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第七章

第七章 ~犬と虎の恩返し~


白虎との戦いで傷を負った俺と新之助は、宿屋に戻り傷の手当てをしながらも、次の行き先が"阿弥陀ヶ峰"と分かり、一刻も早くお菊殿を救いに行きたい気持ちで焦っていた。その間、甚八を使いに出し、阿弥陀ヶ峰の情報を仕入れさせにいたのだったが、そこに物騒な話しは一つも出てこなかった。むしろそこは由緒正しき地であり、小高い葬送の山として地元の民から崇められているとの事だった。


新之助 「せいきち、傷の具合はどうだ?」


せいきち 「不思議なくらい治りは早いんだよ。痛みも殆どないくらいだ。」


新之助 「やはりお前の中にはあのお方がいるのかもな!」


せいきち 「あのお方って…前も同じような事を言ってたよな?まさか、俺の中に家康公がいるとでも?まさか~!」


新之助 「そのまさかも…有り得るぞ。いつぞやの青雲を城から逃がした時の事を覚えておるだろう?そして青雲は銃弾に倒れた。その後のせいきちは怒り狂い、自分がどうしたのか覚えていないのだろう。それと、白虎との後もそうだ!『人の一生は…』何たらかんたらって、いきなり言い出して。普段のせいきちからじゃ、想像も付かない様子だったぞ!ありゃ間違いなく将軍家康公の何かだな!?」


せいきち 「…家康公は、玄武との戦いの後、お菊殿の命が無事と知り成仏されたはずだぞ!」


新之助 「なら、せいきちは何故またこの江戸に戻ってこれたのだ?」


せいきち 「…それは…、俺にも分からない…」


甚八 「それはそうと、菊姫様が阿弥陀ヶ峰に居るって事は分かったんです。助けに行くんでしょ?」


せいきち 「あぁ。だがここから先は何が起きても不思議ではない。白虎ですら詳しい素性が分かっていない人物だからな。」


新之助 「そうだな…。二人とも心して行くぞ!」


翌朝、甚八の調べによれば阿弥陀ヶ峰までは一日歩けば到達するとの事だった。俺たちは支度をして宿を後にし、お菊殿が囚われている阿弥陀ヶ峰へと出発した。

しばらく歩き、昼食のため途中の茶屋で休んでいると、小さな子供が辺りをキョロキョロと、何かを探している様子で歩いているのに気付いた。


新之助 「あの童子(わっぱ→こども)は、さっきから何をしているのだ?落とし物でも探していいるのだろうか。」


甚八 「だとしたら可哀想ですね。ちょっくら聞いて来ます!」


せいきち 「甚八は気が利くし優しいな。特に子供には親身というか世話好きというか。」


新之助 「性分だろ?。憶測だか、自分が子供の頃に辛い思いなどをすると、昔の自分と重ねて優しく接する事だってあるからな。甚八が子供の頃がどうだったかは知らんが、別に悪い事ではなかろう。あいつの良いところではないか!?」


せいきち 「確かにな。俺も甚八を見習わなきゃだよ!」


甚八 「はぁはぁはぁ。兄貴たち大変です!どうやらあの子が大切にしている"ちび"が居なくなったそうです。」


せいきち 「ちび?」


新之助 「あの子の弟か?」


甚八 「いえ!犬ですっ!」


せいきち・新之助 『犬ぅ~?』


甚八 「うちらが向かっている町から犬を探しているうちここまで来てしまったそうです。何でも、父親がこの道を通って、隣町に行商に行ってたみたいで、もしかしたら"ちび"も父親に着いて行ったのかもしれないと思ったようですよ。」


新之助 「それでこんな遠くまで来ちまったって訳か…」


せいきち 「子供一人で帰らせる訳にもいかないし、どうせ俺たちもその町に向かっているのだから、一緒に町まで送ってやろうよ。」


新之助 「犬はどうするのだ?」


せいきち 「う~ん…、こんなに広い場所から探し出すのは無理だろう。もしかしたら家に帰ってきてるかもしれないし、父親と一緒ならいいのだが…。まずはあの子を無事に家に送り届ける事の方が大事なんじゃないかな?母親も心配してるだろうから。」


