第五章
第五章 ~悲壮~
村人を救出し、そこで戦った坂田八雲の兄である坂田青雲から仕入れた情報を元に、俺たちは大上最善の隠れ家を目指し、ひたすら歩き続けていた…。
新之助 「けっこう歩いてきたが、まだ、目印の神社とやらには出くわさないなぁ。」
せいきち 「仕方ないさ。こんな人里離れた山道だ。敵に遭遇しないだけでもマシなんじゃないか?」
新之助 「そりゃそうだが…、ん?甚八は先程から何をしているのだ?」
甚八 「はい、私には剣術も腕力もありませんから、いざって時のために弓矢を拵えているのです。なぁに以前立ち寄った町で、弓道とやらを見た事がありましてね。見様見真似ですが武器になると考えました。こう見えて私は手先だけは器用なんです!」
せいきち 「どうりで先程から枝を拾い集めていたんだ!休憩中も何かしてると思ったら弓矢を作っていたのかぁ。」
新之助 「頼りにしてるぜ相棒!それより、少し休憩しないか?もうヘトヘトで足が棒だぞ。」
確かに、この時代の道は整備がされていない凸凹道で、ましてや人通りのない山中ともなると獣道に近い荒れた場所が多かった。岩や草木を避けて通るのも一苦労。歩いているだけで体力の消耗が激しいのは俺も感じずにはいられなかった。
すると、ちょうど目の前には今は使われていなそうな山小屋があったので、俺たちはそこで休憩を取る事にした。
腰を下ろし休んでいると、俺は床下から微かな風を感じたのだった。単なるすきま風かと思ったのだが、よく見ると一部の床が切れ込みが入っており、床が持ち上がるようになっていた。
せいきち 「新之助!これを見ろ。この床、変じゃないか?この床下には何かあるぞ?」
新之助 「持ち上げて見てみればいいじゃねぇか!どうせ何もありゃしないさ。」
俺は恐る恐るその床を持ち上げてみた。すると、そこには地下へと続く梯子が掛けられていたのだった。
せいきち 「おい、新之助!地下だ!これは何の為に掘られた穴だろうな?」
新之助 「いや分からん。こんな山奥に地下を掘る意味なんてあるのか?」
せいきち 「もしかするとこの穴はどこかへと通じているかもしれないぞ。微かだが風を感じるんだ。それと…ここに炭が落ちている。まだ新しいと思わないか?」
新之助 「何かの抜け道になっているのかもな。ちょうど焚き火の火もあるし、松明にして行ってみるか!」
甚八 「やめましょうよ~、私は狭くて暗い所は苦手なんですよ~。」
新之助 「なら甚八はここで待っているがよい。俺とせいきちで見に行ってくるから!よし、せいきち行ってみるぞ!」
甚八 「待って下さいよ兄貴~、私も行きますよ~っ!」
偶然見付けた地下へとの入り口。この先にいったい何があるのかは分からないが、真新しい炭や燃えカスなどがあることから、今も尚、抜け道として使われている事に間違いはない。無駄な寄り道とならない事を祈り、俺たちは奥へと進んで行った。
ちょうど人一人が通れるほどの広さの地下道は、崩落しないよう柱がちきんと組まれていた。地下水が滲み出て、足元は悪かったが何とか奥へと進むことができた。
しばらくすると、奥の方から一筋の光が差し込んできた。やっと出口に到着したのだと安心した。出口は草が生い茂っており、人の出入りを拒んでいるかのようだった。草を掻き分け表に出ると、俺は目を疑った。
せいきち 「まっ、まさか!」
新之助 「どうしたのだ、せいきち。熊でもいたのか?」
せいきち 「あれを見ろよ!」
新之助 「ん?おい!あれってもしかして…」
地下道から出た先には、岩壁を利用し、まるで要塞とも言える城がそびえ立っていたのだ。
甚八 「あれはいったい…?」
新之助 「間違いない…。あれこそが大上最善のいる城だ!」
せいきち 「四方を山に囲まれ、幕府の目が届かぬこんな山間に城を築いていたのか。」
新之助 「どうする?攻め入るか?」
せいきち 「もう少し側まで行ってみよう。敵の数もどれだけらいるか分からないからな。それに、下手に乗り込んで菊姫にもしもの事があったら大変だ。まずは、相手の様子を伺いながら菊姫の救出を第一としよう。甚八は敵に見付からないよう、高台からもしもの為に援護してくれ!俺と新之助は城へ行くぞ。」
城からの見張りに見付からぬよう、草木の影に身を潜めながら俺たちは少しずつ城へと近付いていった。
城への入り口である城門は一ヵ所あるのみで、その周りには警護衆が目を光らせていた。真っ正面から侵入すれば間違いなく見付かってしまう。俺も新之助も如何なる手段がないか考えていた。
新之助 「こりゃぁ、迂闊には近付けんぞ。それに上を見てみろ。あそこからも見張り役が監視しておるぞ。」
せいきち 「何か良い策があればいいのだが・・・」
新之助 「ん?誰か来たぞ!」
せいきち 「あっ、あれは坂田青雲じゃないかっ!?」
新之助 「あぁ間違いない。あいつも大上の手下だったてぇ訳だ。またあいつが戻ってきたとなると、なかなか厄介だなぁ。」
せいきち 「なぁ新之助。このまま山際を通って城の上から侵入できるんじゃないか?」
新之助 「やってみる価値はありそうだ!」
俺たちは山づたいに進み、城の一部になっている岩壁から城内へ侵入を試みたのであった。
しかし、城内へと侵入できる一番近い場所までは来れたが、俺たちの居る場所からは数メートル程の断崖絶壁を越えなければならなかった。ここまで来れたが、残念ながらこれ以上は先には進めそうになかった。そして、他の手を考えるべく引き返そうとした時だった…!
