↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/19

第16話:残り物たち

耳を裂くような凄まじい衝撃音と共に、

猛烈な風と土煙が吹き荒れた。

ドゴォォォォン!!


小石が命中した『金剛魔導鋼』の標的は――「壊れた」のではない。



原型を留めないほど粉々に破砕され、

跡形もなく消え去ったのだ。

それだけに留まらない。


小石は標的を打ち砕いた勢いのまま、

背後にそびえ立っていた演習場の外壁に激突。

分厚い石壁を派手に吹き飛ばして貫通した。


「ギャァァァァァァっ!?」


「な、なんだ!? 一体何が起こったんだ!?」


「逃げろぉぉぉっ!!」


観客席は未曽有の大パニックに陥った。


教員たちが悲鳴を上げながら必死で魔法の壁を展開し、

巻き上がる砂埃や破片から受験生たちを庇う。


もうもうと立ち込める猛烈な土煙と灰が、

演習場内を包み込んだ。

数分後。


風が静まり、徐々に土煙が晴れていく。


そこに広がっていたのは……元『第一演習場』であったはずの、凄惨な光景だった。


前方の外壁は大きく打ち破られ、

その先にある街の広場まで見通せるようになっていた。


そして、標的が置かれていた場所には、

深いクレーターがぽっかりと口を開けている。


受験生たちは全員地べたに腰を抜かし、

ガタガタと震えていた。


高級貴族のアルベルトは、髪をぐしゃぐしゃにし、

股間を湿らせながら白目を剥いて失神していた。


試験官は、手にしていた採点板が半分に折れたまま、

口をぐうぐうと開けて前方の空洞を見つめている。


「な……な……な……」


試験官の口から、掠れた声が漏れる。


「な……なんという……破壊力……っ!? あの厚さの壁が……金剛魔導鋼が……たった一粒の……小石で……!?」


そんな惨状の中央で。


俺は、呆然と自分の右手を見つめていた。

指先からは、熱による紫煙がゆらゆらと虚しく立ち上っている。


「……あ」


俺は青ざめた。


「や……やっちゃった……」


頭を抱えて地べたに崩れ落ちる。


「なんでぇぇぇぇぇぇっ!? 完璧に投げたつもりなのに! ぽてんって当てて落とすはずだったのに! なんで壁まで吹き飛ぶんだよぉぉぉっ!!」


俺の悲痛な叫びが、演習場内に虚しく吸い込まれていった。


遠くの教員用観覧席の影で、

姿を隠していた学長ボゼルが、

パイプを落としそうになりながら白ヒゲをひくひくと震わせていた。


「ほ……ほっほっほ……。本人は完璧に投げたつもりなんじゃろうが……あの子の『普通』の基準は、一体どうなっておるんじゃ……」


こうして、俺の魔術学院実技試験は、

歴史に残る「第一演習場大破事件」という大惨劇と共に幕を開けたのだった。


◇


実技試験の惨劇から一夜が明けた。


第一演習場が大破するという前代未聞の事故が発生したにもかかわらず、

アルテミア魔術学院の選抜試験は打ち切られることなく続行された。


学校側の「どのようなアクシデントであれ、試験は完遂する」という伝統と意地のためだ。


だが、受験生たちの間の空気は一変していた。


「おい……あいつだ……」


「第一演習場を小石一つで粉砕したバケモノ……」


「関わったら死ぬぞ。近づくな……!」


仮設の第二グラウンドに集まった数千人の受験生たちは、

俺を中心に半径十メートル以上の巨大な「空白地帯」を作り出していた。


俺が歩くだけで、周囲の受験生たちは悲鳴をあげて退く。


彼らにとって、俺はもはや人間ではない。


人間の皮をかぶった歩く兵器、あるいは意味不明の災厄そのものだった。


俺は自暴自棄のような顔で、トボトボと肩を落として歩いていた。


(ダメだ……やっぱり俺はダメだ……。演習場を壊さないように完璧に投げたつもりだったのに、結局また人を怖がらせて、場所を壊してしまった……)


