第105話「限界突破者たちの死闘」
ーーベルドセーヌ平原。
シュヴァルツアドラーは既に第二、第三小隊を失った。
しかし、ミハエルは引き下がらない。
率先して二人を庇うミハエル機は、誰より損傷を受けていた。
「やはり新型……叶わぬか。」
ミハエルの額からは血が流れ落ちていた。
「中佐!これ以上は危険です!」
私が道を作ります。後退を!」
エミールがミハエルを気遣う。
「もうアンタ限界じゃないか!
退く事も指揮官の務めだよ!」
レティシアもミハエルを想う。
しかし、エウロパ領を踏み荒らされている。
この現状を止められなかった自責の念が、ミハエルを動かしていた。
「この地は戦場になってはならんのだ!
私たちは――退くわけにはいかん!」
ミハエルが戦況を変えるべく強引な特攻を試みる。
「中佐!無茶だ!」「ミハエル、もうやめて!」
ミハエルは二人の制止を振り切り突撃する。
標的はマリアだ。
「エミール!お前ならキース・ウォレンを捉えられるはずだ!」
「レティシアは槍使いは止めてくれ!」
エミールはキースを狙撃する。
「くそ!このスナイパータダ者じゃない!」
直撃ではないが、キースを確実に捉えている。
「中佐はやらせん!やらせはせん!」
エミールのミハエルへの想いが彼の精度を極限まで上げる。
彼はもう理屈で狙撃していない。キースの動きが”観える”ようだった。
一方レティシアもまた、銃撃剣撃を交えケビンを圧倒する。
「くそ!こいつエクスカリバーでも勝てないのか?!」
高速で逃げるケビンは、すかさず行軍で見せた空中突きをキメる。
「だからなんだ!ミハエルが止めろって言ったんだ!
絶対やるよ!」
空中の連撃など普通に考えて避けようがない。
しかし、彼女はその連撃をすべて見切った。
と言うより、”先読み”していた。
「ななな!どういうことだよ!!!」
ケビンはレティシアの超人的な動きに理解が追い付かなかった。
一方、キース、ケビンを抑えられ危機が迫るマリア。
高速後退しながらマルチランチャーから拡散弾を発射する。
「来るな!来るな!」
しかし、ミハエルは全く退かない。
「一機だ。まず一機叩く!
高速機とてガンナーは脅威ではない!」
マリアがミハエルの射程に入る。
「た、助けて!ケビン!!」
マリアが思わず、ケビンに助けを求める。
ーーすると、ミハエルにランスが突き刺さる。
「マリアをやらせるかよ!!」
投てきで当てれる距離とは思えない。ましてケビンは近距離専門家だ。
そんなケビンも、マリアを想ってこそ限界を突破したのだろうか。
ランスはミハエルのガルムのコックピットスレスレを貫いていた。
マリアはハッとし、ミハエルに止めを刺そうとする。
「今なら!」
マルチランチャーからAP弾(近接貫通弾)を撃つ。
しかし、ソレはミハエルに直撃する事なく、ミハエルとマリアの間で暴発した。
「中佐はやらせない!やらせるものかぁ!!」
エミールだ。彼がミハエルの命を狙うAP弾をピンポイントで打ち飛ばした。
本来ならマルチランチャーを狙えば良いのだが、彼の目にはミハエルの命を狙う”対象”しか見えていなかった。
そして、その瞬間に驚愕しているケビンの背後から言いようのない狂気が迫っていた。
「おまえ!おまえがミハエルをぉぉぉぉ!」
深紅のオーラのようなモノを纏ったレティシアが、ケビンを切り飛ばす。
「え?ーーーうわぁぁぁぁぁっ!!」
ケビンは胴体に大きな傷を負いながら二十メートルは吹き飛ばされた。
キースはその様を見て確信する。
(限界突破だ!)
そして、すぐさま外部音声で叫ぶ。
《聞け!ミハエル!
二人は限界突破してる!
下手すりゃ二人が危険だ!!》
ミハエルはキースの声を聞き気付く。
(限界突破……そうかヴァレン峠の時のような事か!
君が言うなら危険なのだろう。)
「エミール!レティシア!
