第103話「新たな剣の下に」
ーーカリビア山脈・コロンゴ側麓。
ジェイソン・モリス少将は選択に迫られていた。
越境は始まってはいるが、現在三合目。
引き返すことも可能だ。
第七艦隊が、予想以上に早く作戦中止となった。
この現状で作戦を続行すれば、北部の上陸部隊がブラフであると言っているようなものだ。
敵に三択を迫ることで混乱させる算段が、二択に狭まってしまった。
しかも相手はクラウセン。
彼と彼の兵は徹底した合理主義に基づき、死すら恐れない強兵だ。
ーー引き返すなら今しかなかった。
そこへキースから通信が入る。
『現在、ヴァレン峠に向け進行中。
敵に察知された形跡はありません。』
モリスは考える……
(先の侵攻作戦では、彼らを頼りにしたが為作戦失敗した。
また彼ら頼りで良いのか?)
返答が遅いモリスにキースは言う。
『第七艦隊の件、聞きました。
しかし、だからこそ作戦を続行するべきだと思います。
敵は未知の兵器でネルソン提督を圧倒した。
なら、俺らのエクスカリバーだって。』
モリスは項垂れる。
「しかし、もはやヴァレン峠が本命だと悟られていよう。
君たちをむざむざ危機にさらす訳には……」
キースは迷いのない声で言う。
『やってやりますよ。
エクスカリバーなら必ず!』
キースの力強い声と自信が、モリスに決断させる。
「分かった!
君たちの新たな力を信じよう!
作戦は続行する。」
『了解!』
キースはモリスの覇気が戻った事に安堵した。
ーーヴァレン峠に向かうホワイトファング。
敵探知網から外れる為、敢えて迂回路で進んでいた。
迂回路の遅延も、コンバットホイールなら余裕でカバー出来る。
ついでに彼らはエクスカリバーの慣らしもやっていた。
レイが冗談まじりに言う。
「お二人さん、昨夜はお楽しみでしたか?」
キースとヘレンは特に反応しない。
ヘレンが帰還してから、二人は互いの想いを確かめ合った。
もう離れない。たとえ離れても気持ちは繋がってる。
ーー二人の間にはもう言葉も要らない深い絆が完成していた。
「かぁー!なんだよ、そのノーリアクションは!
もう二人結婚しちまえ!」
冗談も通じないほど絆が深まっている二人に、レイが嫉妬まじりに言う。
キースは少し笑って、レイに反撃する。
「そー言うお前はどうなんだ?」
レイは口ごもる。
「そ、それは……だな……」
レイとミリィの仲も、もうメンバーには知られた所であった。
煮え切らないレイに、ミリィはため息をつく。
そして、周りは笑う。
皆は二人を温かく見守っていた。
和む空気を少し緊張させるように、ユアンが切り出す。
「しかし、エクスカリバー凄いですね。」
「ゾーイの言った通り、慣れたらこんな最高の機体は無いな。」
ビルも笑顔で頷く。
「俺なんて、こんな事出来るようになりましたよ!」
そう言うと、ケビンはダッシュから軽くジャンプし滞空する。
そのわずかな滞空時間で、ランスを十突きしたのだ。
「ヒュー。やるなぁ。」
サイラスが感心する。
「それなら、私だって!」
負けずにマリアが少し離れると、ローラーダッシュしながらも一瞬で全機ロックした。
「この速度で全機マルチロックか。
これなら後方は安心だな。」
キースに褒められ、マリアは明るい表情になる。
「隊長ぉ。俺も褒めて下さいよぉ。」
マリアを見てケビンが拗ねる。
「お前は犬かよ……
射撃なら、俺だって、ほれ。」
レイはそう言うと、遠く離れた岩山の頂点をピンポイントで撃ち抜いた。
「やっぱりすごい……
でもね。」
そう言うなり、ミリィは走行するレイに並走して喉元にソードを突き付けていた。
「ま、参った。」
レイが思わず手を上げる。
「ははは。こりゃレイは尻に敷かれるな。」
ビルの一言で皆がまた笑う。
困難な戦況でもホワイトファングは希望を捨てない。
冗談を挟みながらも突き進む。
キースは皆を見て「行ける!」と確信した。
やがて峠口が見えてくる。
「ホワイトファング大隊、目標ポイントへ到着。
ポイントはテイラー准将が抑えてくれてます。」
ネイサン・テイラー准将が答える。
『時間通りですね。さすがです。
では、宜しいですか?モリス少将?』
モリスは立ち上がる。
『ホワイトファング大隊、作戦開始!