甚八 「なら、"ちび"を探しながら町まで行きましょうよ!そしたら、あの子も納得するでしょう!」


新之助 「仕方あるまい。そうするか!」


ひょんな事から旅の途中に犬探しが始まってしまった。子供の名は"市太郎"。両親と犬の家族だと分かった。町までの道中、犬の名前を呼びながら歩いては、草むらや木の陰などもくまなく探し続けた…。


市太郎 「ちび、居ないね…どこに行ったんだろう。」


甚八 「そうくよくよするなって!必ず見付かるさ。」


市太郎 「でも、もうすぐお家に着いちゃうよ。帰ってきてなかったらどうしよう…ちび、お腹空かしてないかな…」


新之助 「犬は鼻がいいからな。上手い匂いに誘われて、今頃どっかでご馳走にありついてるかもな!」


市太郎 「・・・」


せいきち 「ん?ちょっと静かに…。今、犬の鳴き声がしなかったか?」


新之助 「いやぁ、気のせいだろう?」


せいきち 「・・・」


『くーん、くーん。』


せいきち 「いや、間違いない!こっちから聞こえるぞ!」


藪をかき分け、犬の鳴き声が聞こえる方に俺は進んでいった。そして、少し開けた場所まで来ると、そこに動けなくなっている一匹の犬を発見したのだ。


市太郎 「ちびだっ!」


ちびは、猪などを捕まえる"括り罠"に捕まってしまい身動きが取れなくなっていたのである。無理矢理逃げようともがいたせいか、ちびは足を怪我し出血していた。


甚八 「これは可哀想に。今すぐほどいてやるからな。動かずにジッとしていろよ。」


すぐに縄をほどいてやると、市太郎はちびを抱き締めた。


新之助 「早く手当てしてやらんと傷口が化膿してしまうぞ。犬に効くか分からんが、俺の持っている薬草を使ってみるか。とりあえず、市太郎の家まで運ぶぞ。」


怪我したちびを新之助は担ぎ上げ、急いで市太郎の家へと運んだのであった。


市太郎 「母ちゃん、ただいま!ちび、見付かったよ!」


母 「いったいどこに行ってたんだい!?と、それに、後ろの方々は…」


甚八 「怪しい者ではありません。旅の途中にちびを探してる市太郎に出会って一緒に探していました。」


母 「それは、大変ご迷惑をお掛けしまして。ささ、何もない所ですが、上がってお茶でもどうぞ。」


新之助 「すまぬが、ぼろ布などはござらんか?ちびは足を怪我しておってな。手当てしてやらんといかんのだ。」


母 「そうでしたか…。今お持ちします。」


新之助は手持ちの薬草を水で緩め、軟膏状にしてちびの足へと塗った。そして、舐めたりしなによう、布をぐるぐると巻つけたのであった。


新之助 「これで良し!そのうち歩けるようになるだろう!」


市太郎 「わー、ありがとう!良かったね、ちび!」


『わんっ!』


安心したのか、ちびは嬉しそうに尻尾を振り新之助を顔を舐めていた。


せいきち 「それはそうとお母さん、この辺りに宿屋はございませんか?夕刻ですし、我々もそろそろ寝床を探さなくてはなりません。」


母 「えっ?あの、もしご迷惑でなければ、うちに泊まってって下さいな。狭い所ですが、市太郎がお世話になりましたお礼に。」


市太郎 「そうだよ。泊まってってよお兄ちゃんたち!」


新之助 「…どうする?せいきち。」


せいきち 「ちびの様子も気になるし、お言葉に甘えさせてもらおうか。」


甚八 「よし、今日の寝床はここで決まり!お世話になりまーす。」


犬探しのお礼に今夜の宿にありつけるとは想像もしていなかった。山之内清兵衛との修行"天地万物の業"が犬探しにも役立つとは…まさかの出来事であり…少し笑えた。