落ち着け。もういい。
残念ながら、今彼らに太刀打ちは不可能だ。
私は、このまま君たちを失いたくない!」
ミハエルの声を聞き、エミールとレティシアはふっと力が抜けたように倒れ込んだ。
ミハエルは、エミールとレティシアを見て瞳を潤わせる。
「二人は私を想ってここまで……」
そして、スを睨む。
《どうするつもりだキース・ウォレン。
私を撃つか?》
キースは小さく呟く。
「……悪いな。」
するとキースはミハエルのガルムの両腕脚を撃ち飛ばす。
体だけになったガルムからミハエルが強制排出される。
ーーその時だ。
倒れ込んだミハエルに向かって、突如トラックが走り込んで来る。
そして、トラックから麻袋を持った男たちが降りてくる。
ミハエルを麻袋に包む。
そのまま颯爽とトラックに乗り込み走り去って行く……
「相変わらずナイスタイミングだな。」
キースは小声で笑う。
ミハエルを攫った者たちーーそう、PLFだ。
キースは作戦当初から、これを画策していた。
予めPLFリーダーのコルコンディアとコンタクトを取り、ミハエルをPLFへ送ったのだ。
(ミハエル・ファフナー。
アンタも彼らの想いを聞いてくれ。)
戦場にはエミールとレティシアが倒れ込んでいる。
キースは飛んでいったケビンを伺う。
「ケビン、ケビン大丈夫か?」
ケビンは応答がない。
無線から僅かに寝息が聞こえてきた。
「あいつもか……マリア、動けるか?」
マリアは起き上がる。
「は、はい。ケビンは?」
キースは少し照れながら言う。
「誰かさんの声に駆け付けて、限界突破したっぽいな。」
それを聞いて、マリアは顔を真っ赤にする。
そこへ第二、第三小隊が駆けつける。
レイが倒れるエミールとレティシアのガルムを見て言う。
「おいキース、こりゃあ。」
ヘレンが心配そうに言う。
「限界突破……したの?」
キースは頷く。
「あぁ。二人の動きは異常だった。
ミハエルは愛されてるんだろーな。羨ましいよ。」
ユアンが間髪入れず言う。
「そ、そんなの僕たちだって隊長が大好きですよ!」
ユアンがあまりに真剣なので一同は笑う。
キースはマリアに言う。
「第三小隊で、ケビンとこの二人をヴァレン峠まで送ってくれないか?」
ユアンが快く応える。
「了解。」
サイラスは浮かない顔で言う。
「隊長、気をつけてください。
後方より一個大隊のACE部隊が接近してます。
ライブラリに無い……新型です。」
キースは敵の影を見据える。
「シュヴァルツアドラーを撃退してもまだ来るか……
並の敵じゃないって事だな。」
ーールーティア基地・司令室。
マクシミリアン・シュヴァイツァー大佐は机を叩く。
「はん!シュヴァルツアドラーめ。何が対ホワイトファング部隊だ!」
ディートリッヒ・クラウセン少将は無視するかの様に、無反応で地図を見る。
シュヴァイツァーJr.はクラウセンに詰め寄る。
「ホワイトファングは残り五機。
このままやりましょう。
アレさえ消せばコロンゴは終わりだ。」
クラウセンはそっぽを向け指示を出す。
「キマイラ大隊、ドルムキマイラを盾としてゴーキマイラで攻撃せよ。
撃破は狙わない。あくまで戦力分析に徹せよ。」
シュヴァイツァーJr.は反論する。
「クラウセン様!
キマイラであれば勝てましょう!」
クラウセンは言葉少なく言う。
「焦りは禁物だ。」
ーーベルドセーヌ平原。
キマイラ大隊がホワイトファングを発見すると、指示通りの行動に移る。
十八体のドルムキマイラが寸分違わず整列し、正に”壁”を形成。
そこから高いジャンプでゴーキマイラが飛び出してきた。
「来たぞ!」
レイが身を構える。
キースは即座に指示を飛ばす。
「マリアは牽制ロケットで壁になってるのを揺さぶってくれ。」
俺とミリィで先行して敵に突っ込む。
レイはミリィのカバーを頼む。
ヘレン、俺を見ててくれ。危なくなったら…」
「Nジャマーね。」
ヘレンの答えにキースは頷く。
「ヒュー。お前とヘレンがバディでやるなんて妬けるねぇー。」
レイが軽口を飛ばす。
「お前だってミリィと仲良く戦えて幸せだろ。」
キースも負けずに返す。
「んなっ!…言うようになりやがったな。」
レイが少し赤くなりながら、指で鼻を掻く。
ケビンが居ないマリアは、少し不貞腐れて言う。
「はいはーい、来ましたよ!」
キースも戦闘モードに切り替える。
「よし。ホワイトファング、迎撃に入る!」
五機のエクスカリバーが平原へ飛び出す。
その前に立ちはだかるのは、
鋼鉄の壁――キマイラ大隊。
ベルドセーヌ平原に、
新たな死闘の幕が上がろうとしていた。




