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第六章

第六章 ~女心と忠誠心~


拐われた菊姫を追って山を下りた俺たちであったが、大上最善の残党との戦いで足止めに合い、またしても菊姫の行方を見失ってしまった。手掛かりを失ってしまった俺たちは、これからどうすべきか、麓の町の宿で意気消沈としていた。


甚八 「せいきちさんも、新之助さんも元気出して下さいよ~。必ず菊姫様は見付かりますって!」


新之助 「お前は呑気でいいなぁ。いったいどこを探せばいいって言うのだ?手掛かりがまったくないのだぞ。」


せいきち 「・・・」


甚八 「それなら、私がちょっくら町に出て聞き込んでみますよ。もしかしたら何か手掛かりになる事が聞けるかもしれませんし。では、行ってきます!」


新之助 「せいきち、何か良い策はないのか?」


せいきち 「俺はどうしても大上が言っていた"忠誠心"の言葉が気になっているんだ。そして、軍配を奪い返し墓前に添えたいとも言っていた。大上の主君を辿っていくと…豊臣家だろ?豊臣家と言えば…"秀吉"。秀吉公の最期は…ここ京都。そう考えると、この京都伏見で何かとてつもない事を企んでいるのではないかと思うんだ。」


新之助 「せいきちの考えが当たっているならば、秀吉公と何か縁のある場所を辿れば何か分かるかもしれんな!」


せいきち (こんな時、教科書でもあったらなぁ。もう少し歴史の勉強をしておけばよかった。秀吉の縁の場所とは…)


新之助 「まぁ、今日の所はゆっくり風呂にでも入って汗を流そうではないか。落ち着いて考えれば何か策が思い付くかもしれん。それに、甚八も情報収集している事だしな!」


本来なら、ゆっくりと風呂に浸かっている場合ではないのだが、これ以上の進むべき道が途絶えてしまった今では、冷静さを保つ他になかった。

翌朝、いつの間にか眠っていた俺の横に甚八も寝ていた。あちこち歩き回ったのであろう。着替えもせずに、疲れきって眠ってしまったようだ。出会った頃の甚八は頼りなく、一緒に来ると言われた時は心配で仕方がなかったが、今となっては甚八にあれこれと助けてもらっている。本当にいい仲間が出来たと心から感謝している。


(もう少し寝かせておいてやろう…)


俺は二人を起こさないように、そっと顔を洗うために表の井戸へと出ていった。井戸水はとても冷たく一気に目が覚めたのと同時に、俺の生きる現代では味わえない爽快感があった。