市太郎の家は、父親が(かんざし)職人をしており、それを生業としていた。


新之助 「簪かぁ、市太郎の父ちゃんは凄い人なんだな~!?」


市太郎 「そうだよ!父ちゃんの作る簪は日本一なんだぞ!」


母 「どうです?夕食までにはまだ時間がありますから簪を作ってみますか?私も主人の仕事を手伝っていますから、作り方は知っているんですよ。」


甚八 「へぇ~、こりゃやってみる価値ありますよ兄貴!惚れてる女に贈り物にしたら喜びますよ!へへっ、なんてね。」


新之助 「惚れた女にねぇ…、せいきちには居るか?」


せいきち 「そりゃ、俺の生きる時代には居るけど、この時代にはなぁ…。でも、せっかくだから作ってみるか!」


新之助 「そうだ、俺は水織殿回復を願って作るから、せいきちは菊姫様に作ってみてはどうか?」


せいきち (お菊殿にか…そうだな!)


三人は無我夢中で簪を作り始めた。細かな細工を施すのは大変な苦労ではあったが、少しずつ完成に近付くにつれ、俺の頭の中は、この簪を着けたお菊殿の笑顔に溢れ口元が綻んでいた。


新之助 「せいきち…、今、菊姫様の顔を思い出していたろ?顔がニヤけているぞ!」


せいきち 「えっ!?…いやっ…別に…」


みんな「あっはっは!」


どうやら、新之助に心の中を見透かされてしまったようだ。

明日、俺たちは阿弥陀ヶ峰に決戦に行く。生きるか…それとも…。

今夜が最後かもしれない仲間たちと笑顔に過ごせた事が、何よりのご馳走であった。


翌朝、市太郎とその母に別れを告げ、お菊殿が囚われているであろう阿弥陀ヶ峰へと出発した。ここから阿弥陀ヶ峰までは近く、市太郎や近所の子供たちも遊び場としていたらしいが、最近は妙な武家や浪人風の輩を見掛ける事が増え、あまり近付かないようにしていたらしい。この事から、やはりそこには大上率いる連中がたむろしていると推測できた。


新之助 「ここが阿弥陀ヶ峰の入り口か。小高い山にしか見えんが、この先には何が待ち受けていようとも引き返せんぞ!」


せいきち 「あぁ。必ずお菊殿を連れ戻すっ!」


石の階段を一歩ずつ登りながら、俺たちが何を思っていたかは分からない。お菊殿の無事を祈り、更なる敵に挑み、大上の野望を食い止める。それぞれが熱い胸の内を抱いていたのであろう。しかし、俺たちは何があっても前へ進むしかないのだ!


『待ち草臥れたぞ!』


せいきち 「誰だっ?」


青龍 「誰でもよかろう…。お主らは私の手によってここで死ぬのだから…」


せいきち 「その背中にぶら下げている大太刀…お前が青龍だな!?俺が相手になってやるぞ!」


青龍 「田舎侍がずいぶん大口を叩くなぁ。まぁいい。お頭の命令だ。悪く思わんでくれ。」


新之助 「ちょっと待ったーっ!お前の相手はこの俺だっ!」


青龍 「ほう、お前が先に楽しませてくれるのか?」


新之助 「せいきち、隙を見てお前は早く上に行け!ここで無駄に体力を消耗させたくないのだ!さぁ、早くっ!」


せいきち 「すまない…絶対に死ぬなよ!」


新之助 「甚八はそこの陰に隠れていろ。さあ、青龍ーっ!勝負だっ!」


先制攻撃で新之助は飛び込んだ。新之助も共に神道一刀流を学び、素早さはどの流派にも引けを取らない。一瞬にして青龍の間合いまで到達した。そこからの抜刀は瞬く間に青龍を捕らえた。


『ガキーンッ!』


青龍もすかさず刃を盾とし、新之助の攻撃を防ぎ躱した。俺はその隙に奥の階段を駆け登り先を目指したのだった。


せいきち (新之助…絶対に死ぬなよ!)