心が重く痛む。

こんな怪物(バケモノ)が学校に入ったところで、

周りを危険にさらすだけではないのか。


そんな落ち込む俺の前に、

宙に浮く音響魔導具から試験官の厳しい声が響き渡った。


「静粛に! これより第二選抜試験を開始する!」


受験生たちが固唾をのんで耳を傾ける。


「第二試験の課題は――『三日三晩・連続即席チーム選抜』である!!」


会場にどよめきが広がった。


「三日三晩……!? 七十二時間不休ってことか!?」


「即席チーム……!?」


試験官は冷酷な笑みを浮かべ、ルールを説明し始めた。


「ルールは至ってシンプルだ。これより受験生諸君には、その場で『四人一組の即席チーム』を組んでもらう。その後、広大な『魔導原生林ダンジョン』へと侵入し、七十二時間の間、指定されたチェックポイントを巡りながら生き残らなければならない!」


試験官は指を一本立てた。


「この試験で試されるのは、個人の戦闘力ではない! 『極限状態(不眠不休・疲労・飢え)において、互いを補い合い、チームとしてどう助け合い立ち回れるか』だ! チームのうち一人でもリタイア(脱落)すれば、そのチームは全員不合格となる!」


「「「な、なんだってぇぇぇっっ!?」」」


受験生たちに衝撃が走った。


一人でも脱落すれば全員連座で不合格。

つまり、自分の強さだけでなく、弱者を支え、

チームを維持する「協調性と優しさ」が試される過酷な試験なのだ。


「制限時間は三十分! 直ちにチームを結成せよ! 相手が決まらなかった者はその時点で失格とする!」


試験官の合図とともに、グラウンド内は狂乱のスカウト合戦へと化した。


「おい! 一緒に組もうぜ! 俺は回復魔法が使える!」


「あっちの強力な前衛を確保しろ!」


「強い奴同士で組めば楽勝だ!」


受験生たちは次々とチームを結成していく。

しかし、俺の周りだけは、誰も俺に声をかけようとしない。

いくら圧倒的な力を持っていても、

「関われば巻き添えで粉々にされる」

「加減のきかないバケモノと七十二時間も一緒にいられるか」

と全員が恐れていたのだ。


俺は一人、ポツンと佇んでいた。

(やっぱり……俺は誰からも必要とされないんだな。一人で暴れるだけの怪物なんて、チームワークの試験じゃ邪魔なだけだ……)


寂しさと虚しさが、胸を締め付ける。

残り時間が刻一刻と迫る。五分、三分、一分……。


「全員見る目ないわね、私と組まないなんて」


「僕に相応しい人が誰もいないな」


「うー、お腹すいちゃったな」


俺の耳に、三つの声が飛び込んできた。


振り返ると、

俺と同じように相手が見つからずに残ってしまった三人組が、

地面に座り込んでいた。


一人目は、派手なピンク髪をツインテールにした少女――メイビス。

二人目は、金髪に丸いメガネを掛けた少年――カイン。

三人目は、ふわふわとした雰囲気を纏った女の子――ミル。

集まったのは、仲間が見つからなかった4人だった。


残り時間、三十秒。

俺はそっと彼らに近づき、屈み込んで目線を合わせた。

「あの……もしよかったら、俺とチームを組んでくれませんか?」


「ひっ!?」


カインがメガネをガタッとズラして悲鳴を上げた。

メイビスも顔を青くして後ずさりする。


「な、何よ……!? 演習場を吹き飛ばしたあのバケモノじゃない!!」


「ば、僕を誰だと思っている! 君のような危険人物と……っ」


「お願いです」


俺は深々と頭を下げた。


「俺、自分の力のコントロールが上手くできなくて、みんなに怖がられていて……でも、誰かを傷つけたいわけじゃないんです。みんなと一緒に試験を受けたいんです。俺にできることなら、荷物持ちでも何でもやりますから……!」


俺の必死で、どこか切ない瞳。

そこには怪物としての凶暴さなど微塵もなく、

ただ「仲間になりたい」と願う一人の少年の純粋な心が宿っていた。

メイビスとカイン、メルは顔を見合わせた。


「……組む人がいないんだから、しょうがないわね」


メイビスはため息をつきながら、そっぽを向いた。

カインもクイッとメガネのフチを押し上げた。


「……フン、僕のような優秀な男が失格になるわけにはいかないからね。特別に組んであげよう」


ガレトはぽやんとした笑顔で頷いた。


「よろしくねぇ、イリスちゃん」


「ありがとうございます!」


俺の顔に、心からの笑顔が咲いた。


こうして、学術都市史上最も危険で、

最も個性的すぎる『残り物チーム』が結成されたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。