せいきち 「お菊殿はいったいどこへ…」


甚八からの吉報があればと期待しつつ、布切れで顔を拭いていると、背後に人の気配を感じた。


せいきち 「誰だっ?」


謎の女 「あらやだ。そんな怖い顔をして。ふふふっ。」


不気味な笑みでこちらを見ていたのは、見知らぬ女だった。


せいきち 「すみせん、いきなりだったものでつい…。何か私に御用ですか?」


謎の女「御用…?御用と言えば、あんたの持っている軍配を頂きにきたとでも言えば分かるかしら?」


せいきち 「軍配!?お前は大上の手の者か?」


謎の女 「そうね。大上様は私たちの頭ですわ。頭の命令によりこちらから使いに参ったって訳。感謝しなさいよ。」


せいきち 「ふざけるな!軍配は菊姫と交換だ!菊姫を無事に返せば軍配はくれてやる。」


謎の女 「ふふふっ。面白い人ね!あなたの言い分なんて聞いてないわ。さぁ、軍配をよこしなさいっ!」


せいきち 「嫌だと言ったら…?」


謎の女 「仕方ないわね。少し私の力を見せてあげましょう!ふぅ~…」


大上の使いと名乗る女は、手の平を差し出し息を吹き掛けると俺の体は縛られたように身動きが取れなくなってしまったのだ。


せいきち 「うっ…体が…動かない…なんだこれは。」


謎の女 「どう?私の術に落ちた気分は。あなたは私と出会ってからすでに私の魅力に落ちてしまっているのよ。もう私の言いなりにしかならない体なのよ。ふふふっ。」


せいきち 「マジかよ・・・くそっ!」


謎の女 「さぁ、軍配はどこ?言わないと、この小太刀で斬り刻んでもいいのよ。その後にあなたのお友達も同じようにあの世に送ってあげるから。」


せいきち 「わ…分かった…話す。軍配はここに来る途中の山の中に隠してある…。」


謎の女 「なら今すぐそこまで案内しなさい。」


せいきち 「それは出来ない。隠し場所はここから半日ほどかかる場所。俺が部屋に戻らなければ、新之助が鳩を飛ばして徳川軍に異常をしらせる事になっている。」


謎の女 「なら先に、そのお仲間を殺しておきましょう!」


せいきち 「いいのか?俺の仲間が死ぬような事があれば、俺も死を覚悟の上だ!一生軍配は見付からないぞ!」


謎の女 「くっ!…分かったわ。ならあなたに猶予をあげましょう。明朝、町の外れにある一本杉の丘陵がある。そこへ一人で持参しなさい。そしたら仲間の命だけは助けてあげるわ。嘘を付いて逃げ出しても構わないけど、この"白虎様"を怒らせると何をするか分からないわよ…菊姫ちゃんを助けられなくなる結果になるかもね。」


せいきち 「白虎!?…分かった、約束する。」


白虎は俺と約束を交わすと町の中へと消えていった。しばらくすると俺の体も動くようになり、息苦しさも元へ戻っていた。俺は白虎と飛んでもない約束をしてしまった。しかし、あの時はとっさの嘘だったとはいえ、ああでも言わなければ俺や新之助たちも殺されていたかもしれなかった。一旦俺は部屋に戻り、何事もなかったふりをして、新之助たちには白虎の存在は話さないようにした。


新之助 「せいきち、どこへ行っておったのだ?」


せいきち 「ごめん、ちょっと顔を洗いに…」


新之助 「洗いに行った割には顔色が悪いぞ?」


せいきち 「いっ、いや元気だよ!そうだ、お腹が減ってるからじゃないかなぁ。朝めしでも食おうじゃないか。」


結局その日も、手分けして大上の情報収集を行ったが、これといった手応えは得られなかった…。


(せいきちよ…考える事も大事だか、時には無になる事も大切と心得よ…)


俺は懐かしい声を夢の中で聞いた…。

翌朝、まだ二人が眠りについている頃、俺はそっと宿を抜け出し約束の一本杉の場所まで向かった。当然、お菊殿を返してもらう目的である。しかし、お菊殿を解放しないとなれば、無論、戦う覚悟でもあった。俺が殺られてしまったとしても、必ず新之助たちがお菊殿を助けてくれるはずだ。それに、俺たち全員があの妖術に落ちれば、その場で皆殺しに合い兼ねないからだ。


(必ず助けるぞ…お菊殿!)


白虎 「よく来たねぇ。さぁ、軍配を渡してもらおうか?」


せいきち 「軍配はここにある!だが、菊姫と交換が条件と言ったろう。菊姫は無事なのか!」


白虎 「菊姫ちゃんは無事に預かっているわ。でも、言ったでしょ…あなたの言い分なんて聞かないって。軍配が戻ってきたら、あとは頭がどうするか判断する事でしょう。」


せいきち 「やはり返す気は無いって事か…。ならば仕方ない。お前を倒して居場所を聞き出すまでだ!」


白虎 「まだ懲りないのねぇ。いいわ、私が斬り刻んで地獄を味合わせてあげる。」


せいきち (これが無になって出した答えだ!)


懐から細長い布を出すと、俺はこれから戦いという場で目隠しをしたのだ。そして、ゆっくりと刀に手を添え、耳を研ぎ澄ませ、全神経を白虎だけに集中させた。


白虎 「いったい何の真似かしら。そんな状態で私に勝てるとでも思ってるの?」


せいきち 「以前お前に会った時、終始俺を睨み付けるような冷たい目付きをしていた。そして俺もお前から目を離さなかった…。手の平から息を吹き掛け、あたかも妖術を今掛けたように見せ掛けただろうが、きっとあの時、俺がお前の妖術に落ちたというなら、それは"眼力"によるものだと気付いたのだ。だったら俺はお前の目を見ないよう目隠しをして戦うと決めたのだ!」