俺は階段を駆け登り感じていた。青龍ほど強者が、俺を易々と先に行かせたのが不思議だった。がしかし、ここは新之助に任せるしかないのだ。


新之助 「けっ!役者だなぁ…。何故、せいきちを行かせた?何か裏でもあるのか?」


青龍 「構わんさ…。俺に殺られようが、朱雀に殺られようが同じ事だ。お前らは頭の所にまで辿り着けんさ。それよりも、俺はこの勝負を存分に楽しみたいだけの事。さぁ、どこからでも掛かってこい!」


新之助 「ったく…、血の気の多い連中だぜっ!では、遠慮なく行かせてもらうぞっ!うぉぉぉっ、」


『風伯一刀斬!!』


新之助は疾風の如く駆け抜けた。


『ガキーンッ!』

『シャキーンッ!』


風伯一刀斬は、一瞬にして相手の懐に飛込一刀目に水平斬りを繰り出し、そのまま相手の後方へと過ぎた瞬間に振り向き様に二刀目の斬激を叩き込む技である。だが、新之助の刃は、一刀目も二刀目も、青龍を掠める事すら出来なかった。

青龍も間合いに入った新之助にすかさず斬り掛かった。


『ズバッ!!』


間一髪の所で避けたつもりの新之助ではあったが、青龍の大太刀は通常の日本刀よりも遥かに長く、避けきるには至難の技であった。新之助は危うい所で身を反り返し、胸元を掠め斬られてしまった。


新之助 「ふ~、あぶねぇ…」


青龍 「まだまだこれからーっ!」


青龍の勢いは止まらず、大太刀を縦横無尽に振り回して新之助に襲い掛かる。刀身が長い分、間合いの取り方を一歩でも間違えると、それは死を意味する結果となる。新之助は慎重に襲い来る刃を躱して次なる攻撃を伺っていた。そして一瞬ではあるが、

大太刀を振りきった後に間が空く瞬間を見付けたのだ。


新之助 (大太刀は刀身が長いから広範囲に攻撃を仕掛けられる。だが、長いって事はその分、重いって事だな!だから先ほどから斬り返しの瞬間に妙な間が出来るのだ!それこそ、反撃への好機だ!)


追い詰められながらも、新之助は今、その時をねらっていた。そして・・・


新之助 「今だっ!」


『ズバーンッ!!!』


見事に新之助の刃は青龍の腕を捕えた。だが、青龍も半身に翻し、致命的な損傷には至らなかった。


青龍 「楽しませてくれるねぇ…久し振りに血が煮えたぎってきたわっ!」


『龍牙斬!』


青龍は、大太刀を高く構え、渾身の斬激を新之助に向けて振り下ろした。大太刀は地面を真っ二つに切り裂き、その波動は蒼き龍の如く衝撃波となり新之助へと喰らい付いたのだ!


