第4話:暇だったんで、完成させました
作業開始だ!!
月明かりだけを頼りに、俺は一人で動き始めた。
十人がかりで動かすような超巨大な要石を両手で抱え上げ、ズシン、ズシンと寸分の狂いもなく土台に配置していく。
石と石を繋ぐ特殊なセメント(接合用魔導モルタル)の練り込みも、大きな木樽に材料をぶち込み、丸太のような棒でかき混ぜる。
カカン! カン!
石を削り、形を整える作業も、自分の拳や手刀で少し力を加えるだけで綺麗にハマる形へと削り取ることができた。
(お、この角度だとぴったり収まるぞ)
(ここは補強のために、もう一枚石を噛ませておこう)
夢中になって作業を続けていると、時間が経つのも忘れてしまった。
俺にとって、この作業は運動ですらなかった。
単なる積み木遊びのような感覚。
夜風が心地よく吹き抜ける中、黙々と作業を繰り返す。
東の空が白み始め、うっすらと朝焼けの光が地平線を染め始めた頃――。
「ふう、こんなもんかな」
俺は額の汗(を拭うフリ)をして、完成した壁を見上げた。
そこには、昨日まで広大な崩落現場だったはずの場所に、寸分の狂いもなく隙間なく組み上げられた、完璧で堅牢な高層外壁がそびえ立っていた。
元々の壁よりも遥かに頑丈で、美しい仕上がりできたつもりだ。
「よし、少し休憩するか」
俺は完成した壁の麓に腰掛け、朝日を浴びながらのんびりとあくび(のフリ)をした。
しばらくすると、遠くから足音が聞こえてきた。
親方を先頭に、あくびをしながら現場へと向かってくる作業員たちだ。
「よーし野郎共! 今日もバリバリ働くぞ――って……」
親方の足が、ピタリと止まった。
後ろに続いていた作業員たちも、次々と足を止め、目を見開いたまま石のように硬直した。
彼らの視線の先には、昨日まで瓦礫の山だった場所に、完璧な姿で佇む巨大な外壁。
「……あ?」
親方の口から、間抜けた声が漏れた。
親方は自分の目を擦り、何度も何度も見直し、おそるおそる壁に近づいて手で触れた。
「な……なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁっ!?!?!?ここには、昨日までは壁なんかなかったぞ??」
現場に親方の絶叫がこだました。
「か、完成してる……!? いや、完成どころじゃねえ! なんだこの完璧な石組みは!? 職人歴五十年のおれでもこんな綺麗な仕事見たことねえぞ!!」
「親方! 魔法使いの集団が夜中にやってきて作業していったんじゃないですか!?」
「いや、高度な土木魔法を使っても、一晩でここまでの規模を組み上げるなんて不可能だ!」
現場は大パニックに陥っていた。
俺は腰を上げ、呑気に親方に近づいて声をかけた。
「あ、親方。おはようございます」
「イ、イリス!? お前、いつからそこに……いや、それよりこの壁を見ろ! 一体何が起きたんだ!?」
「何って……昨日、皆さんが帰った後、ヒマだったので一人で進めておいたんです。一ヶ月かかるって言っていたから、手伝いになればと思って」
「…………………………は?」
親方は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔で俺を見た。
「お、お前……一人で……一晩で……これ全部やったのか……?」
「はい。石を積んで、モルタルを塗って、形を整えただけですよ?」
「……………………信じられん」
親方は膝から崩れ落ち、天を仰いだ。
「人間じゃねえ……こいつは人間じゃねえぞ……!!」
「え? 手伝っただけなのに、街の人は驚きやすいですね」
俺は心底不思議そうに首をかしげた。
こうして、俺の「一夜完工」の噂は、瞬く間に冒険者ギルド、そしてなんかやばい土木作業員がいると、都市ルグランの幹部たちの耳へと届くことになったのだった。
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