第99話「大隊の責務」
――ケアン基地。
空は晴れ渡っていた。
整列するホワイトファング隊。その前に、ジェイソン・モリス少将とジャスティン・ネルソン中将が立つ。
背後には噂を聞きつけた基地隊員たちが集まっていた。
ネルソンが口を開く。
「諸君。再びのミドガルズオルム級撃沈、見事だった。
諸君らのおかげで、第七艦隊は再びこの地を踏む事ができた。」
そして、声を張り上げる。
「諸君の功績により、ホワイトファング隊全員を一階級昇進とする。
……これで君も佐官だな。」
キースは敬礼をする。
「は!ありがとうございます。」
その横でボンドが小さく鼻を鳴らす。
「……ふん。どうせ俺はお飾りだ。昇進など縁なしか。」
モリスは苦笑しつつ続けた。
「そこで――これよりホワイトファングは"独立機動大隊"として再編する。」
”大隊”と聞いてホワイトファングメンバーは驚く。
「大隊って…」
ユアンは相変わらず不安が先行する。
「そりゃ今まで以上に自由って事か?」
ビルは期待の方が大きい。
「また責任が重くなるね。」
ミリィは真剣な面持ちでキースを見る。
キースは静かに答えた。
「大丈夫だ。
これまでだって、俺たちは独立部隊としてやってきた。」
(責任は権限も伴う……もっと自分がやりやすくなる。)
キースの自信ある態度に、モリスは満足そうに頷いた。
「ブリングストン大将からも、直々に達しが来ている。
これまで以上に、君たちの奮戦に期待する」
ホワイトファング一同は強く敬礼をする。
「「は!」」
ーールーティア基地・格納庫。
増援のACE達は異質なモノだった。
ナイトメアでも、もちろんガルムでもない。新型だった。
ロメロがタブレット手に呟く。
「…<キマイラ>。
名前の通り、アスカロンの様な多様性を持たせた機体か。」
ワーグナーツインズが覗き見る。
「けれどガルムには及びませんわね。」
「劣化版ガルムと言った所ですわ。」
エミールは首を振る。
「それでもアスカロンは越えてる。
使う人間によっては化けますよ、コレは。」
「嫌な臭いがするっスね。コイツ。」
ベルントは怪訝な顔をしている。
「また、分かりにくい言い方して……
要するに、不気味って事な?」
ギデオンが付け足す。
ミハエルとマルティンとレティシアが話しながら入ってい来る。
「あの二人見てると、カルドーネ閣下が可愛く見えてきますね。」
「感情が全く無いって言うの……不気味な奴だね。」
「おまけにシュヴァイツァーJr.が付いてる……困ったものだ。」
ミハエルはキマイラを見て呟く。
「この機体にはシェザール閣下は一切関与していないらしい。」
その一言に一同が驚く。
ミハエルは続ける。
「これだけの機体……開発局が一切関わらず作れるだろうか。
しかも、もうこの数だ……」
「それは貴官らが知る必要はない。」
言葉の端々から敵意を感じる……マクシミリアン・シュヴァイツァーだ。
「その機体は、アスカロンと対峙した時点で構想されていた。
しかし、シェザール少将は当時ガルムの開発で躍起になっていただろ。」
マルティンが思わず言い返す。
「閣下は技術開発総局の局長ですよ。
その閣下が知り得ない開発などあるのですか?」
シュヴァイツァーJr.は笑って言う。
「っふ。ならば、そのシェザール少将に直接伺ったらいい。」
吐き捨てるようにシュヴァイツァーJr.は去って行った。
ミハエルは俯く。
「確かに閣下に伺うのが早いか。」
ーー通信室。
シェザールに繋げるミハエル。
モニターに映るシェザールの表情は暗い。
「閣下……いかがなさいました?」
ミハエルは思わず心配する。
『……キマイラを見て繋げて来たな。』
ミハエルは頷く。
「閣下の知らぬ所でとは…納得がいきません。」
シェザールに首を振る。
『正確に言えば、関知はしていた。
だが、反対したのだ。
「いたずらに開発競争を激化すればそれだけ戦争も激化する。」と。
だが、国防省から直接圧力が掛かった。』
ミハエルは言葉を無くす。
「閣下……」
シェザールは暗いまま続ける。
『最早、私はお飾り局長だ。
聞けばヴァルターも立場が危ういらしい。」
ミハエルは驚く。
「ヴァルター将軍までも……」
シェザールは最後に瞳に僅かな光を灯す。
『だが、君たちのバックアップは続ける。
君も、この戦争激化に飲み込まれぬようにな。』
ミハエルは敬礼をする。
「は!閣下も。」
「何をしている?」
気配も殺して忍び寄る影に、ミハエルはハッと構える。
ディートリッヒ・クラウセン少将だった。
「貴官、未だにシェザール少将の部下気取りか?
