第101話「海の知略戦」
ーー空母ガロア・艦橋。
目前には第七艦隊が揚陸せんと隙を狙っている。
しかし、ファビアン・レド准将は焦らない。
レドは椅子に深く座り、静かな口調で指揮する。
「ガロアを中心に、巡洋艦アーベルを左、右をカントールに。
イージス艦フェルマー、ガリウスはその前に。
ポアンカレ、チューリは前進。対潜警戒を強化。
チューリング、ライプニッツは敵進路に潜め。」
参謀のエレーヌ・メルシェ中佐が問う。
「それで、展開地点は?」
レドはスッと指さす。
しかし、そのポイントは第七艦隊揚陸予想位置より後退している。
メルシェは焦り確認する。
「それでは、みすみす敵の揚陸を許す事になりますが……」
レドは不敵に笑う。
「教科書通りであれば、上陸ポイントの蓋をする。
が、敢えて敵を誘う。
揚陸を開始した瞬間、叩く。」
メルシェは感嘆する。
「なるほど!
のこのこやって来た敵艦隊を、潜水艦と洋上艦隊で挟撃するのですね!」
レドは頷く。
(定石ではネルソンは倒せん。
だが、この策は誘い……どこまでネルソンに通用するか。
…見ものだな。)
レドは前方の第七艦隊に目を向ける。
その目には、獲物を見据えるかの眼光が光っていた。
ーー戦艦サーエヴァンス・艦橋。
敵艦隊の展開を見てジャスティン・ネルソン中将は驚く。
「艦隊を下げた……?」
参謀のパトリック・ハリス大佐は即座に回答した。
「明らかに誘いですね。」
ネルソンも頷く。
「ルニエはヨルムンガンドと共に沈んだんだったな。
後任は中々の戦術家と言う事だ。」
ハリスは尋ねる。
「では、我々はどう返しましょう?」
ネルソンは熟考する。
ネルソンには時間がある。
この作戦はフリなのだ。本隊が満を持し動かないとも錯覚させれる。
ネルソンが口を開く。
「やはり潜水艦だな。
進行ルート上にいると見て間違いなかろう。」
ハリスは答える。
「ではこちらも誘いをかけますか。」
ネルソンは頷く。
「うむ。
駆逐艦<テイト>、<ヨーク>を先行させよ。
潜水艦コーディ、ヴェイル、エイムズは索敵行動開始。」
ハリスは追加する。
「アルテミスで偵察も行いましょう。」
ネルソンは快く頷く。
「そうだな。
アルテミス偵察隊を飛ばせ。
敵の動向を観察する。」
ーー空母ガロア・艦橋。
テイト、ヨークが先行する状況を見て、レドはため息をつく。
「……やはり乗ってこないか。
だが問題ない。想定通りだ。」
メルシェは頷き、指示を出す。
「艦隊は現配置を維持。」
レドはアルテミスに目を向ける。
「ああ言うカモメは後々厄介だ。
迎撃隊を発進。敵偵察機を近づけるな。」
メルシェが報告する。
「敵艦、間もなく潜水艦の射程です。」
レドはメルシェに対して、手で制す。
「チューリング、ライプニッツは待機。まだ動くな。」
アルテミス偵察隊はテイト、ヨークに先行する形で飛行している。
しかし、レーダーに敵機が映る。
「会敵!数四!」
ネルソンは慌てず言う。
『即時撤退。
あとはテイト、ヨークに任せればいい。』
ネルソンの指示通り、アルテミスは撤退。
追撃するグリフォンには、駆逐艦二隻から対空ミサイルが一斉発射された。
結果、グリフォンもアルテミス偵察阻止を完遂し撤退する。
ここまでは両軍、想定通りだ。
ーーここから、海の知略戦は急展開する。ーー
それは、テイト観測士の一声から始まる。
「ソナー反応!方位一九〇!」
テイト艦長が立ち上がる。
「確証は?」
観測士は首を振る。
「不明……海流かも。」
テイト艦長はネルソンに問う。
「ソナーに感あり。
いかがしましょう?」
ーーサーエヴァンス・艦橋。
「テイト、ヨークの現在地は?」
「揚陸予定ポイントより三十キロです。」
ネルソンの問いに、海図を凝視していたハリスが即答する。
(仕掛けているならココか?!)
ネルソンは目を見開き声を張る。
「テイト、ヨークはトライデントを展開せよ!」
テイト、ヨーク艦長が頷く。
『了解!テイト、ヨーク、トライデント展開!』
駆逐艦の艦底には各艦に三機、計六機のトライデントが張り付いていたのだ。
号令と同時に、六機のトライデントが深海へ滑り出した。
トライデントの存在は当然ライプニッツ、チューリングに見つかっていた。
「敵ACE!……数六!」
「奴らめ、艦底にACEを張り付けていたのか!」
観測士の急報に、ライプニッツ艦長が慌てる。
チューリング艦長はレドに即報する。
ーー空母ガロア・艦橋。
『敵ACE展開。数六。』
チューリング艦長からの報告はレドを少し動揺させた。
「奴らめ。クラーケンで艦底にACEを張り付ける事を学習したか。」
メルシェは即時対応しようとする。
「チューリング、ライプニッツはサハギンを展開。迎撃をーーー」
「待て。」
レドは逸るメルシェを制止す。
「しかし、敵に捕まるのは時間の問題では?」
メルシェの反論に、レドは首を振る。
「まだ二艦とも察知されていない。
浮足立っているライプニッツに動いてもらえ。」
メルシェは頷く。
「ライプニッツ、サハギン一個中隊を展開せよ。
敵ACEを殲滅するのだ!」
探索を行うトライデントに九機のサハギンが迫る。
「敵機補足!」
「敵はばらけている。コンビネーションで叩くぞ!」
六機のトライデントは敵潜水艦探索の為、各個に行動していた。
しかしーー
「サハギン接近!フォーメーションαだ!」
三機のトライデントは瞬時に一個小隊となる。
三機が互いの背を守る三角陣形を取るトライデントを見て、サハギンパイロットは狼狽える。
「こ、こいつらもうフォーメーションを?!」
「くそ、こっちも小隊を組むぞ!」
静寂だった海は――潜水艦戦から、ACE同士の戦場へと一変した。
ーー空母ガロア・艦橋。
メルシェはやや焦り気味で指示する。
「ライプニッツは一旦後退。
サハギン隊は数の利を活かして、さっさとトライデントを殲滅せよ。」
しかしレドはまだ余裕の表情であった。
「駆逐艦をそのまま潜水艦キラーとして運用か……
まぁ、確かに上策だ。
しかし時代はACE戦。
このまま二隻は頂くぞ。」
レドは口角を上げ不敵に笑った。
ーー戦艦サーエヴァンス・艦橋。
ネルソンは戦闘水域に最も近いエイムズに指示を出す。
「トライデント一個中隊射出。
テイト、ヨークの孤立を防ぐのだ。」
九機のトライデントがテイト、ヨークの救援に急速で迫る。
しかし、後退するライプニッツにより、エイムズの位置は知れる所となる。
海中ではACEが交錯し、
その背後では潜水艦が静かに間合いを詰める。
海の知略戦は、いよいよ本番を迎えようとしていた。