白虎 「ふふふっ。徳川の犬にしてはよく思い付いたわね。でも…それで私と戦えるのかしらっ!死ねぇぇぇっ!!」


【俺は神道一刀流の使い手である山之内清兵衛の元で新たに"神道極一刀流"を学んだ。短い期間だったとはいえ、日々の修行は血の滲む思いであった。そしてその修行の一つに、"天地万物の業"があった。一人、山の中で座禅を組み、ただひたすら自然を感じ取る修行であった。全ての物には神が宿り命がある。五感のみを研ぎ澄ませ、木々のざわめき、川のせせらぎ、大地の鼓動、風の流れ、生き物たちの声…。目に見える事が全てではない事を学んだ。風が吹けば草木が揺れ、生き物が歩けば大地が鳴り響く。人が動けば風の流れが変わる。まさに、人間を超越し神の領域に触れるものであった!】


白虎は小太刀二刀流の使い手。両手に小太刀を構え、俺を目掛けて一直線に迫ってきた。


『ガキーン!!』


小太刀が迫り来る直前の気配を感じ、俺は抜刀し小太刀を弾き返した。まぐれかもしれないが、俺は白虎の動きを感じ取る事ができたのだ。白虎は怯む様子もなく、また次の攻撃を仕掛けてくる。


『カチッ!』


せいきち 「そっちか…!?」


白虎 「ふっ、甘いわよ!」


『ズバッ!』


せいきち 「うあっ!」


俺は何かの音に気を取られ白虎に隙を見せてしまい、腕を斬られてしまった。かろうじて身を翻し致命傷は免れたが、こんな事ではいつかは殺られてしまう。


『ガサッ!』


せいきち 「こっちか…!?」


白虎 「馬鹿ねぇ…」


『ズバッ!!』


せいきち 「うっ…!」


確かに何かが動く気配を感じたのに、またしても今度は足を斬られてしまった。


せいきち (やはり今の俺にはこれで戦うのは無理なのか…)


白虎 「いい加減、目隠しを外したら?これでは殺し甲斐がないわぁ。」


せいきち (ちくしょう…、きっと白虎は攻撃を仕掛ける前に、足元から石や枝を拾って放り投げているんだ…落ち着け…落ち着け…感じるんだ!!)


