第二十四話「古の箱舟」.3
「この船を使えば、アルヴァスの人たちはこの星を脱出して、クワハウの星まで行けるんじゃない?」
――ああ、確かに。
埃の被った艦長席を払うルミスに、ボクらの視線が向けられた。
もしもアルヴァスがクワハウの友として生きることをこれからも選ぶなら、些細なきっかけで帝国と対立しかねない。
そして、今も広がりつつある帝国の轍は、すでに目前にまで迫っていた。
種族としての独立を保ち続けるのなら、いずれ対立は避けられない。
〈魅力的な話ではあるが、わらわの一存では決められぬよ。それに、多くの者がクワハウの影を追いかけはするものの、この生まれ故郷を捨ててまで、とはいかぬさ〉
『クワハウ人は結構住み慣れた土地をホイと捨てられちゃうけど、普通はなかなか難しいよね』
パネルも埃を被って久しい。いくつかスイッチを押してみるが、反応はない。
この船を残してクワハウ人の痕跡が消えているのは、きっと彼らはこの船をあえて残した。
『アルヴァス人が星外に向かうときの、手助けになればと思って遺したのかな』
〈そもそも、我らアルヴァスは技術の変化を拒んだ者たちであるぞ。ただここに、いらぬからと残していっただけであろうよ〉
『でも、待っててくれているって思ったほうが、嬉しくない?』
少し無茶な論法かと思うけれどそのほうが気分はいい。
「そういえば、ルミスのご両親は、別のアルヴァス人の村に向かったのよね」
〈ああ。さすがに帝国の動きが目立ってきたからの。今後の対策を相談しにいった。かれこれもう、半年ほどになるかの〉
『そんなに遠いの?』
〈そなたらのような移動手段を持っておらんからの、基本的に自ら走るか、獣の背に乗るばかりよ。集落を二つ三つ回ろうとすれば、そのくらい時間はかかるものよ〉
アルヴァスの集落は最初に降り立った森から離れた場所にも複数存在する。その中で、ルミスの集落は帝国の領地に最も近く、影響も受けやすい。
他の集落は直接的な接触はなくとも、いずれ時間の問題であろう。
「この船があれば、ご両親の選択肢も増えるんじゃない?」
〈なくて嘆くより、あって悩むがよしか〉
『もっとも、動かす前に掃除しないといけないだろうけどね』
歩いているだけで埃が立ってしまう。動力炉も動かさなければ、メンテナンスロボットたちも沈黙したままだ。
無事動けるとわかったなら、確かめるべきことがあった。
『この船で、何隻の艦隊を相手にできるかな』
その問いは、文章にしてみたけれど、表示はできなかった。代わりに、ホチャーにだけは伝わった。
【私の計算では、この艦の動力源がアクシャハラ・リアクターであり、推定戦闘能力を十全に発揮できたのだとしたら、衛星軌道上艦隊に、この船は無傷で勝利します】
『敵に援軍が来たとしたら?』
【敵艦隊総数を現在の倍で計算した結果を踏まえての報告です】
その言葉に、ボクはため息をつくことしかできなかった。
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