第1話:記憶を失った
♢♢♢♢ 魔法大戦から2000年後
「……ここは?」
自分の声が、暗闇の中にさみしく響いた。
冷たく固い床の上で、俺はゆっくりとまぶたを開けた。
視界に映ったのは、天井や床を覆うように無数に走る亀裂と、
その隙間から這い出ている青々とした苔や蔓。
長年放置されたであろう機材、ガラスなどが散乱していた。
――そこで俺は首を傾げた。
「……何をしていたんだ?」
自分が何者であったのか記憶がない。
ひとつ思い出せることは、自分の名前がイリスということ。
「誰かいないのか!?」
――シーン
返事はなかった。
何分間か悩んだ末――
とりあえず、俺はこの不気味な施設を探索することにした。
歩き続けて1時間――
このよくわからない施設には出口という物がないのか?
迷路になっていて、外に出してくれそうにない。
まるで迷宮だ。
「このままじゃ、ラチがあかないな」
今の気持ちを、壁に拳を思いっきり打ち付けると……
――バンッバキバキ
(お!簡単に壊れるじゃん)
壁は意外にも脆く、障害という障害を破壊し、進み続けた。
ドンドンドンドン――
ジャリ……うん?
壁を壊しながら進んでいくと、やっとのことで土に手が当たった。
「お?!」
手で土を掻き分け、全力で掘り進めていく。
ジャリジャリ
(なんだよ、全然地上に出ないな)
何百メートル掘り進めたか分からないが、
やっと土が柔らかくなってきて、
一つの陽の光が俺を照らした。
――ようやく地上に着いた。
俺が目を覚ました場所は、地中深くに埋まっていたみたいだ。
森を見渡せるほどの山の上にあった。
それにしても、下が霞んで見えないぐらいの標高だ……
さてさて、
この後どうするかと考えていると、
森の奥にうごめく黒い巨大な生物がいた。
とりあえず、降りて何がいるのか確かめてみるか。
俺は助走をつけ、山の頂上から飛び降りた。
その勢いはすさまじく、音速を超える。
「ぐぅっぅぅ」
(飛び降りたのはいいけど、風圧で胸が締め付けられて息ができなぃ)
目を開けるのもやっとだ。
ブレーキとかも何も考えていなかった。
……このままだとまずい!
さっきの黒い生き物が、見る見る近づいていく。
「やばいやばい……!!!ぶつかる」
――ボヨン
意外にも、黒い大きな生物がクッションになってくれてよかった。
――ドンッ
俺は大丈夫だったが、巨大な生物は大丈夫ではなかったようだ。
ドンッ、と大きな音を立て、倒れたまま動かない。
見たことない生物には、申し訳ないことをしたが、助かった。
胸の中だけで感謝していると、怪物の横には女性が立ち尽くしていた。
「驚かせてすまない」
なんだか気まずい状況に、すぐに立ち去ろうとすると。
『あの!助けてくれてありがとうございます!!』
彼女が何を言っているのかよくわからないが、
俺は人助けをしたみたいだ。
それならよかった……
「動きが早すぎて見えなかったのですが、どこからやってきたんですか?」
彼女の言葉に、自分が飛んできた山を指差す。
「そんな冗談をいわないでください」
(いや、本当にそこから飛んできたんだけどな……)
その流れで話をしていくと、彼女の質問攻めが続いた。
というよりかは、俺が話さないから気を使っているのだろう。
話をしていくと、彼女はエレナと名乗った。
この近くの村へ住み、
今日は山へ薬草取りに来たところ、
魔物に襲われたということだ。
「イリスは、どうしてこんな辺鄙な場所へ来たの?」
「それが記憶にないんだ。自分が何者なのか、何をしていたのか」
エレナは真剣な眼差しで、話を聞いてくれた。
「もしよければ、村に来て!父も母も喜んでくれるわ!!」
「いいのか?それは助かる」
そこから、俺は近くの村まで歩いて向かうことになった。
エレナは本当に楽しそうに会話をする。
そんな彼女に俺は見入っていた。
♢☆♢ 村
エレナの家は、こじんまりとした農家の家だった。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
「お帰りエレナ、おや? その方は……?」
畑を耕している、エレナの両親に出会った。
『命の恩人なの!さきっね、こんなことがあって』
エレナはとても興奮した面持ちで、さっきまでの出来事を淡々と話す。
「イリスは、本当にかっこよかったんだよ!!