白虎 「さて、次はどこから斬られるのかしらねぇ。」


『カチッ!』


せいきち 「ここだーっ!」


『ガキーン!!』


俺は音とは反対方向に刃を向けた。そして小太刀を防ぐと、力の限り拳を白虎に叩き付けた。


白虎 「ぐぁぁっ!」


せいきち 「・・・その声。お前、女じゃないな?」


白虎 「はぁはぁはぁ。私は一言も自分が女なんて言ってないわよ。でもね…、私の正体を知り、生きてる奴もいねーんだよっ!」


せいきち 「うぁっ!」


お返しとばかりに、白虎の拳が俺の頬を弾き飛ばした。倒れ込んだ俺に何度も何度も殴り掛かり、俺の意識は朦朧とし始めていた。


『ビュンッ!!』


その時、白虎の頬を掠めたは一本の矢であった。甚八と新之助が助けに来てくれたのである。俺の姿が見当たらない事に心配して探しに来てくれたのであろう。


甚八 「今、助けますからっ!」


新之助 「こんなとこに居ると思ったら、負け戦か?そんな事、俺が承知しねぇぞ!」


せいきち 「来るなっ!こいつは大上の側近、白虎だ!」


新之助 「この女が白虎…。あまり女をいたぶるのは気が進まぬが、大上の手下となっちゃぁ話しは別だ。今度は俺が相手だ白虎っ!」


白虎 「あらやだ、お仲間なんて呼んじゃって…。しょうがないわね、あなたは後で可愛がってあげるわ。まずはあの粋のいいお仲間を始末しなきゃね。」


せいきち 「やめろ!まだ…俺との勝負が着いてねーぞ!」


白虎 「さぁ、お仲間さんたち。こっちへ来て勝負しなさい。」


新之助 「けっ!ふざけやがって。言われなくたって叩き斬ってやるっ!」


白虎 「ふっ…馬鹿ね…」


せいきち 「ダメだーっ!そいつの目を見るなっ!!」


『ビシッ・・・』


新之助 「うっ…動かねぇ…」


せいきち 「そいつは、眼力という妖術を使い動きを封じるんだ!」


新之助 「…早く言ってくれよ~せいきち~」


せいきち 「だから来るなって言ったろ~」


白虎 「ほんと二人揃って間抜けねぇ。所詮、徳川の犬なんて虫けら同然。私に勝てる訳ないのよ。さぁ、どうやって可愛がってあげようかしら…」


動きを封じられた新之助に近寄り、胸ぐらを掴むと、拳で二発、三発と殴り始め、抵抗の出来ない新之助は、不気味な笑みを浮かべた白虎になす術がなかった。


白虎 「愉快だわ!私たち逆らうとどうなるか、思い知るがいいっ。それと、そこに隠れている"弓矢の坊や"。早く逃げないと、次はあなたがやられる番よ!」


甚八 「ひ~、どうしよう…」


新之助 「甚八…逃げろ…」


白虎 「まだ喋る元気が残っているようね?その減らず口を黙らせなきゃね!」


新之助 「ぬぁぁっ!」


せいきち (ヤバい…このままでは新之助が殴り殺されてしまう。こんな時、家康様ならどうする?教えてくれ…ソハヤノツルギよ!…ん?そうか、その手があったか!)


白虎 「そろそろ体力も尽きてきたかしら。」


新之助 「ふ、ふざけんな…お前の打撃なんざ…効いちゃいねーんだよ…」


白虎 「可愛げのない奴ね!まだ殴り足りないようね!うらぁっ!」


せいきち 「待てっ!」


俺は立ち上がった。白虎が妖術を使うのなら、俺はサラリーマンとして鍛えられた"話術"で勝負を挑んだ!


せいきち 「白虎よ!お前、さっきから殴ってばかりでまったく刀を使わないなぁ。本当は人をまともに斬った事がないのじゃないか?それでも本当に忍なのか?ほら、俺は後ろを向いててやる。まずはその小太刀で俺を殺ってからにしろよ!」


そう、俺はまるで白虎を言葉で煽るように罵ったのだ。そして目隠しを外し、いつでも斬ってくれと言わんばかりに背を向けたのだった。ここまで見下されては白虎も黙ってはいないだろうという予想は見事に的中した。


白虎 「面白い…。死に損ないもここまで馬鹿だと笑えるわっ!いいでしょう…その首を先に頂くとするかっ!」


俺は全神経をもう一度白虎だけに集中させた。迫り来る白虎の闘気が簡単に感じ取る事ができた。俺の言葉に煽られ油断した白虎は闘気を剥き出しのままだったのだ。そして、左右から俺の首を目掛けて小太刀の風を切る音がしたその時…!俺は天高く白虎の頭上へと飛び上がった。


『神道極一刀流、雷公一刀斬!!』


『ズバーーーンッ!!!』


白虎 「ぐあぁぁぁっ!」


紙一重ではあったが、白虎へと渾身の一撃を加える事に成功したのだった。だが、またしても俺は無意識のうちに持ち手を返し峰打ちでの攻撃へと変えてしまったため、強打を与えたとはいえ、また白虎が起き上がるのではないかと焦りも感じていた。


白虎 「うぅぅぅ…。貴様…よくも…この私を…。」


かなりの損傷を与えたものの、白虎はゆっくり震えながら立ち上がろうとしていた。しかし、俺を見る目には妖術で動きを止めるほどの眼力が残っていないのも事実だった。


せいきち 「ここからは小細工なしの真剣勝負だな。いざっ、尋常に勝負だっ!」


立ち上がった白虎の懐を目掛け、俺は飛び込んで行った。


『ギシギシッ!』


白虎も必死に抵抗し、つばぜり合いの小康状態が続いた。


せいきち 「お前も大上に対する"忠誠心"で動いているのか?」


白虎 「親も身寄りもない私に幕府は何をしてくれた?路頭に迷い、行き倒れしそうな私を大上様は救いの手を差しのべ育て上げてくれた。それだけでも十分だ!」


せいきち 「だが、大上は菊姫をさらい、仲間を捨て駒のようにしてきたのだぞ?」


白虎 「死は元より覚悟の上…。」


せいきち 「簡単に死ぬなんて言うじゃないっ!いいか?理由はどうであれ、主君が人の道を踏み外そうとしているんだ。それを正してやるのも家臣としての務めではないかっ!」