甚八 「私に良い策があります。」
新之助 「おい甚八かっ!脅かすなよ。向こうで待っていろと言っただろう…。で、何か渡れる手があるのか?」
甚八 「はい。こんな事もあろうかと、色々と準備だけはしておいたのです。」
なんと甚八が取り出したのは縄であった。そして甚八は縄の先に重りを付け、岩壁から生えている木に向かって投げ付けたのであった。
甚八 「私が一番軽いので先に向こうに渡ります。うまく渡れたらまたこちらから別の縄を投げますので受け取って下さい。そうすれば、せいきちさんも新之助さんも渡れるでしょ?」
新之助 「おいおい、そんな忍のような真似がお前に出来るのか?落ちたら命はないぞ。」
甚八 「言ったでしょ、私だってやる時はやる男っすよ!」
せいきち 「今は甚八に頼る他にない!頼むぞ!」
そう言うと甚八は、何度か縄を放り投げて見事に城へと渡ったのであった。すかさず今度はお手製の弓矢に縄を括り付け、こちら側へと弓を放った。弓を受け取った新之助は近くの木に縄を結び、そしてゆっくりと縄づたいに渡りきったのであった。俺も後に続くように慎重に縄を渡った。
俺たちは第一関門を突破したかのように、今度は城の中へと入って行ったのだった。
城と言っても岩窟を削った、云わば洞窟のような作りとなっていた。俺たちが侵入した上の階は、武器や様々な道具などが置かれた倉庫となっていた。物陰に隠れながら、徐々に下の階へと下って行った。二つ階を下った所で牢屋らしき部屋があるのが見えた。きっとそこにお菊が囚われているのだと、急いで牢へと近付いた。
新之助 「あそこに菊姫様がいるのではないか?」
せいきち 「かもしれないな。だが見張りがいるぞ。」
新之助 「任せろ!少しの間、眠って頂こうではないか。」
隙を見て新之助は見張り役の背後へと回り、あっという間に気絶させてしまった。新之助の合図とともに俺たちも牢屋へ行ってみると、そこには一人の大男が横たわっていたのだった。
新之助 「何だこいつは?菊姫ではないぞ!畜生、いったいどこに隠しやがったのだ。仕方ない、次へ行くとするか…」
せいきち 「いや、待て!確かこいつは…青雲だっ!俺たちが戦った坂田青雲だぞ!」
甚八 「間違いないです!この図体にこの格好。私が飛び付いた奴ですよ!」
新之助 「なぜ牢にぶち込まれているのだ?先ほどここへ戻ってきたばかりだというのに、どういう事だ?」
せいきち 「よく分からないが…でも、青雲は俺たちにこの城の場所を教えてくれた。心底から悪い奴ではないのかもしれない。」
新之助 「まさか、奴を助けたいなんて言わないだろうな?」
せいきち 「・・・。」
甚八 「青雲さん!青雲さん!」
新之助 「ばかっ!やめろ!また襲ってきたらどうするんだ!」
せいきち 「大丈夫だよ。俺たちとの戦いで傷を負っているし、何より青雲も誰かに操られていたのではないだろうか?」
新之助 「誰かとは?・・・まさか大上にかっ!?」
青雲 「うっ・・・お主らは。」
せいきち 「目が覚めまたようですね。どうしてあながここに囚われているのですか?」
青雲 「ふっ、ざまぁねぇよな。俺はまんまと大上最善に操られていたって事だ。お主らと弟(八雲)との戦い話しに嘘偽りがないと悟った俺は、真実を大上に問いただしに帰ってきたのだ。すると、すんなり白状したよ…。俺たち兄弟は所詮捨て駒だったってな!俺は激昂し、怒りに任せ大上に刃を向けた。が…このざまだ…。大上に一槍くれるどころか、大上の側近に熨されてしもうたゎ。」
せいきち 「そんな無茶な!俺たちとの戦いの傷が治ってもいない身体でやりあうなんて…。それで、気になるのは…その側近というのは?」
青雲 「大上の側近は三人いる。俺を倒した奴はそのうちの一人"白虎"。元々は忍四人衆だったらしいが、玄武とかいう奴は誰かに倒されたと聞いた。忍四人衆の中では一番下っ端だったらしいが、皆かなりの強者揃いだ。」