新之助 「ぐあぁぁぁっ!」


龍に噛み付かれ吹き飛ばされた新之助は、立ち上がる事さえ出来なかった。


青龍 「俺の技をまともに喰らって起き上がれる奴はおらんぞ。もう少し楽しませてもらえると思ったが…これで終いかな?」


新之助に近寄る青龍は、勝ち誇った笑みを浮かべながら止めを刺しに大太刀を構えた。


青龍 「死ねぇっ!」


『グサッ!』


新之助 「詰めがあめぇんだよ…」


なんと青龍の足には、新之助の刀が突き刺さっていた。新之助は衝撃波を喰らう一瞬の隙に自分の刀を盾にして直撃を免れていたのだ。


青龍 「貴様~…」


青龍は激怒し、新之助を容赦なく蹴り上げた。そして、足に刺さっていた刀を抜き、近くの岩に叩き付け真っ二つにしてしまったのである。


青龍 「もうお前に武器はない。神道一刀流とやらも使いものにならん。まさに蛇に睨まれた蛙とはこの事…いや、龍に睨まれた蛙って訳だなっ!ぐあっはっはっ!」


戦う術を失った新之助は、青龍からの攻撃を逃げ躱すしかなかった。だが、いつまでも逃げ回っていても埒が明かない。何か良い策はないかを模索していた。


『ドカッ!!』


新之助 「うわっ!」


とうとう新之助は、青龍に首根っこを捕まれてしまった。


新之助 「うぐぐぐっ…」


青龍 「追いかけっこもそろそろお終いかな?」


新之助 「ちく…しょう…」


物陰に隠れて様子を見ていた甚八は、あまりの迫力に震え上がっていた。何とか助けたいと弓矢を構えるが、手が震えて的を絞る事すら出来なかった。


『わん!わん!ガルルゥ!』


青龍 「ぬあっ!何だこの犬は!」


新之助 「ちびっ!?」


ちびは、勢いよく青龍の腕に噛み付いた。それにより、新之助を掴んでいた腕の力が抜け、その隙に新之助はちびを抱き抱え逃げ出したのだ。


新之助 「何でちびがここに?いや、ちび…ありがとう。助けに来てくれたのだな!」


ちびの助っ人により難を逃れた新之助は、再び青龍に挑む好機を得たのだった。がしかし、刀を失った新之助にとって形勢は変わらなかった。


甚八 「何でちびがここに?」


すると甚八の後ろには市太郎と女が立っていた。


女 「あら?弓矢の坊やは何もせずに見物なの?」


甚八 「あっ!?あんたは!」


女 「この坊やと犬が、入り口の所でうろちょろしていたから、事情を聞いてまさかと思って来てみたら、随分と厳しい状況ね。犬ですら助けてもらった恩を命掛けで返しに飛び付いたのに、あんたはこんな所に隠れて震えているだけ?」


甚八 「俺だって助けたい…でも、俺の敵う相手じゃなさすぎる…」


女 「ふふふっ。なら坊やに良い事を教えてあげるわ。勝負っていうのはね、負けたら終わりじゃないの…。逃げた時点で負けてるのよ!今のあんたは犬以下って事。男だったら、意地を出してみないっ!」


甚八 「・・・」


女 「あの青龍に突っ込んでいって、"これ"をあのお兄さんに渡してきなさい。助けたいんでしょ?」


甚八 「こ…これは!?」


手渡された物、それは"二本の小太刀"だった。甚八は小太刀を強く握り閉め、みるみる内に士気を昂らせていった。


甚八 「ありがとう!白虎さん!俺、やってみるよ!うおぉぉぉ!!」


青龍の背中に向かって一直線に走り出した甚八。そのまま青龍に体当たりをした甚八は、青龍がよろめいているうちに新之助へ小太刀を手渡したのだ。


青龍 「くっ、邪魔するなーっ!」


『ドカッ!』


甚八 「うぁっ!」


甚八は青龍の蹴りに吹き飛ばされてしまった。だか、この甚八の働きにより、新之助は新たな武器を手に入れる事が出来たのだ。


甚八 「あに…き…これ…を」


新之助 「これは!?」


白虎 「それはこの間たくさん殴っちゃったお詫びよ。あなたに使いこなせるかしら!?」


新之助 「ふっ、有り難く頂戴するぜ!」


青龍 「そこに居るのは負け犬かと思えば、裏切り者の白虎ではないか?頭の恩を仇で返すとは、落ちぶれたものよ!」


白虎 「頭にはこれまでに恩を返してきたつもりよ。それに、私は正々堂々と勝負をし負けたの。それでもここに居る人たちは私を許してくれたの。だから私は武士の誇りである刀を捨て、この人たちに託したのよ。また昔のお頭に戻ってもらうためにね!」