白虎 「お前風情に何が分かる!これも忍として与えられた定め!」


せいきち 「いい加減…目を覚ませーっ!」


『ガキンッ・・・バシッ!』

二本の小太刀を弾き飛ばした俺は、白虎の頬に平手打ちを入れた。


せいきち 「白虎さん…、俺はこの時代に生きる者ではないから、掟とか定めとか…そんなのよく分からないけど、いつの時代でも命を粗末にしてはいけないと思うんだ。確かに、大上に救われた命だと言われれば否定はしない。だったら今度はあなたが誰かの為に救える命だってあるんじゃないでしょうか?今度はあなたが人を救う番です!」


白虎 「・・・私に、何ができるのです?こんな姿で馬鹿にされるのが目に見えてます。」


せいきち 「信じてもらえるか分かりませんが、俺は今から四百年先の未来の日本から来ました。四百年後の日本には、あなたのような身体は男性でも、女性の心を持った方が沢山います。恥じる事なく、"これが本当の私なんだ"と、堂々と生きています。全ての人があなたを受け入れてくれるのには時間が掛かると思いますが、それでも、あなたらしく生きて欲しいと俺は願っています。白虎さん…、あなたはとても美しいのですよ。」


白虎 「・・・私の正体を知って、美しいなんて言ってくれたのはあんただけだよ…。」


せいきち 「これ以上、俺はあなたを責めたりしない。幕府に突き出す事もしない。だから、もう人を傷付けたりする事は止めて、あなたの新しい人生を取り戻して下さい。」


白虎 「・・・菊姫は、阿弥陀ヶ峰にいる。」


せいきち 「阿弥陀ヶ峰…?」


白虎 「だがそこには"青龍"と"朱雀"が待ち構えている。青龍は大太刀の使い手。朱雀は妖刀の使い手とか…。私に分かるのはそれだけです。」


せいきち 「ありがとう。必ず菊姫を救いだし、大上の目も覚まさせる!」


俺は白虎を許した。これまでの罪を認め、これからは人の為に生き、そして自分の生きる道を悟ったと思えたからだ。きっと白虎なら一からやり直せるはずだから…。

そして俺は新之助と甚八を連れ、宿へと帰ることにした。


新之助 「おい甚八、すまぬが肩を貸してくれないか?俺もせいきちもぼろぼろだぁ。」


甚八 「はい!早いとこ宿に戻って手当てしましょう。」


新之助 「せいきち、いいのか白虎の奴を逃がしちまって?」


せいきち 「いいんだ…。そもそも俺に人を裁く事なんてできないんだ。」


新之助 「なに格好つけてんだよ!あそこまで女を痛め付けてた奴が!?」


せいきち 「あいつ、男だよ。さっきまでは!」


新之助 「おっ…男なの!?さっきまでとは、いったいどういう事なのだ?」


せいきち 「忍として生きるには男でいなければならなかった…て事かな。でも、明日からは女として自分らしく生まれ変われるんだよ!」


新之助 「そっかぁ。そういう奴がいてもいいのかもな!」


せいきち 『人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し』


新之助 「なんだその言葉は?」


せいきち 「いや…なんか知らないけど、頭の中に浮かんできた言葉!」


新之助 「ふ~ん、やっぱりお主の中にはあの方がいるのだな!」


せいきち 「あの方?」


新之助 「そのうち分かるさ!さあ帰ろうではないか!」


忍四人衆の一人である白虎を倒し、お菊殿の居場所も聞き出す事ができた。

白虎が最後に教えてくれた"青龍"と"朱雀"の存在が気掛かりではあるが、何よりもお菊殿の無事が分かった事に俺は安堵していた。今は一刻も早く傷を癒し、新たな戦いに備えなくてはならない…。

今回の戦いで俺はふと自分の生きる時代とこの江戸の時代が重なっていると感じた。毎日、会社に行っては上司や取引先に頭を下げ、時には嫌な事でも言いなりになるしかない…。自分を偽らなくてはならないのだ。現代が江戸の世なら、きっと俺たちサラリーマンは武士(もののふ)と言えるのかもしれない。


第六章 ~女心と忠誠心~

終わり


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