雷の閃光のように飛んできたと思ったら、一瞬で怪物を倒しちゃったの。それでね……」
(本当によくしゃべる子だ……)
太陽の陽に笑い喋るエリスに、周囲までが笑顔になった。
「イリスさん!うちのエレナを助けてくれてありがとう。
本当になんてお礼申し上げれば。私はエレナの父、ギルバード・グレイン」
『母のセリシアでーす!きゃああああ、うちのエレナを救ってくれてありがとう』
ギルバードは静かな人だけど、身体はとても鍛え抜かれていた。
昔は、冒険者をしていたみたいだ。
一方セリシアさんというと、すごく元気な人。
俺に会うなりすごい力で抱きしめてきた。
「自分が着地したところに、たまたま魔物がいただけです。」
グレイン家はとても優しかった。
俺が記憶ないのを知るや否や、気が済むまで住ませてくれると言ってくれた。
「うぅぅぅぅぅ。辛かったね」
「そうかそうか。あまり広くないが、俺たちのことを家族と思って暮らしてくれ」
さすがに住まわせてもらうのだから、必死に家のお手伝いをする条件付きで。
♢♢夕飯
『みなさん!ご飯ですよー!!』
夕飯はシチューにパン、シチューの中には収穫したばかりのジャガイモが沢山入っている。
『いただきまーす!!』
アツアツのジャガイモは、口の中に入れると同時に、とろける。
そして、搾りたてのミルクが、濃厚でこれもまたたまらない。
満足した気持ちで、夕飯を食べ終わった俺は、藁で作られたベッドの中で考える。
自分の親はどういう人なんだろうか。
一度でもいいから会ってみたい……
ギギギィィッーー
『誰だ!!』
暗い部屋の中に、誰かが立ち入ろうとする音が響く。
『ごめん!イリス起こしちゃった?』
「いや大丈夫だが、エレナどうかしたのか?」
「魔物に襲われた時のことを思い出しちゃって」
「眠れないということか?」
エレナは質問に対し、静かに頷くだけだった。
俺はそっとベッドの上に手を置き、彼女にこっちに来るように合図する。
自分が今できることは、話を聞いてあげるぐらいだと思ったから。
彼女はそっと座ると、口を開いて楽しかったことや、思い出を話してくれた。
「あの時は本当に怖かった……だよ……ね」
エレナは話し疲れたのか、安心したのかわからないが、目を閉じて眠ってしまった。
しかし、俺はというものの一向に眠気が来ない。
もしかしたら、意識を失っていた分、貯金(寝だめ)があるのかな?
「はぁ~、おはようイリス。あれ、イリス?」
モォォォォォゥゥ!!
「イリス!何をしているの!?」
「お!エレナおはよう!牛の乳しぼりを……」
「そんな強くやったらだめぇーー!!」
やはり、力の制御というのが難しい、みんなどうやっているのだろうか。
俺はエレナの家に来てからものの、力の制御に困っていた。
畑の耕しの際は……
「イリスさん、この鍬を持って土を耕すんですよ」
「わかりました、セリシアさん!」
ジャリ――
バキン
鍬の持ち手を破壊し、地面を一振りで1メートルほど吹き飛ばしてしまった。
ガーン
「イリス、そんなに落ち込まないで。最初はだれでも失敗はありますから」
「すみません」
「じゃ、じゃあ、料理を手伝ってもらいましょうかしら!」
「わかりました」
畑の耕しはではなく、料理を手伝うことになった。
「まず、そこの玉ねぎを細切れにしてもらおうかな」
「はい」
カンカンカンカンカンカン
『ちょっと、イリス! スト―――――――――プ!!』
玉ねぎと一緒に、まな板まで木っ端みじん。
(また失敗してしまった。はぁ~)
なんでここまでダメなのだろうか。
このままでは、迷惑ばかりかけてしまう。
「イリス!一緒に狩りへ行くのを手伝ってくれないか?」
「わかりました、ギルバードさん」
俺は胸の中にある不安を抱えながら、ギルバードと狩りに出かけることになった。
♢♢ 狩り
「いたいた、あれが角ウサギだ。今晩のおかず」
ギルバードはそういうと、音もたてずに弓矢を勢いよく構える。
弓矢の糸をギギギと音を立てながら引き、
シュッパン――
すごい速さで放たれた。
矢は見事に角ウサギの右足を捉える。
「よっしゃ!イリスもやってみるか?」
「はい!!」
俺もみんなの役に立ちたい。
(お!あそこに角ウサギがいる)
まず、息を殺して、ゆっくり狙いを定めて。
引く!!
弓矢に力を注ぐと、持ち手部分から粉々に壊れてしまった。
バキバキ――
「またやってしまった」
ギルバードは、弓矢はもともと古かったのだろうと慰めてくれたが、そんなはずない。
弓矢も壊れてしまって、角ウサギを一匹持って、今日は狩りを終えることにした。
(クソッ、何をやっても足を引っ張てしまう)
俺はすぐそばに落ちている小石を拾い、思いっきり投げた。
シュッン――
その石はすごい速度で飛んでいき、
風圧でドシドシと木を吹き飛ばしていく。
『大丈夫か!!イリス』
ギルバードもあまりの出来事に、何が起こったのか理解をしていなかった。
石は山をも貫通し、見えなくなるほど飛んでいき、地面までも削っていった。
「ピィッ――――――――!!」
「モォッ――――――――!!」
石の風圧で多くの動物が吹き飛ばされ、倒れている。
(こうすればよかったのか!!)
「ギルバードさん、沢山動物を狩ることができました!!」
「そ、そうか。それならよかった……」
ギルバードは呆然としながら喜んでいた……喜んでいたのか?
まぁ、狩ることができたからいいとしよう。
今日は大量大量!!
「セリシア、エレナ帰ったぞ!」
狩りから帰えると、二人の反応はすごかった。
―――ズドン (動物を置く音)
「こんなにいっぱい狩ってきたのぉ?!牙猪に角ウサギ、大蛇までいるじゃないの!!」
「ほぼイリスが狩ったんだ」
「「「すごいわイリス!!」」」
エレナは抱きついて喜んでくれた。
(やっと三人の役に立つことができて本当によかった)
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