一気に峠を抜け、敵地を荒らしまわってくれ!」
キースは操縦桿を強く握りしめる。
「了解。
これよりホワイトファング大隊はヴァレン峠を越境。
エウロパ領へ侵攻します。」
そして皆を見る。
「おそらく、峠の先にシュヴァルツアドラーがいる。
でも、今の俺たちなら必ず勝てる。
恐れるな。行くぞ!」
「「了解!!」」
ーーヴァレン峠。
ヴァレン峠を進むホワイトファング大隊。
隘路が続く危険な道。
しかし、彼らは速度を落とさない。
国境線を越えいよいよ敵警戒網に捕まる。
「敵機発見!」
「は、速い!?」
「あのスピードで進めるのか?!」
エウロパ軍はなにも出来ない。
「悪く思うな。」
キースがそう言うと、走行ざまに脚部へ射撃する。
「ぐわぁ!」
「脚部損傷!」
「敵機…九!」
「ヴァレン峠を…!」
通信を試みる敵機をレイとマリアが的確に潰す。
「っしゃ!もうゴールだ!」
ケビンが叫んだ。
「それでは仕上げです。」
サイラスが去り際にジャミングアローを数発放つ。
これでヴァレン峠は孤立した。
峠を抜けたホワイトファングはカリビア市に向けて加速する。
ーールーティア基地・司令室。
『敵機…九!』
『ヴァレン峠を…!』
ヴァレン峠から僅かに聞こえた通信を聞く、ディートリッヒ・クラウセン少将。
その脇にはミハエルとマクシミリアン・シュヴァイツァー大佐がいた。
ミハエルが言う。
「九機での強行……ホワイトファングかと思います。」
シュヴァイツァーJr.が言う。
「では、貴官らの出番だな。」
ミハエルは俯く。
「しかし、進軍スピードが異常です。
まるで単独行動で陽動しているような……」
クラウセンが静かに言う。
「では、なおさら貴官の役目だ。
行って彼らの動向を探れ。」
ミハエル敬礼する。
「は!では、早速出撃します。」
(ついに敵に領土侵犯を許してしまったか……
戦局が泥沼化する前に追い返さねば!)
走りゆくミハエルを見て、クラウセンは言う。
「後続にドルムキマイラ(防御型)十八、ゴーキマイラ(攻撃型)九の1個大隊つけろ。」
シュヴァイツァーJr.は驚く。
「一個大隊……ですか?」
クラウセンは一言だけ言う。
「そこが敵本隊だ。」
ーー格納庫。
ミハエルは複雑な顔でいる。
レティシアが心配する。
「気になるかい?」
ミハエルは頷く。
「先の戦いでは一機高速機がいたただけで戦況は混乱した。
彼ら全員がその力を手にしていたら……」
マルティンは勇気付ける。
「やる前から負けを考えてちゃ勝てませんよ。」
ロメロも続く。
「今度こそ彼らと決着を付けると、決心したではありませんか。」
ワーグナーツインズが即座に同調する。
「「そうですわ。ここで因縁を断ち切りましょう。」」
エミールも拳を強く握る。
「ここで彼らを討てば、もうコロンゴに侵攻余力はなくなる。」
しかし、ベルントは顔色が良くない。
「……風は向こうに吹いてる……」
ギデオンはベルントの背中を叩く。
「それでも、俺達は退く訳にはいかないだろ。」
ミハエルは気を取り直す。
「ギデオンの言う通りだ。
いかな敵だろうと、敵は領土侵犯している。
必ず彼らを追い返さねばならん。
(キース・ウォレン……君は何を望むのだ……?)
シュヴァルツアドラー隊、出撃する!」
「「了解!!」」
新たな力を手にしたホワイトファング。
それを迎え撃つシュヴァルツアドラー。
カリビア山脈が見据える地で、両者は再び激突する。
新たな剣の真価が試される。




