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演説

 出撃区画は、とても冷たく感じた。

 いや、実際は地味に暑い。四方八方を鉄板に覆われ、周囲には無数の管が張り巡らされている。圧力計の針が揺れ、半秒ごとに煩く鳴いている。

 光源は天井に吊るされた白熱灯を数える程度で、工場の路地裏にでも入った気分になる。


 そこに集うのは、会議の結果を受けて編成された部隊だ。

 右から陸軍、海軍、空軍。そして、この後対面する予定であった“陸海共同軍”が列をなしている。

 全員、武装やら艤装、航空艤装を身に纏っており、いつでも出撃可能だと訴えかけている。


 その先頭には、この作戦に参加する指揮者が立っている。全員が歴戦の猛者の風格をしており、この場に張り詰めた空気は異常なほどだ。


 そんな彼女たちの前に、俺は立つ。

 情けないながら、俺は既に龍鱗全身鎧(ドラゴンフルプレート)を身に纏っている。

 それに比べ、彼女たちはどうだろうか。被弾すれば怪我を負ってしまうであろう軽装である。


 元より彼女たちは動きやすい布地の服装であり、防弾チョッキなどの小細工は一切施されていない。それどころか、主に陸空軍ではセパレート式の軍服が多いため、腹部が露出し大変危険である。

 海軍はそれなりに着込んだ服装をしているが、それでも布地ということを考えれば危険だろう。


 その一方で、武装した彼女たちに危険だという概念はあまりないのかもしれないと思う。

 部分的ながら装甲板は存在しているというのもある。しかし、それ以上に彼女たちの瞳は肝が据わっているように感じる。

 本質を考えれば当たり前なのだが、どうにも違和感を感じてしまう。


 「元帥、作戦の参加者が揃いました」


 俺の背後で声がする。

 振り返ると、そこには俺の前に立つ者たちと同様、武装を身に纏う水月(すいげつ)が立っていた。手には主砲らしき物を持ち、背中には副砲やら煙突やらを背負っており、元の軍服姿も相まってか、重厚感を感じる。


 「ああ、ありがとう。にしても、本当にお前も出撃することになるとはな」


 「当然です。これは陸海共同軍の総意なので」


 そう、水月(すいげつ)がここにいる理由。それは、陸海共同軍の総意に基づくものだ。

 あのとき、水月は俺に許可を求めた。その内容は、京華が鎮守府の管理者を務めていたときより承認されている【独自行動権】の許可だった。


 京華から引き継ぎを受けていなかったこともあり、俺はそれの存在を知らなかった。

 どうにも、陸海共同軍に一定の独自判断が認められているらしく、前線で万が一が発生した場合は京華の承認を得ることなく即刻出撃することが可能とのこと。


 京華が管理者を退いたため、本来なら俺との対面で再度許可を取ろうとしていたそうだが、この緊張事態のせいでそれができなかった。

 それで、あのとき水月(すいげつ)を介して俺に許可が求められたというわけだ。

 

 「まあ、無理だけはするな。元よりお前たちは作戦に参加しない前提で話が進んでいるから、連携も取りづらいだろうしな」


 「それについてはご心配なく。作戦は既に、私を通じて共有されています」


 ……何と仕事の早いことか。ここまで報連相のできた部下を過去に見たことがあっただろうか。いや、十人ほど見た覚えがある。

 過去数千年で立たった十人程度……数百分の一の確率だ。当時の帝國はあまりにも腐敗していたらしい。改めてそう実感する。


 まあ、この話はここまでにするとして、俺たちには時間が残されていない。先ほど、京華から思念伝達によって伝えられたとおりのことをすることにしよう。

 そのために、一歩前に踏み出す。


 集った者たちの視線が集まる。

 本来、そこあるはずの沈黙は流れない。圧力計の針が喚き、それをを掻き消しているからだ。

 だが、そのような集中できない環境ですら言わねばならない。彼女たちが帰る家の守り人として。


 「……諸君、この場に集った諸君。貴重な時間を割いてしまい、申し訳ない」


 俺が言葉を発するなり、彼女たちの視線がより鋭くなる。

 一部のものを除き、皆、俺の事を腫れ物でも見ているような目で見る。


 「まだ、俺のことを知らない者もいると思う。だからこそ名乗らせてくれ。俺の名は龍造暁翠(りゅうぞうきょうすい)。旧大龍帝國一三代元国家元首だ」


 その言葉に動揺する者が現れる。主にこの後すぐに出撃する空軍第一波の空気が、僅かにざわついた。

 無理もない。陸軍や海軍はともかく、空軍は代表者との対面を終えたばかり。そのため、俺の正体を知るものは少ない。


 そして、彼女たちからすれば俺は“空白の一三代”と呼ばれる存在。功績もなければ、この場における信用もない。

 それでもなお、俺は言葉を続けなければならない。ここで前進をやめることは、俺の前に立った者たちの想いを踏みにじることに等しいのだ。


 「俺は今、新たな管理者として、指揮官としてここにいる。そんな得体も知れない男に指示を出されることは、あまりにも不安なことだ。だが、今回ばかりは許してほしい。人類の守護を遂行するには、お前たちの力が必要だ」


 ざわつきが僅かに収まる。

 それでも、空気は変わらないままだ。


 「だが、俺は決して人類のために命を捧げろとは言わない。また、絶対に守護しろとも言わない。お前たちは、自分や守る価値のあるもののために戦え。今日この日を持ち、契約は形式のみに成り下がった」