新之助 「玄武っ?おいせいきち!まさか…あの時の?」
せいきち 「だとしたら…つじつまが合うな。」
青雲 「お主ら、玄武を知っておるのか?」
新之助 「知ってるも何も、その玄武を倒したのは、ここにいる"せいきち"だっ!」
青雲 「うっ!本当かっ?お主らはいったい何者なのだ?単なる幕府の護衛役ではなさそうだな。」
せいきち 「話せば長くなるから、今は伏せておくよ。ただ俺たちは、大上に拐われた菊姫様を取り戻せなければならない。例え相手がどんなに強くても戦うしかないんだ!それがこのソハヤノツルギの持ち主である"家康公"との約束でもあるんだ。」
青雲 「家康・・・そうか、どおりでお主から"天命"を感じるはずだな!」
甚八 「さすがせいきち兄貴だ!」
新之助 「それより、大上はどこに居るのだ?」
青雲 「もうここにはいない。そもそもあの砂金発掘場も、大上どもの資金源のためのもの。もう用は無くなったのであろう。先ほど側近の白虎とともに出ていった。確か籠を引き連れていたから、その中に菊姫とやらがいたのでは?」
新之助 「今ならすぐに追い付くぞ!急ぐぞせいきち!」
せいきち 「あぁ、青雲殿もここから逃げ出して下さい。ここに居ては危険だ。」
『くせ者だーっ!!』
新之助 「マズい、見付かった!」
牢の鍵を甚八に外させ、その間に俺と新之助は次から次へと来る敵を相手にした。
『カキーンッ!ギギギッ!ズバッ!』
新之助 「よし!早いとこここから出るぞ!」
迫り来る敵を新之助は容赦なく叩きのめし、俺と甚八は怪我を負った青雲に肩を貸し城の外へと抜け出した。城門まではあと少し。だが、敵の数も増えていき、青雲を木陰に置き俺も新之助とともに戦いに転じるしか方法はなかった。一人斬りそしてまた一人斬り…、時間は掛かるが着実に敵を殲滅に近付けていった。だがその時…、
『ヒュンッ!ヒュンッ!』
上空から無数の矢の雨が俺たちの動きを止めたのであった。俺と新之助は慌てて木陰に隠れた難を逃れる事が出来たが、逆にその場から逃げる事が出来なくなってしまった。
せいきち 「マズいな…。まさかとは思うが、これは罠だったのではないか?」
新之助 「かもな。俺たちがここに来ると分かっていて、待ち伏せていたのであろう。きっと奴らも忍の端くれ。俺たちに気付かれぬよう監視されていたのかもな。どうするんだ、せいきち!」
せいきち 「…城の中へ引き返すとしても距離があるし、間違いなく狙い打ちしてくるだろうからな。それに、こんな所でぐずぐずしてたらお菊殿の行方を見失ってしまう。こうなったら一か八か…」
新之助 「馬鹿やろうっ!こんなとこで死ぬ訳にはいかないだろう!何か良い策が必ずあるはずだ。」
せいきち 「ちくしょう…お菊殿…」
『おらおらおらおらーっ!!』
せいきち・新之助 『えっ?』
なんと、青雲は荷車を担ぎ上げ、それを盾にして俺たちの元へ助けに来てくれたのだ。
青雲 「さぁ、俺の側から離れるな。このまま城門まで突っ走るぞ!」
新之助 「ったく、怪我した体で無茶しやがって…助かったよ、ありがとうな!」
青雲の機転に救われた俺たちは、城門の目の前までとやってこれた。
新之助 「あと少しだ。頑張ってくれ青雲!」
せいきち 「これでここから出れる…」
『ズダーンッ!!』
青雲 「ぐはっ・・・」
甚八 「ひ…火縄銃だ!あそこにいる奴です。」
甚八はすぐさま矢を放ち、火縄銃を構えていた敵を仕留めてくれた。しかし、玉は青雲を貫き、もう一歩も動く事すら出来ない状態だった。
せいきち 「青雲っ!!」
青雲 「行け!俺に構わず行くのだ。」
せいきち 「お前を置いて行けるかっ!一緒にここから出るんだ!」
