第102話「水中型ACEの本領」
ーー空母ガロア・艦橋。
ファビアン・レド准将は立ち上がって高笑いする。
「ははははは!
かかったな、ネルソン!」
そして、即座に指示を飛ばす。
「ライプニッツ、チューリング、<サーペント>出撃!
狙うは敵潜水艦エイムズ!
トライデントなどに目をくれるなよ!」
ライプニッツ、チューリングから一機ずつACEが射出された。
ーーしかし、それは一機と言えるのだろうか?
その姿はサハギン三機を縦に繋げた、異様な容姿なのだ。
これは、先の戦闘でミリィによって首だけ落とされたサハギンを改修したモノだ。
三機のACE合体は単純に性能の三倍とは行かないが、二倍は十分にある。
レドの機転で作られた現地改修ACEは、彼の切り札に変身していた。
その高速機は当然トライデントでは捉える事は出来ない。
「な、なんだ?!」
「速い!」
「迎撃不能!」
「逃げろエイムズ!」
エイムズのトライデントは成す術なく、叫ぶのみだった。
まして潜水艦の装備では……
「敵二機接近!」
「魚雷、間に合いません!」
速度を誇るサーペントは、動きが大味ではある。
しかし、潜水艦のような大物が標的ならば、何の問題も無かった。
「全魚雷一斉射!」
二機のサーペントから小型魚雷が一斉に放たれる。
その数は五十を優に超えた。
全弾命中せずとも、エイムズに致命傷を負わす事は容易だった。
「第一隔壁浸水!」
「機関区に火災!」
「内圧上昇……!」
エイムズはそのまま圧壊しながら海底に沈んでいった…
一連の流れに、ジャスティン・ネルソン中将たちは言葉を失う。
ーーだが、悲劇はまだ続く。
サーペントは踵を返し、今度はターゲットをテイト、ヨークに向ける。
「機雷だ!機雷全弾散布!」
艦長が叫ぶ。
「しかし、水中ではトライデントが戦闘中です!」
「かまわん!アレの接近は阻止するんだ!」
二隻の駆逐艦から、ありったけの機雷がばら撒かれる。
戦闘中のトライデントは驚く。
「機雷が!」
「こっちは戦闘中なんーーーーガーーーーーープツン。」
一機のトライデントが犠牲になった。
それを機に、予め距離を取っていたサハギン隊は勢いづく。
「これで数は圧倒的だ!」
「機雷に警戒しつつ、確実にトライデントを葬る。」
「その後で……大物狩りだ!!」
やはりACEの性能は、パイロットの気迫が影響する。
サーペントに機雷とで混乱したトライデントが、驍騰の勢いのサハギンに勝てるはずも無く…
トライデント全滅に3分も要しなかった。
勢いそのままにサハギン隊はテイト、ヨークの艦底に魚雷を発射する。
「右舷艦艇より浸水!」
「ダメコン急げ!浸水拡大している!」
「機関出力半減!速力維持できません!」
「電源不安定!兵装が使えません!」
「くそ…このままじゃ沈むぞ!」
「ダメだ!退艦!退艦!タイカン!」
艦内の混乱と共にテイト、ヨークも爆炎を上げながら沈んでいった。
ーーガロア・艦橋。
レドは笑いが止まらない。
「ふっははははは!
どうだ老害ネルソン!
時代はACEなんだ。
ACEを制した者が勝者となる。」
高揚するレドを、メルシェが沈める。
「提督、まだ戦闘中です。」
エレーヌ・メルシェ。ーー彼女はルニエの時よりレドの右腕として動いていた。
レドは有能な知将であるが、時として感情の起伏がある。
それを支えるのが彼女であった。
レドは落ち着きを取り戻す。
「そうだな。
全艦一旦下がる。
これだけ打撃を与えたのだ。
もはや揚陸どころではあるまい。」
レドの冷静な判断は確かである。
この勢いそのままに第七艦隊殲滅を計る事も無きにしも非ずだがーー
第七艦隊には高速戦艦、空母、イージス艦二隻、潜水艦二隻が現存する。
サーペントで混乱させたとて、自軍への損害も多大なものとなろう…
現にサーペントは、やはり突貫工事ACEであった。
母艦フリントを討たれたトライデント達は、怒りを力に変え九対一でサーペントと対峙する。
「高速機だからってなぁ!」
「数で抑えるんだ!」
「継ぎ目を狙え!」
数に圧されれば、その機動性も失われる。
そうなっては、もはや継ぎはぎACE。
接続部を引き剥がされたサーペントの一機は跡形もなく散った。
ーー戦艦サーエヴァンス・艦橋。
ネルソン中将は愕然としていた。
その穴埋めをパトリック・ハリス大佐が行った。
「敵艦隊は後退している。
我々もこの間に立て直す!