 張り詰めた空気が揺らいだ。


 「いいか、我々を縛る契約は“人類の守護”、及び“吸血鬼の殲滅”である。だが、半ば強引に締結されたこの契約は本来破棄されるべきであり、お前たちが追う必要性はどこにもなかった。人類は我らが祖国を滅ぼしただけでは飽き足らず、お前たちを搾取し続けた」


 再び、空気が緊張を帯びる。


 「忘れるな、人類の行いを。恩を仇で返す存在を絶対に守る義理はない。そして、お前たちは生き残ることのみ考えろ。我々は契約に縛られる存在であると同時に、意思を持つ人である。その自由は、決して誰にも侵害されるべきではない」


 彼女たちの瞳が、多くの光を宿す。

 心なしか、僅かに空気が暑くなるのを感じる。

 おそらく気のせいだが、陸海空軍代表者の瞳は真剣かつ、初対面のときとは明らかに違うものを宿している。

 だが、一つだけ問題があるとするなら……


 「……情けないながら、これ以上の言葉が出てこない。申し訳ないが、俺からかけられる言葉はここまでのようだ」


 「元帥!?」


 水月(すいげつ)が反射的に言った。裏返った声で。

 ……本当に情けないながら、これ以上何を言えばよいのかわからない。

 俺が言いたいことを要約すると、最低限自分の命を守り、戦う意味は自分で定めろということだ。それ以外の意図は決してない。


 ふと、意識を眼前の彼女たちに戻す。列をなし集う者たちは、様々な表情を浮かべていた。

 笑いを堪える者。

 額を手で押さえてている者。

 未だ真面目な瞳でこちらを見つめる者。

 ほぼ確実に俺が原因だ。出撃前だというのに、申し訳ないことをしてしまったと心より思う。


 「指揮官、また自分のことを責めていませんか?」


 「少なくとも、こうやって緊張した空気を解いてくれたことが案外安心できるものですよ」


 晩月(ばんげつ)と龍造(りゅうぞう)が交互に言う。装備の修理待ちである氷花(ひょうか)は、出撃区画の扉前で頷いているのが確認できる。

 陸海空軍の代表者であろう者は何も言わないが、自然な動作で一礼をする。


 これで良いのかと、再三疑ってしまう。

 このような司令官で良いのかと、自分の立場を考えると懸念点が沸騰した水の気泡のように噴き出してくる。

 その表情が表に出てしまっていたのだろう。背後に控えていた水月(すいげつ)が俺の隣に立つ。


 「少なくとも、この場で元帥は信用されています。胸を張ってください」


 彼女は目を合わせようとはしなかったが、はっきりとそう言った。

 その言葉に、僅かながら救われた気がした。俺はここの住人に、一定の諒解を得ることができたのだなと。


 「……では、これより目的地への霧煙門(むえんもん)を開く。総員、自分の入る門を間違えないように」


 「「了解しました」」


 その言葉と同時に、圧力計の針が大きく動き、開閉のためのバルブが自動的に動き出す。

 すると、唯一配管が巡っていなかった壁の前に、三門の霧煙門(むえんもん)が出現する。それらは、途切れていた配管から放出された霧により、そこそこ規模のものに拡張される。


 彼女たちは出現した霧煙門(むえんもん)に、軍別ごとに入っていく。

 まもなく、現段階で作戦に参加する陸海空軍の姿は見えなくなった。

 この場に残ったのは、俺と陸海共同軍所属の者たちのみ。霧煙門(むえんもん)は、まだ閉じていない。


 「……すまない。本来、お前たちが負うべき仕事ではないだろうに」


 「いえ、私たちが好きでやっていることです。それに、たまには戦場に出なければ腕が鈍ってしまうというのもあります」


 俺の言葉に、陸海共同軍代表者が言葉を返す。

 彼女は水月(すいげつ)とほぼ同じ武装を身に纏い、この場に立っている。腰より少し下まで伸ばされた紫苑色の髪は整えられている。気品という言葉をそのまま当てはめても足りないくらいだろう。


 「では、改めまして」


 彼女の瞳……髪色と同じそれは、どこか不気味で美しい瞳が微笑みのために僅かに緩む。

 一つ一つの所作はまさに貴族の令嬢と言ってよい。

 そんな彼女は武装を背負い、和傘を肩にかけて微笑みを作る。


 「紫桜型超戦車一号車 紫桜(しざくら)と申します。本日、万が一に備えて姉妹一同、司令官の護衛を務めさせていただきます。またお会いすることになりますが、今一時ばかりは戦姫としての私たちをよろしくお願いいたします」

ここまで読み進めてくださった読者の皆様、本当にありがとうございます。

ここまでの話はどうでしたでしょうか? 少しでもお楽しみいただければ幸いです。

大変図々しくございますが、星を一つでもつけていただけるとモチベーションが上がりますので、少しだけでも「面白い」「続きを読みたいと」思っていただけましたら、星での評価や感想など、よろしくお願いします。

さて、少し話は変わりますが、私の現状について報告させていただきます。

現在、私のリアルがとても忙しいため、投稿頻度が大きく低下することが予想されます。一カ月に二話ほど投稿できれば良い方だと思っていただければ幸いです。

また、この忙しい時期がどこまで続くかは未定であるため、長い目で見守っていただければ幸いです。

では、これにて後書きを終わりたいと思います。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

(記載日:2026年2月19日 深瀬凪波より)

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