾーイがある程度戦場を混乱させると、意気揚々と後続が現れる。

「ゾーイに加わるぞぉ!」

「脚だ!脚を狙え!」

「生身のパイロットは撃つなよ。寝覚めが悪くなる。」

揚陸部隊は敵が全機ホワイトファングカラーだ。

それだけで混乱は倍増した。

「全員ホワイトファングなのか?!」

「どうなってるんだ?!」


そこへミリィも突入する。

その鋭い動きに敵が集中する。

「隊長機だ!」

「奴に集中攻撃だ!」

四方から攻撃が襲う。

だが――

ミリィは余裕の表情で二刀のショートソードを振るった。

瞬間。

敵機の両腕がすべて落ちていた。

「うん、落ち着いてやれば出来る。

 ……ゾーイの言う通りか。」


さらに敵が押し寄せる。

しかし、一機、また一機と何も出来ないまま頭を撃ち抜かれる。

「スナイパーか?!」

「どこだ……あの距離から?!」

彼らが驚くのも無理もない。

その距離――二千メートル。

「動かない的ならこの距離でも余裕だな。」

レイは笑って言うが、もはや超人級の目の良さだった。



ーーヨルムンガンド・艦橋。


揚陸部隊の散々な状況をファビアン・レド大佐は苦虫を潰した顔で見ていた。

「ぐぅぅ……一方的ではないか。

 ホワイトファング一色だけで、ここまで混乱するか……

 いや、最初に飛び込んできた高速機か……」

ルニエは何故か調子よく喋る。

「こーなるから、最初から乗り気じゃなかったんだ。

 大体カルドーネの言いなりになる事自体だーー」

「うるさい!!」

常に冷静のレドが吠えた。

ルニエも驚いて、思わず黙ってしまった。


我を取り戻したレドが、ルニエに頭を下げる。

「失礼いたしました。提督。

 予想を超える展開だったので、気性の整理が追い付かず…」

ルニエは軽く笑う。

「良い良い。

 それにしても、あの高速機だな。

 コロンゴのACEにあんなバケモノがいたとはな。」

レドも頷く。

「えぇ。戦場は奴の独壇場です。

 しかし、あの機動性……扱える者は限られましょう。」


一息の後、レドはカルドーネに繋げる。

「敵迎撃部隊に予想にない高機動機がおり、戦況は一方的状況です。

 遺憾ながら、揚陸部隊を撤退させます。」

ヴァレン峠の戦況に苛立ちが溜っているカルドーネは、怒りを隠せない。

『何のための南北央三方面侵攻だと思っているのだ。

 陽動効果が無ければ貴軍らの意味がないではないか。

 救援など後にして、敵を削り注目させるのが貴官の役目であろう?』

”救援を後にして”の一言に、レドは怒りを覚える。

「兵の命を何だと思っているのか!

 ……どうやら、閣下は戦場にいても机の上でしか戦況を見ていないようだ。

 我が軍のかけがえのない兵の命、その様な指揮官の元では預けられませんな。」

そう言って、指示を出す。

「全軍撤退。

 速やかに残存兵を回収しつつ、島から離れる。」


カルドーネが恨みを込めた口調で言う。

『では、本作戦は貴官のミスで片付けさせてもらうぞ。』

レドはやや上から目線で言う。

「これは閣下立案の作戦。

 私は最善を尽くした。

 コロンゴ軍の作戦がそれを凌駕していたのです。

 現に、ヴァレン峠でも同様に芳しくない戦況ではないですか。」

カルドーネは、ばつ悪く顔を横に向ける。

『あれは、ファフナー中佐の失態だ……』

レドはほだす顔で進言する。

「作戦中止を進言します。

 現状では、十分な陽動効果は得られません。

 本隊は挟撃に憂き目に遭うでしょう。」


レドの進言は的確だった。

北部は撤退。

南部もヴァレン峠口を抑えられ、シュヴァルツアドラーの二個小隊は孤立している。

その上、ユアン達のホワイトファング第三大隊も参戦する。


このままではむざむざ討たれに越境するようなものだ。


カルドーネは歯から血が出るほど食いしばる。

「この私が戦略で後れを取るとは……」


だが、私情を戦場に持ち出さないのは、彼の戦術家としての評価点である。

カルドーネは、素直にレドの進言を受け入れる。

『貴官の言う事もっともだ。

 直ちに本作戦を中止する。』


翻して地上部隊へ通信する。

「本隊は帰還。

 ヴァレン峠陽動部隊も撤退。」

地図に映る孤立しているミハエル達を見て一言。

「ファフナー中佐。自力で撤退可能か?」

ミハエルは尊敬の念を持って返答する。

『もちろんです。

 閣下の賢明な判断に称賛いたします。』


通信を終えたカルドーネは無言で司令部を去る。

その背中はどこか空虚であった。


撤退するエウロパ軍には、多くの生身の兵がいる。

ACE戦が主流となった今では、奇妙な光景だった。


そして彼らの心の中は”敗戦の屈辱”より、”生還した喜び”が大きかった。


二人のAce of ACEsが、戦場に立つ者たちの心を少しずつ変え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