貴官は今、シュバイツァー閣下…ひいては私の麾下にいる。
余計な行動は控える様に。」
必要な事だけ言い残し、クラウセンはツカツカと去る。
(気配が無い……。
気付いた時には、もう首を絞められているような感覚だ……)
ミハエルはシェザールの喪失感に失意する。
そして、クラウセンを初め強硬派が、表に出始めている事に戦慄した。
ーーケアン基地・ブリーフィングルーム。
モリスとネルソンが前に立っている。
その後ろのスクリーンには北海からヴァレン峠までに至る地図が表示されている。
モリスが拳を握る。
「諸君。我々は過酷な防衛線を経て、更にミドガルズオルム級二番艦を沈めた。
そう、今!風は我が軍に吹いている。」
「「おぉー!」」
士官たちがモリスの突きあげた拳に呼応する。
モリスは勢いのまま続ける。
「今が再攻略の刻だ!
これより、第二次カリビア市解放作戦の詳細を説明する。」
スクリーンの地図からは北海、カリビア山脈、ヴァレン峠の三ルートが矢印で表示される。
「先の敵作戦の二番煎じと言えばそうなる。
が、敵がカリビア山脈を本命としていた点に対して……
我々は敢えてヴァレン峠を本体とする!」
スクリーンの地図の矢印がヴァレンルートだけ大きくなる。
一同は息を飲む。
ネルソンが続く。
「三方向侵攻と言っても敢えてタイミングをズラす。
先ず、北海だ。
第七艦隊より一個大隊を上陸させる。」
士官の一人が手を上げる。
「しかし、敵第八艦隊が黙って許すでしょうか?」
ネルソンは頷く。
「うむ。
だからこそ、揚陸の”フリ”をする。」
士官は首を傾げる。
「第七艦隊はある種囮だ。
もちろん隙あらば揚陸もやる。
が、第一目的は、敵第八艦隊および地上軍北部部隊の注目を引く事にある。」
モリスが交代する。
「そしてカリビア山脈越境だ。
先の作戦では苦い経験をした。
が、敢えてそれをまた敢行する。」
場がざわめく。
「それではまた失敗するようなものでは…?」
「あの越境をまた……」
モリスはざわつく一同を、机を叩いて黙らせる。
「諸君らの懸念は重々承知している。
だが、これもまた”フリ”だ。
敵に情報を流しながら、越境は試みるのは一個大隊のみ。
空からの侵入を完全阻止し、ゆっくり着実に越境する。
これによって、ここでも敵の目を引き付ける。」
一人の士官が膝を討つ。
「なるほど!
三ルート全て本命に見せかけて、ヴァレンルートに大部隊を送る訳ですね。」
モリスは強く頷く。
「しかし、ヴァレン峠は隘路です。
大部隊を進軍させるには向かないのでは?」
士官の一人が不安気に発言する。
対して、モリスはホワイトファングに視線を映す。
「そこで、ホワイトファング大隊の出番だ。」
指名され、キースは背筋を正す。
「最後に俺たちホワイトファング隊が先頭に、ヴァレン峠を突っ切る。と?」
モリスは強く頷く。
「そうだ。君たちは文字通り、少数精鋭の機動大隊だ。
しかも、新型のエクスカリバーはローラーダッシュの高機動機だ。
君たちが先行し、ヴァレン峠を駆け抜け、敵領土で暴れる。
混乱する敵に対し、我々は次々とヴァレン峠から増援を送る。
こうして、ヴァレン峠に蓋をする形でカリビア市への橋頭保を建てる。」
ユアンが手を上げる。
「ヴァレン峠はルーティア基地のみならず、ガンドラ基地にも目を付けらます。
橋頭保の位置としては危険なのでは?」
モリスは明るい顔で対応する。
「その点は……テイラー准将。」
スクリーンにテイラーが映る。
『現在、我が軍はタロン渓谷でヴァルター将軍と小競り合いを続けています。
しかし、今回の作戦に乗じて本格侵攻を行う……”フリ”をするんです。』
”フリ”と言う言葉が続いて、レイが思わず笑う。
「フリフリフリって……全部芝居ですかぁ?」
釣られて皆も笑う。
モリスも苦笑する。
「そう。確かに殆どが”芝居”だ。
しかし、緊張状態の中での”芝居”はリアリティがある。
そのリアリティを現実化するのが君たちホワイトファングだ。
……結局、君たちに丸投げのような形で恐縮だが。」
キースは大きく首を振る。
「いえ、将軍。
それがホワイトファングの責務だと存じています。
この作戦――必ず成功させます!」
モリスはキースの決意を感じ、最後の言葉を落とす。
「うむ。本作戦の成否が、今後の戦況を左右するだろう。
なんとしてもカリビア市への橋頭保ーー築くぞ!」
「「は!」」
ブリーフィングルームの空気が一つにまとまる中、キースは思う。
(ファフナーなら、本命を見抜くはずだ。
もう一度、俺の想いを受け取ってくれよ。)
再び始まるカリビア市解放作戦。
キースは、もう一つの想いを胸に戦場へ向かう――