青雲 「俺はお主の"天運"に賭けているんだ。大上を打ちのめし俺たち兄弟の仇を取ってくれ!最後にお主のような武士に出会えて良かった…。」
せいきち 「ちくしょう…」
青雲 「八雲ーっ!もうすぐお前の側に行くぞーっ!ぐはっ…」
先に逝った弟の名を呼び、そのまま青雲は息を引き取った…。
新之助 「青雲…そして八雲…。どちらも大上に利用されるだけ利用され、こんな最期になっちまうとはな…」
せいきち 「・・・」
新之助 「早くここから出るぞ!」
せいきち 「・・・」
新之助 「せいきち!何をぶつくさ言っておる。さぁ行くぞ!」
せいきち 「冗談じゃねーぞ…」
新之助 「えっ?」
せいきち 「冗談じゃねーぞ、コノヤロー!!!!」
新之助 「うわっ!どうしたのだ、せいきち?」
俺は悲しみと怒りで我を忘れ、ソハヤノツルギを握り締め敵軍の中へと突っ込んでいった。
せいきち 『うあぁぁぁぁっ!』
敵軍 「あ奴を殺せーっ!仕留めるのだーっ!」
『シャキッン!スバッ!ガキーン!ズバババッ!』
新之助 「早い…、もはやあいつは誰にも止められん!よし、俺たちもせいきちに続くぞっ!行くぞ甚八!」
まさに電光石火となった俺は、無我夢中で斬りかかり、ここにいる全ての敵を斬り倒していった。不思議な事に、飛んでくる矢ですら俺にはスローモーションのように見え、刃を向ける敵はまるで動かぬ人形のように見えたのだった。
せいきち 『なぜ、青雲を殺した?なぜ、人を騙すような真似をする?それがお前たちのやり方なのかっ?それがお前たちの正義なのかーっ!!ふざけんじゃねーぞっ!』
俺の怒りは頂点に達し、目の前の敵を全て斬り倒していた。
せいきち 「はぁはぁはぁ…」
新之助 「すごいな…、これ程までの力があるとは…。もはや、生き残りはおらんであろう…」
甚八 「…ん?新之助兄貴!こりゃ驚きですよ!皆、腕や脚、腹を斬られていますが、致命傷にはなっていませんよ!一人も死んでなんかいないです!」
新之助 「なにっ!本当か?」
せいきち『 人は負けることを知りて、人より勝れり。』
新之助 「せいきち…その言葉は…」
せいきち 「青雲…、お主の身体は敗れてしまった…だが、魂は滅んでなんかいないぞ!お主の渇望は、しかと拙者が心得た!必ずや、坂田兄弟の仇を取ってくれようぞ…」
甚八 「せっ、せいきち兄貴の声じゃありませんよ!」
新之助 「まさかっ…!?」
せいきち 「城の外に青雲を連れていこう。俺たちに出来るせめてもの気持ちだ。どこかに弔ってやらなくてはな…」
荷車に青雲を乗せ、俺たちは城を後にした。しばらくすると、町を見渡せる高台の開けた場所へとやってきた。俺たちはここを青雲の休息の地とした。
新之助 「ここは眺めもいいし、町を見下ろせるから寂しくなくて丁度いいだろう。なぁせいきち?」
せいきち 「あぁ。今頃は八雲と酒でも酌み交わして語り合っているんじゃないかな。」
甚八 「そうだと良いですね。」
新之助 「それより、せいきち。坂田兄弟の仇を取るって言ってたが…?」
せいきち 「えっ?俺、そんな事を言った覚えはないぞ。」
新之助 「やはりな!」
せいきち 「どういう事?」
新之助 「いや、やはりせいきちには強い味方が付いているのだな~って思ってさ。」
甚八 「せいきち兄貴に強い味方?新之助兄貴じゃないんですか?」
新之助 「違うよ…家康様だよ!」
甚八 「はっ?家康様?あの、徳川家康?」
新之助 「甚八は分からなくていいんだ!」
甚八 「えーっ、教えて下さいよ~。」
墓石代わりには、青雲の体と同じように大きめの石を探し、そして、俺たちから一輪ずつリンドウの花を手向けた。
青雲もまた偉大なる武士の一人であった事は、ここにいる俺たちが引き継いで行くであろう…。
第五章 ~悲壮~
終わり