アルテミス、トライデントは救助作業を!
コーディ、ヴェイルは引き続き警戒態勢を取れ!」
パトリック・ハリス。ーーネルソンの影で目立たない彼。
しかし、その実はネルソンの補佐役であり、良き相談役である。
第七艦隊の大半の運用は彼によって行われおり、言わば第七艦隊の屋台骨だ。
ハリスはネルソンの肩を支える。
「提督、損害はありましたが、敵艦隊はこれ以上の攻勢には出ないでしょう。
今は立て直しが肝心です。」
しかし、ネルソンの肩は小さいままだった。
「ACEの運用。
この戦争ではACEが戦況を制する。
レドの”ウミヘビ”に対応出来なかった、私の落ち度だ。
私はもう、時代に置いて行かれたのかも知れん。」
ネルソンを支えるハリスの手が、力強くなる。
「しっかりして下さい、提督!
第七艦隊はネルソン艦隊ーー貴方無くして成り立ちません!」
ハリスの目を見て、ネルソンは立ち上がる。
「艦隊の再編は済んでいるな。」
ハリスはモニターに映る艦隊状況を見せる。
「敵艦隊後退の隙に、密集体形を。
コーディ・ヴェイルには引き続き索敵を行わせています。」
ネルソンはハリスの肩を軽く叩く。
「さすがだな。私が降りても安心だ。」
ハリスは慌てて言い返す。
「ですから!弱気にならないで下さい。」
横から冗談気味に通信士が言う。
「ハリス大佐なら第七艦隊は安泰ですよ。」
ハリスは怒りを露する。
「お前なぁ。いい加減にしろ!」
しかし、ネルソンは首を振る。
「これだけの大敗だ。
上層部が私の処分をどうするか……
その時は君を推薦する。
第七艦隊を守ってくれ。」
ハリスの肩に両手をかけるネルソンの力は強かった。
「提督……」
ハリスも彼の意思を尊重する。
「さて、最後の仕事かもしれん。
モリス少将へ通信開け。」
モニターにジェイソン・モリス少将が映る。その表情は浮かない。
『提督……』
ネルソンは気を取り直し言う。
「ハリス大佐から報告を受けていると思うが…
我が艦隊は、駆逐艦テイト、ヨーク、並びに潜水艦フリントを失った。
残念ながら、これ以上の作戦続行は不可能。
しかし、敵第八艦隊が地上部隊の障害となる事はなんとしても阻む。
……以上、貴官ら地上部隊の検討を祈る。」
モリスは慰めの言葉もせず、ただ固く敬礼するのみだった。
老練の将にとって慰めは、むしろ屈辱だったからだ。
ーー一方空母ガロア・艦橋。
自慢気にレドがディートリッヒ・クラウセン少将へ戦果報告をする。
「ーー以上、敵駆逐艦二隻、潜水艦一隻の撃沈に成功。
対して、我が艦隊の損害はサーペント一機、サハギン二機。」
クラウセンが小声でマクシミリアン・シュヴァイツァーに言う。
「貴官が相手しろ。」
シュヴァイツァーJr.は張り切ってレドを称賛する。
『提督の采配、お見事でした。
特に損傷したサハギンを改修して切り札とするなど…
勉強になります。』
レドは気分良く返す。
「あるモノを最大限活用する。
戦略家たる者、常に与えられたカードで最大限の効果を模索せねばならん。
クラウセン少将も、そう思いましょう?」
クラウセンは一言だけ述べる。
『敵には最大の損害、味方には最小の損害。』
レドは舌打ちしながらも続ける。
「左様ですな。
では、引き続き第七艦隊は抑えておきますので、どうぞご安心を。」
通信は切れる。
レドは眉をひそめる。
「クラウセン。噂には聞いていたが、本当に表に出さない人間だな。」
メルシェがフォローする。
「しかし、第七艦隊に大打撃を与えたのは間違いありません。」
レドは薄ら笑う。
「これでクラーケンの受領も近づいたな。
その時こそ、第七艦隊の命運が尽きる時だ。」
フリとはいえ、第七艦隊による揚陸作戦は失敗に終わった。
それどころか、多大な損害を被る結果となった。
部隊は地上へ戻るが、コロンゴ戦線は苦戦を強いられ続ける。
この状況を、ホワイトファングは打開できるのか――