青龍 「所詮、負け犬の遠吠え…。裏切り者に変わりないわ!こやつを葬った後は、次はお前の番だ、白虎!」


新之助 「おい青龍!誰が葬られるって?棺桶に入るのはお前の方だっ!」


小太刀二刀を手にした新之助は、これまでにない闘志を発揮し、青龍へと飛び込んでいった。


『ガキーンッ!』

『シャキーンッ!』


新之助 「まだまだぁ!」


『ガキーンッ!』


青龍 「先ほどまでとは雲泥の動き…だが、俺の大太刀は骨をも断ち斬る刃であり、どんな刃も跳ね返す盾ともなる。そんな小太刀では相手にならんわ!」


新之助 「それはどうかな?」


受け取ったばかりの小太刀で青龍の攻撃を躱し、さらに初めての二刀流で攻撃をし返す。この攻防戦をしばらく繰り広げていたのだった。すると、青龍の動きに微妙なズレがあるのを新之助は見逃さなかった。青龍は通常の日本刀よりもはるかに重い大太刀を振り回す事により、体力をかなり消耗し始めていたのだ。いくら鍛え上げられた忍とはいえ、瞬足かつ小回りのきく小太刀二刀の新之助の動きに追い付けなくなってきていたのだ。そして、新之助はそれを待っていたのだ!


新之助 「今だっ!二刀流でやった事ねーけど…」


『神道突牙斬!!』


新之助は弓を引くような構えから、勢いよく青龍の間合いへ飛び込み、一方の小太刀で大太刀を食い止め、もう一方の小太刀で青龍の足を貫いたっ!


青龍 「ぐあっっっ!」


今しがた刺した左足と、神道突牙斬で貫いた右足で、両足を封じられた青龍にはすでに立っている事さえままならない状況に追い込んだ。


新之助 「勝機あったな!もうその足では自慢の大太刀も振るえまい。」


青龍 「こしゃくなぁ…」


甚八・市太郎 『やったーっ!勝ったぞ!』


新之助は小太刀を鞘に戻すと、白虎の元へと歩き出した。そして白虎に小太刀を返そうとした。しかし、白虎はそれを受け取ろうとはしなかった。


新之助 「白虎…お前のおかげで助かった。ありがとう。」


白虎 「あらやだ。私はそこに居る弓矢の坊やに渡しただけの事よ。後は弓矢の坊やがやった事。礼を言うなら坊やに言うのね!」


甚八 「あたたた。こんな痛い思いをするなら逃げとけば良かった。」


新之助 「恩に着るぞ、甚八!」


甚八 「へへっ!兄貴なら勝てると思ってましたよ!」


勝利の余韻に浸っていると、白虎は青龍の元へと歩き出した。


白虎 「ご機嫌はどう?」


青龍 「・・・」


白虎 「私たちは負けたのよ。でも、私もあんたも殺されはしなかった。何故だか分かる?これが今の幕府の力であり、願いだと私は悟ったの。徳川に天下は取られちゃったけど、人々が少しでも安泰に暮らせるようになるのなら、それはそれでいいんじゃない?もし幕府が人々を苦しめるようになった時こそ、私たちのような"もののふ"が必要になるわ。それまでは無駄死にしないでほしいの。」


青龍 「生き恥をさらせというのか?」


白虎 「生き恥?バカね…ここに居る人たちはそんな事はどうでもいいのよ。あいつらを見てみなよ。さっきまで生きるか死ぬかの戦いをしていたのに、もう皆で笑っている…。死ぬくらいなら精一杯に生きて人々の力になってほしいと願っているだけなのよ!」


青龍 「うぅぅ…」


白虎 「さぁ、手当てしないとね!私と行きましょう、青龍。」


こうして青龍は白虎に連れられ新之助の前から姿を消した。青龍も忍の一人として、役目を全うしただけだった。青龍が心を入れ替え"人"として道を歩み始めてほしいと願う新之助であった。


第七章 ~犬と虎の恩返し~

終わり


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